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東京スモン事件

こんにちは。

 腸にダメージを与える食べ物として、砂糖、小麦のグルテン、乳製品のカゼインだと知って、イスから転げ落ちましたね。

 さて今日は、整腸剤を飲んで具合が悪くなった人が多数出て社会問題となった「東京スモン事件」(東京地判昭和53年8月3日判例タイムズ365号99頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 1953年に認可された整腸剤キノホルムを服用した患者たちに、下痢や運動障害、知覚異常など重篤な神経症状が現れ、この病気はスモン(subacute myelo-optico-neuropathy)と呼ばれていました。その後、スモン患者約133人が田辺製薬、武田薬品工業、日本チバガイギーらに対して、62億円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 スモン患者の主張

 新潟大学の椿教授は、患者の緑色の便から、キノホルムキレートを発見したことから、これは整腸剤による薬害である。製薬会社らは、副作用の報告などを受けていたにもかかわらず、なんらの措置を講じなかったどころか、大量販売をすることでおびただしい数の患者を出したのだ。これは、製薬会社らに、結果回避義務違反があり、民法709条の損害賠償責任は免れない。

3 田辺製薬らの主張

 スモンとキノホルムとの因果関係は認められない。スモンは、京都大学の井上教授が発見した井上ウイルスによって発症するということが証明されている。国は、後見的な立場から医薬品に関わり合いを持つにすぎないのであるから、注意義務の程度は低いはずだ。また、製薬会社も国によってその有効性と安全性が保証されていたので、製品の安全性確保については大幅に軽減されるはずだ。

4 東京地方裁判所の判決

 スモンの病因はキノホルムであり、これと併存する他の何らかの未知の原因物質に基因するものではない。ウイルスを含めて他の病因は、全立証を通じて認められない。すなわち、キノホルムがスモンの唯一の原因物質として認められるのであり、スモンがわが国において多発したのは一つに長期・大量投与に因るのである。
 製薬会社に要求される予見義務の内容は、当該医薬品が新薬である場合には、発売以前にその時点における最高の技術水準をもってする試験管内実験、動物実験、臨床試験などを行なうことであり、また、すでに販売が開始され、ヒトや動物での臨床使用に供されている場合には、類縁化合物をも含めて、医学・薬学その他関連諸科学の分野での文献と情報の収集を常時行ない、もしこれにより副作用の存在につき疑惑を生じたときは、さらに、その時点
までに蓄積された臨床上の安全性に関する諸報告との比較衡量によって得られる当該副作用の疑惑の程度に応じて、動物実験あるいは当該医薬品の症歴調査、追跡調査などを行なうことにより、できるだけ早期に当該医薬品の副作用の有無および程度を確認することである。なお、製薬会社は、右予見義務の一環として、副作用に関する一定の疑惑を抱かしめる文献に接したときは、他の製薬会社にあててこれを指摘したうえ、過去・将来を問わず、当該医薬品の副作用に関する情報を求め、より精度の高い副作用に関する認識・予見の把握に努めることが要請されるのである。
 製薬会社は、予見義務の履行により当該医薬品に関する副作用の存在ないしはその存在を疑うに足りる相当な理由を把握したときは、可及的速やかに適切な結果回避措置を講じなければならない。この結果回避措置の内容としては、副作用の存在ないしその「強い疑惑」の公表、副作用を回避するための医師や一般使用者に対する指示・警告、当該医薬品の一時的販売停止ないし全面的回収などが考えられるのであるが、これらのうち、そのいずれの措置をとるべきかは、予見義務の履行により把握された当該副作用の重篤度、その発症頻度、治療の可能性に加えて、当該医薬品の治療上の価値、すなわちそれが有効性の顕著で、代替性もなく、しかも、生命・身体の救護に不可欠のものであるかどうか、などを総合的に検討して決せられなければならない。
 スモン患者らの製薬会社に対する請求は理由がある。よって、製薬会社は患者らに対して、約32億円を支払え。

5 薬事法の改正へ

 今回のケースで裁判所は、整腸剤キノホルムの副作用で神経が麻痺し、歩行困難や失明に至る患者が相次いだことについて、製薬会社らの過失を認めて、スモン患者たちに損害賠償義務があるとしました。
 この裁判では、国には責任がないとされたことから、1979年に当時の薬事法が改正され、国には医薬品の有効性・安全性を確保する義務があると明記されるようになりました。当時の集団訴訟が今の日本のあり方を方向付けたと言っても過言ではないでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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