見出し画像

夏の鎌倉で妖怪少女と青年の思いに寄り添うノベルゲーム『夏日事件簿』(Summer Fantasy)

※中国語のみ。内容はデモ版に基づいています。
『夏日事件簿』は妖怪の幼馴染との交流を描いたビジュアルノベル。はるかな昔から、異類の交わりは幸せな結末には至らないと相場が決まっている。それでも心を通わせた彼らにはどのような結末が待っているのだろうか。鎌倉を舞台に濃密な夏の空気を描くビジュアルが鮮やかで、演出にも力の入った野心作だ。

数年ぶりに鎌倉へと戻ってきた主人公は、かつて仲よく遊んだ妖怪の少女と再会する。このある種の愛の物語は複雑で、抑えきれない渇望であり、困難を乗り越える希望であり、その夢が彼女のうえに結実するという。以上は中国語版Steamストアページに書かれていることだが、これには作者の経歴そのものが投影されているようだ。
というのは作者LKYさんはゲーム業界の荒波を乗り越えて作品を作ってきた人で、その過程で多くの困難や挫折があったという。それでも物語を書く情熱捨てがたく、3度草稿を書き直し、コストの制約により90万語から50万語まで削り、2年以上かけて完成させたと、情熱を込めた文章がストアページに綴られている。

実際デモ版でも二人の関係は単純な恋愛というより友情(以上)に近く、幼馴染ならではの気の置けないやりとりが魅力だ。世界をとらえる繊細な目は作品にも十分反映されていて、雨上がりの小さな花を映したシーンやボーカル曲(?!)が入る場面は胸を衝くものがある。まだ物語は始まったばかりではあるが、そこに込められた思いの強さと表現の美しさは人の心を動かす。

夏の湿度を感じられる背景の美しさもまた目をみはるものがある。平凡な構図や単調な彩色がひとつとしてなく、なんでもない場面でも手を止めて見入ってしまう。キャラはLive2Dで自然に動き、メッセージウィンドウを排したつくりで手描きフォントの文字がそえられるなど、表現の新しさと世界観を両立させた斬新な試みもなじんでいる。総合的なクオリティの高さという点でも格別だが、なによりそこに生きる人間を描こうとする情念に圧倒されるデモ版だった。完成が楽しみでならない。