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離婚原因がエホバの証人事件

こんにちは。

 法律学の世界では、「夫婦は感情に始まり、勘定に終わる」と言われています。実際上、裁判所で離婚が認められるためには、離婚事由が必要となります。

【民法770条】
① 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
② 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

 今日は、離婚裁判で争われることが多い民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」を考えるにあたって、「離婚原因がエホバの証人事件」(大分地判昭和62年1月29日判例タイムズ630号188頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 社内結婚をした夫婦の間には2人の子どもがいましたが、お盆に夫の実家に帰ったときに、夫の父親から嫁としてあれこれと注文を付けられたりしたことをめぐって紛糾し、妻は精神的な不安から逃れるために姉が信仰していた「エホバの証人」に入信するようになりました。
 夫はエホバの証人について、職場の同僚が妻の勧誘活動に困惑したということを聞いたのみならず、正月、雛祭、七夕などを拒絶し一切行わず、隣近所の冠婚葬祭の付き合いもしないことに嫌悪感を抱いていました。
 このような生活を続けているうち、夫もついに我慢出来ずに、エホバの証人から遠ざけようと妻を殴ったり、帰宅した妻と子どもを自宅に入れなかつたり、長男を連れて夫の実家へ帰り、妻と次男と別居するようになったりしました。
 やがて夫から離婚調停の申立がなされたが、妻が離婚に反対したため、夫は離婚を求めて裁判所に提訴しました。

2 夫の主張

 妻は、エホバの証人の集会や奉仕活動に幼い子ども2人を連れて行き、その帰りは冬でも夜10時を大きく回っていました。私が午後7時過ぎに帰宅しても、1人で夕食を準備して食べることも度々であったし、風呂もいつも沸かされていなかった。私は妻に、集会などに出かけるのを控えるように何度も求めたが、妻は、多く参加するほど霊的に成長するとして耳を貸さず、子どが熱を出しても少々のことでは連れて出るし、私が子どもが怪我しているので家へ居てくれと頼んでも、それを押し切って、怪我した子どもを私に預けて集会に出かけたのです。
 私は妻と何度も話し合ったが、妻はただ自己の行動の正しさを主張するのみだった。だから、夫婦としての愛情と意思の疎通を全く欠いており、婚姻を継続しがたい事由があります。

3 妻の主張

 私は、主婦として仕事をおろそかにしない範囲内で宗教活動に参加してました。子どもの具合が悪いときには、まず医者に見せてその許可がでたときにのみ集会に連れて行ってたので、決して病気の子を無理に同伴させたことはありません。宗教活動は家庭を犠牲にしたものではないので、これを理由として離婚を求めるのは根拠のないことです。私は夫を愛しています。エホバを学んで夫への愛情は一層強まりました。努力すれば一緒に暮らせます、今後は夫に従います、夫の実家で生活してもよいです。

4 大分地方裁判所の判決

 夫婦間においても信仰や宗教活動の自由が保障されており、これを尊重すべきであるが、他方、この様な専業の主婦と夫の間においては、その妻は、家事労働に従事することは当然として、加えて、夫と共に配偶者や家族全体が平穏に安心した家庭生活が出来るように精神的融和を図り、更には親族、知人、近隣の人達との付き合いを円滑にするように努めるべき、いわゆる夫婦間の協力義務を負うのである。従って、宗教活動もこの協力義務により、自ら一定の限度が存するもので、その限度を超えるような宗教活動等を行い、夫や家庭を顧みない場合には、協力義務の観点から、夫婦関係を継続し難い重大な事由が存すると解するを相当とする。
 妻は、夫や家庭よりも宗教活動を第一義的に考え最優先させようとするものであり、しかも、妻は信仰を絶ち難く、宗教活動を中止する意思は全く伺われない。他方、夫にとっては、妻の信仰の対象を嫌悪し、その宗教活動を不愉快と感じているのであるから、妻との夫婦生活が精神的に絶え難いことは明白であり、夫にとっては、妻が信仰を辞めることが婚姻生活を継続するための必須の条件である。これらの状況に照らすとき、夫と妻との婚姻は、もはや継続し難い程度に破綻しているものと認めるのが相当である。
 よって、夫婦の離婚を認める。

5 他にもあるエホバの証人離婚裁判

 今回のケースでは、裁判官も、夫婦関係が改善される見込みがないと判断し、夫婦の離婚を認めるに至っています。この事件以外でも、妻がエホバの証人を信仰していて、その信者でない夫との間で離婚裁判に発展した事件があり、ここでも離婚が認められています(例えば、名古屋地判昭和63年4月18日、東京高判平成2年4月25日、大阪高判平成2年12月14日、広島地判平成5年6月28日、東京地判平成9年10月23日)。

 信仰が離婚事由になることを認めた裁判があったということを知っていただけたらと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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