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ヤクルト容器事件

こんにちは。

 ヤクルトの容器とベニヤ板、グルーガンを使って、毛糸収納棚をDIYで完成させた動画に感動してしまいましたね。

 さて今日は、ヤクルトの容器の商標登録が問題となった「ヤクルト容器事件」(知財高判平成22年11月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 乳酸菌飲料「ヤクルト」を製造販売する株式会社ヤクルト本社は、ヤクルトの包装容器について立体商標として商標登録の出願をしました。ところが特許庁から拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判でも請求不成立の審決を受けたことから、ヤクルトが特許庁を相手に審決取消訴訟を提起しました。

2 ヤクルトの主張

 商標法3条2項により登録できるはずです。この容器は、有名なデザイナーによってデザインされたものです。飲みやすさ、持ちやすさ、自動包装機への適応性などの機能性が重視されたシンプルな形ですが、乳酸菌飲料の容器としては斬新なものです。また、男女5000人を対象としたアンケート調査でも、98%以上がこの形の容器を見れば「ヤクルトを想起する」と回答しています。我が社は多額の広告費用をかけてこの商品を宣伝してきたので、もし商標登録が認められず他の会社がこの容器をマネして販売できるとすると、多大な損失を被ります。

【商標法3条2項】
前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

3 特許庁長官の主張

 ヤクルトの容器に類似した商品が多数存在し、これに何らの処置もしていないことからすると、買い物客は「Yakult」か「ヤクルト」の文字部分で他の商品との区別をするのであって、立体的な形状で他の商品との区別をしているのではないことになる。だから、立体商標の登録はできないのだ。広告では、立体的な形を消費者に印象づけるような宣伝を行なっておらず、むしろ乳酸菌飲料「ヤクルト」の商品自体を広告宣伝しているにすぎないじゃないか。

4 知的財産高等裁判所の判決

 ヤクルトの商品は、昭和43年に販売が開始されて以来、驚異的な販売実績と市場占有率とを有し、毎年巨額の宣伝広告費が費やされ、特に、問題となった容器の立体的形状を需要者に強く印象づける広告方法が採られ、発売開始以来40年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され、その間、その容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず、最近のアンケート調査においても、98%以上の需要者がこの容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点などを総合勘案すれば、平成20年9月3日に出願された商標については、審決がなされた平成22年4月12日の時点では、この容器の立体的形状は、需要者によってヤクルトの商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。
 またインターネット上の記事から認められる重要な事実は、特許庁が主張するような『乳酸菌飲料の容器はヤクルトの商品も含めどれも皆似たようなものだ』という漠然としたものではなく、むしろ乳酸菌飲料の容器にはヤクルトの容器と酷似した模倣品が数多く存在するとの需要者の認識であって、この事実は、類似の形状の容器を使用する数多くの他社商品が存在するにもかかわらず、需要者はそれら容器の立体的形状はヤクルトの容器の模倣品であると認識しているということを示していると認められるのであって、それは、ヤクルトの容器の立体的形状に自他商品識別力があることを強く推認させるというべきである。
 よって、ヤクルトの審決取消しの請求を認める。

5 形状使用の先駆性と著名性

 今回のケースで裁判所は、ヤクルトの容器の立体的形状が需要者の間に広く知られているので、他の類似商品に対する排除措置を執っていなくても、立体商標登録が認められるとしました。
 文字情報がない包装容器だけにも立体商標が認められることから、これまで使えた立体形状がある日突然使えなくなる可能性もありますので、十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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