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今更2021年本屋大賞ノミネート作品を読み切った

2022年も下半期に入った今、ようやくである。 前回の記事で高らかに宣言したくせに、この有様である。


言い訳を一つさせてほしい。前回の記事を書いたあと、心ない人事異動により、落ち着いて本を読む時間を奪われてしまったのである。やっと比較的好きに時間を使えるようになると、2022年になっていたというわけである。

そんな言い訳はさておき。
どれもこれも面白かった!!!
全体的に、人生に行き詰まった人が主人公で、日常の延長戦上にあるようなドラマを描いているものが多いのは、そういった物語が現代を生きる私たちにとって身近で、響きやすいものだからだろうと思う。私にも大きく響いた。

さて、私なりにトップ3を決めてみたので、以下に記したい。


1.  52ヘルツのクジラたち/町田その子

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ある事情を抱えた一人の女性が、都会から田舎へ移り住み、そこで言葉を発しない一人の子供と出会う物語。
1本の映画のような読み応えだった。この作品が映画化したとして、同じ没入感を生むかどうかはわからないが、とにかく引き込まれた。 何故?と思うことが散りばめられ、その疑問が読者にページをめくらせる。ミステリーではない。もっとリアルで身近な重い題材である。フィクションで片付けるには重すぎる問題がいくつも転がっていて、物語を生んでいる。自分がここで生きていたら、と考えながら読んだ。きっぱりと現実を描きながらも、あたたかな物語だった。
ちなみに、ノミネート作品を読んでいる間はなるべくランキングのネタバレを踏まないようにしていたのだけれど、たまたま入った本屋でこの作品が1位だったことを知ってしまった。フラットな気持ちで読むぞと思ったが、読み終わったらこの作品が1位である理由をすんなり納得した。


2. お探し物は図書室まで/青山美智子

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とある公民館の図書室にいる、ちょっと変わった司書は、どんなジャンルもレファレンスしてくれるが、必ず変わった本が一冊混じっている。その司書と5人の物語。
この世にとんでもない量存在している本たちは、我々と出会うのを息を潜めて待っているのだと思う。それぞれ、図鑑はそのカテゴリーを解説を交えて総覧的に見ることができるように、絵本は可愛らしい絵を携え、小説はその物語を収めておくために。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ役割を果たすために存在する。それに出会う私たちがそこに付加的に意味を感じ取るのだと思う。そうしてこそ、本はその役割を十二分に発揮するのではないだろうか。この物語は、自分の探し物とは一見関係ないような本を手に取り、そこから自分に必要な意味を掴み取る5人の話だった。そして、私の大好きな、全ての章がちょっとずつつながっているというもの。読後の満足感がすごい。私のお気に入りは「三章 夏美」。


3. 犬がいた季節/伊吹有喜

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ある一匹の白い犬がとある高校に迷い込み、その学校で飼われることとなる。白い犬コーシローが昭和の終わりから平成を見つめ、令和をも生きる話。
学生生活というのは、過ぎてみると一瞬だと思う。特に中学高校なんて3年間ずつで、あっという間だ。この本の表現を借りると「この校舎を自由に歩き回れるのは、桜が三回咲く間だけ。」なのである。通っている時は、学校が世界の全てで、永遠に続くとも思えるのに、振り返ってみると一瞬にも等しい。限られた短い時間で、一生の宝物を見つけることもある。かけがえのない、もう二度と取りに帰れないような儚い眩しさを放つ宝物。この物語はそれを丁寧に切り取っていた。 たった三回桜が咲く間に、学生たちは宝物を得て、一方で何かを選択する。どんな選択も、多くの道を作り、絡み合って未来を連れてくる。遠くで道が交錯することもある。どれも愛しい物語。
物語の後半でタイトルが輝きを増す瞬間があるので楽しみに読んでほしい。そして、もし単行本を買ったなら、全て読み終わった後にカバーを外してみてほしい。必ず、全て読み終わった後に。



【余談】
3番目は非常に迷った。迷った作品の感想も書いておきたい。

◯逆ソクラテス/伊坂幸太郎

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少年少女と先入観を描く物語。いたずらやいじめ、子供ならではの悔しさなど、小学生が抱える問題と大人になってからを描く。
この人の言語センスはいつ読んでも天才だと思う。エッセイも好きなんだけど、伊坂先生はあまり書くのが好きではないとか……。物語は真剣そのものだけど、言い回しでふふ、と笑えるところの緩急が良い。好きだ。独特の言い回しが物語全体を軽やかにしている気がする。誤解を恐れずに言うとキャッチーなのかなと思う。だけど重量のある物語を描く。その絶妙な塩梅が人の心を惹きつけるのだろうと思っている。


◯滅びの前のシャングリラ/凪良ゆう

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一ヶ月後に小惑星が衝突し、地球は滅びるという現実に突如叩きつけられた人々が、終焉に向けて何を成すかの物語。
この物語も一本の映画のような読み応えがあった。場面が映像として用意に想像できる。 シャングリラはいつもすぐそばにあるのかもしれない。だけど、人は様々なしがらみを抱えて何年も生きていかなければならない。そう思って生きている。だから、終わりを悟ってからでなければ素直にシャングリラを追い求められないのかもしれない。だけど、愛は、終わりが近づいても間違いなくそこにあるものだと思った。



どれもこれも本当に面白かったからとても迷った。そして2位以下のランキングを改めて確認してびっくりした。そのまんま一緒だった。

始める前は、もしかして世間と感覚が全然違うかも?なんてことも思ったが、まんま一緒だったので笑ってしまった。本を売るプロと同じ感覚で嬉しいことと言えるのか、はたまた私自身の着眼点が面白みに欠けると言えるのか……。

そういえば今回加藤シゲアキ先生の本を初めて読んだ。瑞々しい青春がテンポよく描かれていて、読後感も爽やかだった。 他の作品も読んでみたい。
そして、SNSでも話題になった「推し燃ゆ」は、推しがいる身だと非常に刺さるものがあり、あっという間に読み終わった。推し、燃えないでくれ、という思いに尽きる。そして、推しという存在は、とうの昔に応援したい人という意味だけでは表現しきれなくなっていると思った。推すって何だろう。私はその人の生き様に惚れて、人生を応援することなのかなと思っている。

本屋大賞はノミネート作品からしてもう全て面白い。そりゃそうだ。本を売ることを生業としている人がNo.1を選ぶのだから。本屋でアルバイトをしていたことがあるが、本屋というのは、やはり本が好きでなければ続けられないものなのではないかと思う。たかがバイトの経験だけで生意気だけれども。そんな「本推し」の人たちが選ぶ本屋大賞ノミネート作品を、また全部読んでみたい。今度こそ、結果発表前に。


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