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台湾雨港の歴史とグルメ、出会いの夏『戀戀寶島~雨港再世奇緣篇~』

※内容はデモ版に基づいています。
『戀戀寶島~雨港再世奇緣篇~』は現実の台湾そっくりの「架空平行世界」を舞台にしたビジュアルノベル。主人公の鄭文雄は帽子をひろった縁で王嘉琪という少女と出会い、つづけて有名な都市伝説に遭遇する。台湾の歴史やグルメを織り込み、淡いイラストと日本語フルボイスで繊細な世界を形作るボーイミーツガール + ホラーの注目作。

雨降る港町・姬瀧港には有名なお化け屋敷「森開旬洋樓」がある。戦時中鷹国の水兵に恋した女性NANAが無念の思いを抱き、今でも海を眺める姿が目撃されるという。そんな姬瀧港で暮らす美食に目がない青年・鄭文雄は王嘉琪と出会い、楽しいひと時を過ごしていた。ところがある晩、鄭文雄は偶然にも森開旬洋樓に立ち寄ってしまう。

本作は中国語のほかに日本語、英語、韓国語、ベトナム語に対応予定。そのうえ日本語フルボイスでこれがとてもいいだけでなく翻訳がまた素晴らしく、優れた物語体験にひとかたならぬ衝撃を受けた。巴哈姆特の記事にもあるようにキャラクター設定と原画はIZUMI さん。刀剣乱舞の鶴丸國永や夏語遙(台湾のUTAU音声ライブラリ)を手掛けた人物だ。開発は九十九製作所。

物語はボーイミーツガールとホラーサスペンスの2つの顔をもち、そこに台湾グルメや歴史も盛り込まれている。柔らかなタッチで描かれる姬瀧港としっとりした文章が夏の日差しと爽やかな風を感じさせ、愛情たっぷりに描かれる夜市のグルメが読者の胃袋を襲う。台湾の風物にのせて語られる港町と王嘉琪のまとう儚い雰囲気がこのうえなく美しい作品だ。

都市伝説やホラーの部分には台湾の歴史が色濃く反映されている。幽霊として噂される人物はある水兵に思いをかけるが、彼は終戦と同時に約束を残して引き揚げてしまう。また、姬瀧港は雨港の名を持つ基隆のように他国に占領された歴史があり、世界とつながる港町でもあるようだ。
ちなみに英題のFormosa はTaiwan の別の呼び方。ポルトガル語で「美しい」の意であり、最初に台湾に到達したポルトガル人が台湾を見てこう言ったという。タイトルロゴのシルエットは台湾島によく似ている。

また、本作からは食べ物への愛情がつよく伝わってくる。主人公は「平民美食」を愛する美食家で、夜市の食べ物を描いた場面はグルメ漫画のような饒舌さである。演出も並一通りではない力の入り方で、物語においても大きな存在感をみせている。鉄板のじゅうじゅう焼ける効果音なども非常なこだわりを感じるところ。

道具や背景の一部をMidjourney による生成画像を元していたり、実写を加工したと思われる背景もあり技術をうまく活用したゲームでもある。台湾グルメの提供シーンはまさかの動画。

印象的なひと夏の出会い、時を超えて迫りくる恐怖と残された思い、いずれをとっても心に残る物語で、続きがこのうえなく楽しみな作品だった。