あなたは日本で何をしてますか (随筆同人誌「流星」2022年11月掲載予定)

私は深夜にアルバイトをしている。子供達が眠っている間に働けるのはとてもありがたい。しかも、内容は運搬。倉庫の中で重い荷物を運ぶ。スポーツジムへ入会してもいつも3日坊主。ジムへ行ったとしても、大抵は気が乗らないので、お風呂にだけ入って帰ってくるような豆腐のようなメンタルの私。お仕事の中で強制的に体を鍛えさせてもらえるこの運搬の仕事は、長生きしてみたい私にとってとても重要だ。

その職場では沢山の外国人と働いている。昨日は、最近入ってきた西アフリカからの留学生の男性に話しかけられた。

「日本語大丈夫ですか?」

「はい。ちょっとだけ。」

私は謙虚に答えた。

「私はメンサと言います。日本の湿度は高すぎますね。大丈夫ですか?」

「はい。今のところ何とか大丈です。メンサさんは大丈夫ですか?」

「あまり大丈夫じゃない時もあります。 私は大学院で、砂漠でもハウスで野菜を効率的に栽培する仕組みを研究してます。日本の夏はハウスの中よりハウスの中みたいね。」

「確かに。」

「あなたは日本で何をしてますか?」

難しい質問が来てしまった。私が日本にいる理由なんて考えた事が無かった。私は何をしている人なんだろう。

「えーと、何とか生きています。ここで働きながら体を動かして、絵を描いたり、詩を作ったり、物語を書いたりします。子どもたちにお料理を作ったりもします。私って何でしょうね。」

「はははは!あなたは日本人!」

「はい。一応日本人です。」

「日本人ぽくないな。」

「どこがですか?」

「そうだな、何でだろう。」

その時、荷物がどっと流れてきた。私達は手でさようならをして、大量の荷物の入った籠をそれぞれ別のトラックの方へ運んで行った。

誰も疲れが出てくる明け方4時過ぎ。私は、新人のベトナム人の隣で作業していた。彼が作業に必要な資材を使い切っていた。そこで補充してあげると、

「カ ムン!」(ベトナム語のありがとう)

と言った。まだあどけない可愛い笑顔。私を同胞と見ているようだった。ベトナム語で返したかったが、出来ないので日本語で答えると、

「ニホンジントワカラナカッタ。オカアサンミタイ。」

と言った。何となく、私は日本人にしてはお節介な人のようだ。

毎日終業時、日本人社員が名前を読み上げながら、タイムカードを配っていく。

「ファム、ブイ、山下さん、佐藤さん、ケツ、アリフ、鈴木さん、リャド、シャディク・・・。」

少しだけモヤモヤ、ザワザワとしてきた。無意識的になのか、やはりどこか区別しているようだ。

「ナヤナ、ザン、元木さん、ヒエン・・・。」

やはりモヤモヤする。私のお節介が発動しそうな予感がして来た。私なら空気読めないキャラクターで言えるのだろうか。

「名前を読み上げる時、なぜ日本人にしか『さん』を付けないのでしょうか。」

私に出来る事はこういう事なのかもしれない。

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