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「世界はおじさんで溢れている」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編㉓〜

 2018年9月12日夜9時頃、満員のバスに揺られて、タンザニアとザンビアの国境付近に辿り着いた私たちは、とりあえず地図上に出てきた適当なホテルに向かいました。果たしてザンビアに入国できるのか、この先どうなるのか。何も分からなかった私たちでしたが、ホテル受付のお兄さんの助言によって、出入国手続きとザンビアの街まで行くためのバスを探すため、22時を回る頃に国境へと向かったのでした。

 寒空の下、歩くこと数分。すぐに、ぼんやりと灯りを纏った大きな建物が見えてきました。薄暗くてよく見えないものの、砂地の広場にはバスが数台止まっており、人の話し声も聞こえてきました。

「あの人の言う通りやな。」

「まだ手続きできそうな感じですね。」

「何ならバスのチケットも取れそうじゃない?」

 バス会社が運営していることを祈りながら、まずは出入国手続きの建物に急いだ私たち。重たいガラスの扉を開けると、物寂しい空間が広がっていました。省エネモードの電球にグレーの壁、日中は人が並んでいるであろう列に誘導する仕切りだけがあり、人の姿は見当たりませんでした。

「もう今日は終わっちゃった?」

「でもそれならさすがに開けっぱなしにはせーへんやろ。」

「Excuse me〜〜・・・」

 何となく恐る恐る、窓口らしき方にゆっくりと歩いていく私たち。すると、私たちが先ほど入って来たガラス扉が勢いよく開く音がしました。振り返ると現地人男性が1人。完全に目が合いましたが、ただただ眠そうで、めんどくさそうな彼は、何も発することなく立ち止まった私たちを追い抜き、窓口に立ちました。

「パスポート。」

 1人30秒もかからず、タンザニア出国完了。

「これほんまに出国できたんですか?笑」

「まぁスタンプ貰ったし大丈夫じゃない?」

「この時間に仕事かよ、って顔してましたね。」

「てか、デモ活動とかの雰囲気ないけど、どういうことなんやろ。」

 そんな会話をしながら、ザンビア入国へ。先ほどと同じような建物に入ると、陽気なおじさん連中が窓口で談笑していました。

「ようブラザー!今からルサカまで行くのか?何時のバスだ?」
「急いで終わらせてやるよ。」「出る時はこのコンドーム持っていきな!」

「(元気すぎやろこいつら。ほんでめちゃくちゃ入国できるやん。デモは?)」

「まだバス取ってなくて、今から行きます。」

「ザンビアでデモ活動があって入国できないかもしれないって聞いたんですが、大丈夫なんですか?」

「デモ?何言ってるんだ?」

「・・・え?」

 ホテルの男性に話したように、タンザン鉄道の一件を伝えてみたところ、窓口の3人は不思議そうな表情を浮かべていました。国境もバス会社も平常運転とのこと。

「今からでもバスのチケットは取れるけど、明日の分が残ってるかは運次第だな。少なくともこの辺りでデモとかはないから、安心して行ってきな。」

 陽気なおじさんたちにバス会社の場所を教えてもらい、なぜがフリー配布をしていたコンドームを手渡され、Good Luck と言われて送り出された私たち。

「タンザン鉄道どないなってるん?どういうことや?」

「思えば説明全くないまま、ただ降ろされただけやし。」

「もうちょい金返せよ。」

「本当、よく分からないね。というか、お金どうする?俺らザンビアの通貨持ってないよ。」

 そうです。私たちが今からバスのチケットを取るため前に、解決すべき大きな問題がありました。タンザニアの通貨であるシリング、ザンビアの通貨であるクワチャ。タンザン鉄道で国境を越える際に、両替してもらう予定であった私たち。それも、どうせ現金を使う場面なんて食事の時ぐらいだろうという考えだった上に、降ろされた駅から国境までのバス代、国境のホテル代を支払った私たちの手元には、到底ここからの移動代にはなり得ない、わずかなタンザニアシリングが残されていただけでした。

「うわー、色々巻き込まれて、お金のことすっかり忘れてた。」

「タンザン鉄道、やってくれるわほんま。」

「こんな時間にATM使えるんかも分からんし、国境の両替なんかレートゴミやろ。」

「明日のバスがあれば、だね。お金はそれを確認した後に考えるしかないよ。」

 今更ながらタンザン鉄道の文句を垂らすと共に、金銭面の不安を抱きながら歩くこと数分、バスターミナルに到着した私たち。近くで見るとそこそこ大きなバスが何台も停まっており、その周囲では荷物を搬入する現地人たちの姿、案内をしているであろうスタッフたちが大きな声で話し合っていました。そんなほぼ暗闇の砂利広場に、点在するお1人様用の小さなパラソル。その下で椅子に座っている人が何か名簿のような紙を持っており、周囲に指示を出している様子。

「あそこでバスチケット買えそうやな。」

「会社感は全くないけど、行ってみましょうか。」

 1社目、園児用のカラフルパラソルの下でボロいプラスチックの椅子に足を組んで座っている、偉いのか偉くないのか分からない太ったおじさんの元へ。

「カピリムポシ辺りまで行きたいんですが、バス空いてますか?」

「カピリムポシ?そんなところに行くバスはここにはないよ。基本的にはルサカまで行くバスだな。」

 ザンビアの首都であるルサカ。タンザン鉄道でカピリムポシまで行った後に、ルサカに行く予定であった私たちにとっては好都合。

「ルサカまでのバスで大丈夫です。明日に行きたいんですが・・。」

「あー。それはもう満席だから無理だね。でも今お金払ってくれたら、チケットは渡せないけど、明日どうにか入れてあげることもできるよ。」

「(は!?どういうこと?完全に嘘やんけこいつ。金だけ取って置いて行く気満々やろ。)」

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