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問題1 定型約款の拘束力

第1 設問前段について

1 X・Y間で定型約款(民法548条の2第1項)として合意が成立していれば、毎月トナーとコピー用紙1万枚の購入について義務づける条項があることから、Xは拘束される。そこで、まず定型約款といえるかが問題となる。

2この点につき、定型約款(民法548条の2)が成立するための要件は、①定型取引において用いられるものであり、②契約の内容とすることを目的として特定の者により準備された条項の総体であることである。①の「定型取引」に当たるか否かの要件は、aある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であり、bその内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものであることである。

3本件において、リース契約および本件保守契約はコピー機を日常的に利用したいと考える不特定多数の顧客を対象として、それらの顧客の個性を問わずに一律に締結される契約である。そのため、相手方の個性に着目して締結される契約ではないといえる(a充足)。そして、これらの契約は顧客ごとに交渉し内容を変更するものではなく、契約相手方が交渉を行わずに一方当事者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れることが合理的であるといえるものである(b充足)。

  よって、定型取引にあたる(①充足)。

  次に、一方当事者Yが複数の条項を掲載した約款をあらかじめ準備しており、これをXに対して、「本契約の詳しい内容は約款に定められております。・・・後でご覧になってください」と述べていることから、「契約の内容とすることを目的として」いるといえる(②充足)。

4したがって、X・Y間には定型約款といえる。

5みなし合意について

(1) 次に、Xにはみなし合意(民法548条の2第2号)があったといえるか問題となる。

(2) この点につき、同条2号は、定型約款を準備した者が「その定型約款を契約の内容とする」旨を相手方に表示していた場合にも、相手方の定型約款に含まれる個別条項への合意があったとみなされる。

(3) 本件では、XとYがコピー機のリース契約と保守契約という定型取引を行う旨の合意をしていたことを前提として、Yの「本契約の詳しい内容は約款に定められております。・・・後でご覧になってください」と伝えているため、Xが定型約款による内容について異議をとどめずに契約締結をしている以上は、黙示の合意があったといえる。

(4) よって、Xにはみなし合意が成立し、定型約款の合意が成立するため、毎月トナーとコピー用紙1万枚の購入の義務に従う必要がある。

6みなし合意の例外規定

(1) もっとも、みなし合意が成立していたとしても定型約款内の個別の条項の内容によってはみなし合意が例外的に否定することができる(民法548条の2第2項)。

(2) 同条2項の趣旨は、定型約款に紛れ込んだ不当条項や不意打ち条項を契約から除外する点にある。そして、その要件は①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であり、②その定型約款の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものである。

(3) 本件において、毎月トナーやコピー用紙を購入させるという条項の内容、および最低1年間の契約期間を定め、途中で解除する場合には違約金を課すという条項の内容は、Xに対して毎月の費用の負担を強制的に強いられるものであり、自由にトナーやコピー用紙を購入する権利を制限するものである(①充足)。次に、トナーとコピー用紙を毎月購入することを義務づける条項、および最低契約期間1年を定め、解約した場合に違約金を課す条項は、Xにとって予測し得ない条項であり、毎月トナーとコピー用紙1万枚を購入しなければならない正当な理由がYにはなく、毎月の負担がXにとっては重いといえる。よって、事前に毎月トナーとコピー用紙1万枚の購入があること、および1年間以内に解約した場合には違約金がある旨の不利益について何ら説明なく、Xに予測し得ない条項を課すことはYの契約締結における信義誠実の義務に反し許されない行為であるといえる。

(4) したがって、Xは548条の2第2項によりみなし合意を否定することができることから、毎月トナーとコピー用紙1万枚の購入の義務に拘束されない。

第2設問後段について

1XはYから契約解除(民法545条1項)するには最低1年間は契約することとされているが、これを否定して解除権を行使することができるか問題となる。

2この点につき、定型約款の条項を否定して契約解除するためには、定型約款を変更する必要がある。そこで、民法548条の4によれば、「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」(同条1項2号)には、定型約款準備者は個別に相手方と合意をすることなく定型約款の内容を変更することができる。同2号の趣旨は、定型約款準備者の不当な条項により、相手方がその条項から解放させ保護する点にある。

3本件では、Xが最低1年間契約の解除をすることができないとすると、最低でも12回のトナー購入とコピー用紙12万枚を購入しなければならずその負担は重い。そのため、変更の必要性は高いといえる。そして、その条項をいつでも解除することができるとすることで合理的に解除することができるといえる。

4したがって、Xは定型約款を変更し、契約解除(民法545条1項)することができる。

以上


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