信長降臨

直接寺と電話対応したのは、母と妹だった。肝心な時に自分が役立てなかったという悔しさもあり、イライラが最高潮だった私は、母や妹に「なんでなんで??」と詰め寄ってだいぶ怖がられた。

「お墓に名前が書いてあるからそこに骨を納めなければならない、という説明では納得いかないんだけど。。。生前の契約だからとでも言うのかね?金払うのはこっちで、こっちが嫌だって言っているんだけど、なんかおかしいの?そもそもおじいちゃんが亡くなったの30年以上前だし、おばあちゃんが亡くなったのも20年以上前だよね?お父さんが認知症の症状が出始めたのが50代半ば、今から15年くらい前。次郎叔父さんだって、そろそろ認知症になってもおかしくない。その上1番若いかなこ姉ちゃん(父の1番下の妹)は病気で入院していて、蒼子叔母さんも持病がある、公子伯母さんもアルツハイマーで、実質墓管理してるのは公子伯母さんの旦那さんの小高伯父さんだけ。今後のこと考えてそのお墓本当に必要なの??」

「そんなに怒んないでよ…それに勇叔父さんが直近で入ったばかりでしょ。私もおばあちゃんに結婚を許してもらったのだから」と母が力なく言う。「勇叔父さんもこっちに出てきてて法事にも来てなかったよね?結婚もしてなかったし、東北の県までお墓参りに来てくれる人はいるの?それとも地元の友人とか?墓がないとかわいそうって、そもそも何?寺がお墓と法事の収入が欲しいだけだよね?そもそもお墓を継ぐ人がいないのはお父さんの子供が私たち女しかいない時点でもう決まっていたようなものだよ。しかも次郎叔父さんのところも娘一人。お家断絶は決まっていたんだよ昔から。檀家のお家事情なんて、法事に来る親戚の状態でわかるだろうに、もっとうまくやらないと寺なんて生き残れないよ。死ぬ人は多くても、墓管理する子供の数はどんどん減っているんだから。テメェのビジネスがちゃんとできてないのを檀家にぶら下がるなんて言語道断。私は寺と心中する気はないし、こんな寺は信長みたいに焼き討ちにしてもいい。」

早口でまくしたてる私に、みんながまぁまぁとなだめすかすが、私にはここにいる人が全て、先のことが全然見えてない残念な人たちに見えて、すべてを置き去りにしてしまいたい、そんな気持ちになった。

怒りにまかせてここまで書いてしまったので要約すると。
父の兄弟姉妹で生きている人は、ボケているかその入り口に立っているか、はたまた闘病中の人しかおらず、墓を管理しているのは父の姉の旦那さんである伯父。それ以外は皆、ほぼ首都圏住まいで、もし父が田舎の墓に入ったとしても、その次、その墓に入る人は母くらいで、他はいない。その母も「あそこには入りたくない」と言っており、その子供である私達姉妹は、田舎の墓に父を入れることは反対しているのだ。私も40を過ぎて、父がボケ始めたその年齢まであと10数年。必ずしも同じ年頃でボケるわけではないが、なんとしても、それまでに整理しておかねばならない。
父が入ったとして、その後誰も入る人がいないし、管理できる人が圧倒的に少ないのだ。これ以上ないくらい墓しまいのタイミングだ。これらが墓しまいへ私を駆り立てる。

檀家と寺の関係性など、私にはわからないことがたくさんあるせいかもしれないが、この時の私は、全部、田舎との関係が燃えてしまえばいいのに、そう強く思ったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?