見出し画像

夫婦間の子ども連れ去り事件

こんにちは。

 親が子どもを連れ去った場合に、誘拐罪が成立するのか。過去には、別居中の妻の家に住んでいた2歳の娘を、夫が連れ去った場合に誘拐罪が成立したことがあります。

 さて今日は、妻の下で暮らしている子どもを連れ去ったことが問題となった2つの「夫婦間の子どもの連れ去り事件」(最判平成6年4月26日、最判昭和56年11月19日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 別居中の夫による子の連れ去り事件

 妻は、歯科技工士の夫が家事などに協力してくれないことに不満を持ち、夫婦仲が悪くなったことから、娘2人を連れて実家に帰ってしまいました。ところが、夫は小学校付近で、登校してきた娘たちを車に同乗させて、自分の家に連れ帰ってしまいました。そのため妻は、「子どもたちが地元の小学校に通学し、教育上十分に配慮の行き届いた安定した生活を送っていたところ、夫の家に移るとこれらがすべて失われること、子どもらの気管支ぜん息が実家に来ると改善されたが、夫の住む地域は環境的には子どもらの気管支ぜん息を悪化させるおそれがあること、子どもたちは幼く母親の監護が必要なこと、夫よりも妻の監護の下に置かれる方がその幸福に適すること」などを理由に、裁判所に人身保護法に基づいて娘の引渡しを求めました。

2 最判平成6年4月26日

 子どもたちが夫の下で看護されると、環境的にみてその気管支ぜん息を悪化させるおそれがあるというにとどまり、具体的にその健康が害されるというものではなく、または、その余の事情も、子どもらの幸福にとって相対的な影響を持つものにすぎないところ、夫、妻とも、子どもらに対する愛情に欠けるところはなく、子どもらは夫の監護の下になっても、学童として支障の無い生活を送っているというのであるから、子どもらの夫による監護が、妻によるそれに比してその幸福に反することが明白であるということはできない。
 よって、妻の請求を認めた原判決は破棄を免れず、改めて審理判断させるのを相当と認め、原審に差戻す。

3 元夫による子の連れ去り事件

 夫婦が離婚し、夫が娘の親権者となったものの、娘は妻の実家で生活しており、実質的に妻が監護養育者となっていました。ところが、元夫は、妻の実家に侵入し、暴力をもって娘を連れ出して、兄夫婦のところに娘を預けていました。その後、大阪家裁で、娘の親権者が元妻に変更され、「元妻に娘を引き渡せ」との判決が確定しましたが、それでも元夫が娘を引き渡さなかったことから、元妻は裁判所に対して人身保護法に基づいて娘の引渡しを求めました。

4 最判昭和56年11月19日

 親権者である元妻に対して娘を引き渡すことが明らかに娘の幸福に反するものとは認められないから、元夫らの娘に対する拘束が権限なくされていることが顕著であるとし、元妻は元夫らに対し人身保護法により娘の引渡しを請求することができるとした原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。
 よって、元夫らの上告を棄却する。

5 子の引渡し調停・審判

 今回のケースで裁判所は、別居中の夫による子どもの連れ去りに関しては、子どもの拘束の違法性が顕著な場合に限り人身保護請求が認められるとし、監護権のない元夫による子どもの連れ去りに関しては、原則的に子どもの拘束に違法性があるとしました。
 現在では、家事事件手続法による子の引渡し調停または審判が活用され、人身保護請求自体は減っているようです。しかし、不当な子の拘束という緊急性の高い場合には、引き続き人身保護法が活用される可能性もあるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?