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Shall we ダンス?事件

こんにちは。

 今日は、ダンスの著作権が問題となった東京地判平成24年2月28日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 全日本ダンス選手権で3年連続で優勝するなどの実績をもつ、わたりとしおさんは、『映画「Shall we ダンス?」のダンスシーンで用いられたダンスの振り付けを創作しました。ところが、角川映画株式会社が、映画DVDの販売・レンタル、テレビ放送などの二次利用をしていたことから、わたりさんは、著作権侵害を理由に角川映画に対して二次使用料として5300万円の支払いを求めて提訴しました。

2 東京地方裁判所の判決

 社交ダンスとは、競技ダンスとパーティーダンスを含む概念である。競技ダンスは、ダンスのステップを適宜自由に組み合わせて踊り、その技術の高さを競い合う競技であり、モダン5種目とラテン5種目のダンスから成るものである。パーティーダンスは、パーティーなどにおいて即興で踊られるダンスで、原則として、基本的なステップをつなげて踊られるものである。パーティーダンスでは、ブルース、スクエア・ルンバ、マンボ、ジルバ等のダンスも踊られる。 社交ダンスには、様々なステップがある。社交ダンスの基本となるステップは、Imperial Society of Teachers of Dancingが発行する社交ダンスの教科書である「The Ballroom Technique」や、ISTDのラテン・アメリカン・ダンス委員会が監修する各ラテン種目の教科書などに掲載されている。また、基本ステップ以外にも、メダルテスト、競技会、デモンストレーション等で広く一般に使用されるようになったステップも数多くあり、このようなステップの一部はISTDの元会長が著作した「ポピュラーバリエーション」に掲載されており、これに掲載されていないステップも数多くある。社交ダンスは、原則として基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであるが、競技ダンスでは、基本ステップを構成する諸要素にアレンジを加えて踊ることは一般的に行われており、また、ある種目の基本ステップを、種目を超えて用いることも一般的に行われている。さらに、他の種類のダンスの動きを参考にするなどして、既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れ ることも行われている。 社交ダンスの振り付けとは、このような既存のステップを選択して組み合わせ、これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことをいう。
 わたり氏は、本件映画のダンスシーンで用いられた本件振り付けを考案し、わたり氏自ら、又は他のダンス教師を通じて、役者らに上記振り付けを教授し、役者らは、上記振り付けをそれぞれのダンスシーンで演じた。
 本件映画は、アマチュアの社交ダンスを題材とした映画であり、わたり氏が考案した本件振り付けに関連する映像が現れるシーンは、ダンス教室での レッスンのシーン、ダンスサークルのダンスパーティーのシーン、ダンスホー ルでのダンスのシーン、アマチュアダンスの競技会のシーン、ブラックプールでの競技会のシーン及びダンスホールでのダンスパーティーのシーンである。
 社交ダンスが、原則として、基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであることは前記のとおりであり、基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは、ごく短いものであり、かつ、社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから、これらに著作物性は認められない。また、基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり、前記のとおり基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと、基本ステップにアレンジを加えたとしても、アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは、基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない。社交ダンスの振り付けにおいて、既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあることは前記のとおりであるが、このような新しいステップや身体の動きは、既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め、特定の者にその独占を認めることは、本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず、妥当でない。 以上によれば、社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には、著作物性は認められないというべきである。
 社交ダンスの振り付けとは、基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ、これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには、それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。なぜなら、社交ダンスは、そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり、競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると、振り付けについての独創性を緩和し、組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると、わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し、特定の者の独占が許されることになる結果、振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは、既存のステップの組合せに加えて、アレンジを加えたステップや、既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。
 よって、わたり氏の振り付けの組合せによる著作権の主張はいずれも理由がないので、わたり氏の請求を棄却する。

3 ダンスの独創性

 今回のケースで裁判所は、既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには、それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当であり、わたり氏の振付についてはいずれも独創性がないとして、ダンスの振付の著作権侵害の訴えを退けました。
 著作権法10条1項3号には、著作物の例示として、「舞踊又は無言劇の著作物」とあり、ダンスの振付、パントマイムの振付がここに含まれるとされていますが、ありふれた振付には創作性が認められない可能性がありますので、注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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