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「いざ、上陸。楽園のある国 タンザニア」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編①〜

 2018年9月2日朝6時、自らの猜疑心に気が付き危機管理が上達した一方で、しっかりとサファリを満喫した私たちは、早くもタンザニアのアルーシャへ向かう準備をしていました。その道中、怪しげな集団にバスジャック未遂をかまされるも、何とか回避。タイヤが回るにつれて、車体に響く石の跳ね返り音には悩まされたものの、私たちはいつの間にか眠りにつきました。

 熟睡に入ってしばらく経った頃、周囲の物音で目が覚めました。窓の外には広がる砂地。地図を開くと、どうやらケニアとタンザニアの国境の街、ナマンガに到着したようでした。ケニア出国とタンザニア入国の手続きを済ませるため、他の乗客と共にバスを降りる私たち。

 人生2度目の陸路で国境を越える経験。エチオピアとケニアの国境の街、モヤレに比べると、人や建物が少ないからか、あまり緊張感はありませんでした。私たちは人の流れに乗ったまま、すんなりケニアを出国しました。

「なんか普通すぎますね。モヤレがうるさすぎたせいで、ナマンガが物足りなく感じます。」

「確かにそうやけど、まぁ安全に越したことはないよ。」

 妙に落ち着いた感情のまま、タンザニアの入国手続きへ。イエローカードと呼ばれる、黄熱病ワクチン接種済みの証明書を提示して、エチオピア入国時と同様に、アライバルビザを取得。ビザがシールやカードではなく、スタンプであったことに肩を落としつつ、無事にぬるっとタンザニアへの入国を果たしました。ここからさらに南下して、アルーシャという街へ向かうために、再度バスに乗り込みました。喧騒のない国境に少し気が緩んだ私たちは、バスが走り出す音を聞く前に眠りに落ちました。

 そして、数時間が経過した頃、思想強めの若者たちに絡まれることなく、バスはアルーシャに到着しました。

「ここから宿まで距離ありますね。タンザニアのタクシーあんまり良い噂聞かないので、歩きます?」

「そうやなぁ。タクシー強盗かぁ。ダルエスだけに限ったことか分からんしな。」

 そうです。調べたとことによると、タンザニア、特に首都であるダルエスサラームではタクシー移動が危険とされていました。携帯アプリで呼ぶタクシーはそれほど問題ではないようですが、その辺りに停まっているタクシーに乗ると強盗被害に遭う可能性があるとのこと。運転手が仲間を呼び、複数で脅して乗客をATMに誘導し、現金を奪うという手口。また、暗めの路地裏に連れて行かれ、身ぐるみを剥がされるという事例も。

「男3人おったら襲われる確率も低くなりそうですけど。」

「どうやろ。日本人なめられてるし。笑」

「アルーシャには1泊するだけやし、せっかくなら街並み見ながら歩くのも良いかもですね。」

 話しながらも、少しずつ宿の方向に歩き始めた私たち。目指すはアルーシャバックパッカーズホテル。そこで1泊し、明日の朝には、首都でありナイロビと同様に世界三大凶悪都市の1つである、ダルエスサラームに向かう予定でした。

「どこに行くんだ?アルーシャバックパッカーズはここからだと遠いぞ。乗っていけ。」

 と中年男性が声をかけてきました。最初は無視していた私たちでしたが、それほど危険な雰囲気もなく、人通りの多い明るい時間帯ということもあり、交渉の余地ありと判断。

「お金持ってないから歩いて行こうと思ってたよ。いくらかかる?」

「無料だ!」

「嘘つけ!んな訳ないやろ!」

 と日本語では返したものの、まだ話を続ける中年男性。どうやら彼はアルーシャバックパッカーズホテルの従業員。日本人が多く宿泊するので、バスの到着時間に合わせて、乗り合わせた日本人を宿まで送迎しているとのこと。

「ほんまかぁ?どうします?」

「何となく大丈夫そうじゃない?3人おるし行けるっしょ!」

「ちょっとでも怪しいと思ったら、すぐ降りましょう。」

 という訳で、中年男性のタクシーか自家用車か分からない車に乗る私たち。運転手の動向を注視していましたが、ほどなくして特に何事もなく、宿に到着。

「はい。じゃあ1人15000シリングね。」

「(はいでたー。やっぱそうなんかい。しかも2000シリングて、えっと1シリングが0.05円やから、、めんど。)」

 運転手に嘘をつかれたことと、タンザニア通貨であるシリングの計算が面倒臭いことにイラついた私たち。

「タダやって言ったやろ!」「絶対払わん。」

 運転手の口調や態度、その街の空気、時間帯など、総合的に判断した結果、お支払い断固拒否の姿勢を貫きました。勝負できるか否か、私たちの危機管理能力は間違えなくアフリカに適応し始めていました。

「おぉ分かった分かった。ごめんごめん。」

 あっさりと引き下がった運転手。

「支払わんで正解やったな。」

「疑わしい行動なかったし、言い返しても大丈夫そうな感じでしたね。」

「ダルエスはそう上手くはいかんかもな。しっかり見極めないと。」

 無事に宿にチェックインしながら、兜の緒を締める私たち。にしても、ここの宿、おそらくアフリカ入国以降、最上級であること間違えなし。アンティーク調の清掃された部屋、光沢のあるベッドに敷かれた綺麗な布団、水回りも完璧。清潔感を売りに経営できる宿。Wi-Fiが故障中で使用できないことを除けば、快適すぎる環境でした。

「ここに1泊だけかぁ。なんかもったいない気がする。」

「ここでシャワー浴びて、しっかり身の回りと心整えてからダルエスに挑もう。」

「ですね。とりあえずここからダルエスまで行くバスのチケット取りに行って、適当に飯食いましょう。」

 時刻は午後14時を過ぎた頃。宿の受付にバスチケットを手に入れられる場所を聞き、私たちはアルーシャの街に繰り出しました。

「先バスのチケット取るか。こっからすぐやし。」

 徒歩数分で大きなバス停に到着。しかし、受付のシャッターは完全に閉まっていました。近くの男性に話を聞いたところ、理由は分からないけど今日はもう開くことはないとのこと。

「あーどうします?とりあえず明日の宿取るか、他のバス探すかですね。」

「そんなに急ぐこともないし、飯食いながら決めるか。」

 あの快適な宿にもう1泊できる可能性と、危険と言われるダルエスサラームへ向かう心の準備が必要だったことは、私たちを急かそうとはしませんでした。

「もうあの店でいいんじゃない?」

 待ってました屋台飯。味が濃い料理を作りそうな顔をした店員が決め手となり、私たちは汚れたプラスチックの席につきました。謎肉の串焼き、スクランブルエッグとポテト、でかいチキン。結構な量を頼んで、650円。安い早い濃い。文句なしの星5つ。料理に虫が付着していることなど、慣れ過ぎて減点対象にもなりません。

「大変やなぁ。他のバスとか、泊まれる場所とか色々調べたいけど、宿戻ってもWi-Fi使われへんから、それもできへんしなぁ。」

「まだ明るいうちに、他のバス会社あれば聞いてみましょう。」

 明日の移動はもうないだろうと思いながら、呑気に街を散策する私たち。気付けば、あの閉まっていたバス会社が並ぶ通りに出てきていました。

「え?あれシャッター開いてません?」

「ほんまや。なんか人並んでるで。」

「行くかぁ。」

 一度移動するスイッチを切ってしまったこともあり、おそらく「明日でいいのになぁ」と3人それぞれが思いながら口に出さず、開いているシャッターの前に到着。

 ナイロビからダルエスサラーム。凶悪都市間を移動するには、あまりにも短スパン。

「(もう明日には最高値で気張らないとあかん街に向かうんか。今は何かの都合でチケット取られへんとかなってくれても全然いいで。)」

 完全にダルエスサラームという名前に敗北。ナイロビの緊張感を思えば少しばかり落ち着きたいところ。しかし、誰も言い出せず。。

「あのーダルエスサラーム行きのバスチケット欲しいんですけど、いつならあります?」

(((頼む、明日以降来い!!!)))

「明日の朝6時発のバスがあるよ。1人5500円だね。」

(((あったぁぁぁ!あってしまったぁぁ)))

 見事なスムーズ具合でチケット購入。

 なぜか開いていた受付を見つけたせいで、いや、おかげで、私たちは明朝にダルエスサラームへ向かうことを確定させることができてしまいました。

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