
喫茶店のナポリタンの作り方、プロの味に近づけるための工夫をいくつか
なぜか美味しい料理に喫茶店のナポリタンがあります。作家の片岡義男さんは「ナポ リへの道」という本のなかで、こんな風に語っています。
スパゲッティ・ナポリタンという日本の料理に対して、自分がきわめて強力に日本を感じるのはなぜだろうか、とずっと以前から僕は不思議に思ってきた。日本古来のものとされている和食の最たるものはいまの日本にいくらでもあるかと思うが、そうした日本そのものと言っていい和食とはかなり位相の異なったかたちと内容とで、僕はスパゲッティ・ナポリタンに日本を感じてきた。
スパゲッティナポリタンは米軍が持ち込んだトマトケチャップと日本の洋食文化が出会い、大衆食として労働者の胃袋を支えた料理。敗戦から占領、そして戦後の日本を体現したような味です。諸説ありますが、スパゲッティ・ナポリタン発祥を標榜しているのは横浜にあるホテルニューグランドです。ただ、文献上、ケチャップでスパゲッティをあえるナポリタンは戦前から存在していますし、あくまでお話といったところ。
さて、発祥の話はともかく、今回はどこか懐かしさを感じる喫茶店のナポリタンをイメージしたレシピをご紹介します。
喫茶店のナポリタン 2人前
スパゲッティ 1.6mm 180g~200g
玉ねぎ 2分の1個(150g相当)
ハム 70g
ピーマン 1個
マッシュルーム 35g相当 缶詰の半分
ケチャップ 100g
ブルドッグウスターソース 大さじ2分の1
バター 10g
パセリ 適量
ナポリタンを家庭でつくるとベチャッとした仕上がりになりがち。それを避けるためにはいくつかのコツがあります。最初のコツはスパゲッティは茹でて、寝かすこと。

パスタは1.6mmくらいの太さのものを使います。乾燥パスタはバリラ、ディチェコ、 アルチェネロ、モンスーロを比較してみましたが、バリラは つるプリっとした食感でケチャップ味とはあわないよう。(もちろん、好みもあると思いますが)つるっとしたパスタはケチ ャップが絡みにくいのです。
汎用性が高いディチェコはケチャップはよく絡みました が、わりとザクザクとした食感で、もっちり感がありません。モンスーロもディチェコと同じザクザクとした感じの食感ですが、こちらは小麦特有 の香りが強くおいしいパスタでした。しかし、これもナポリタンとはまた違うかな、という印象で、結論的にはアルチェネロが一番、もっちりとしていてケチャップとの絡みが良かったので、アルチェネロに決定。

1%塩分濃度のお湯で袋の表示時間通りに茹でます。通常のパスタは表示時間の1分前くらいに引き上げますが、ナポリタンは表示時間+1分茹でます。

氷水にとって麺を一度締めます。

水気をしっかり切ってから、大さじ半分ほどのサラダ油(分量外)をまぶし、冷蔵庫に入れて3時間以上(できれば一晩)寝かします。この工程によりデンプンが充分水分を吸い込むので、ナポリタン特有の食感になるのです。

二つ目のコツは「ケチャップはきちんと計量する」です。慣れてきたら目分量でもい いですが、最初は計量して感覚を掴みましょう。思ったよりもケチャップの量が多いと感じるか、と思います。
ケチャップのメーカーはいくつかありますが、おいしいナポリタンをつくるならブレンドがお勧め。スーパーで簡単に手に入る大手メーカーの製品では
デルモンテ トマトの味
カゴメ スパイス感
ハインツ 甘み
というようにそれぞれ特徴が異なります。ナポリタンの場合にはスパイス感が仕上がりに左右しますので、デルモンテとカゴメを半々使うか、カゴメとハインツを半々使う、というのがおすすめ です。

隠し味にウスターソースが入ります。ナポリタンの名店の多くは野菜とケチャップを煮込んでナポリタン専用のソースを仕上げています。様々な野菜の味とスパイスなどが入っているウスターソースを使うことで、簡単に複雑味を与えられる、というわけです。

野菜はすべて切っておきます。ここまでスタンバイしておけばあとは簡単。

フライパンに大さじ1のサラダ油を敷き、具材を炒めます。火加減は中火です。

玉ねぎがしんなりしてきたら、具材を鍋の片側に寄せます。

そこにケチャップを投入して、しばらく炒めます。ケチャップの成分の半分は実は水分。お店では麺を加えてからケチャップを加えるところが多いですが、家庭の火力ではこの水分が飛ばず、水っぽい仕上がりになってしまいがちなのです。
こうしてあらかじめよく加熱することで余分な水分が飛び、水っぽくなるのを防げます。こ れがプロの味に近づける最大のコツです。ケチャップの色が濃くなっていきますので

全体を和えて、さらに加熱していきます。ケチャップを最初から投入してしまうので、後から量の調節が利かず、そのため計量が大事になってきます。

目安としては鍋肌にケチャップがうっすらとくっつくくらいの状態まで加熱します。

もう一つフライパンがあれば平行して茹で置きしたスパゲッティを温めます。テフロ ン加工のフライパンなら油は敷かなくても大丈夫。焼いているうちに麺がほぐれてき ます。ここで麺の表面の水分を飛ばし、もっちり感を強調します。

うっすら焦げ目がつくまで焼きます。これが最後のコツ「麺とソースはわけて加熱す る」。イタリア人は「スパゲッティを炒めたらダメ!」といいますが、スパゲッティ・ナポリタンは日本料理なので気にすることはありません。ここで焼き付けて、香ばしさを足します。理想は麺の外側が硬く、中が柔らかいという逆アルデンテ状態。この逆アルデンテ状態は日本人の好きな食感で、おいしいとされる米の炊きあがりの状態と同じです。

ソースを絡めていきます。

水っぽさはまったくなく、ちょっと焼きうどんのような状態。

胡椒を振りかけ、、、

火を止めてから仕上げにバターを少量加えます。バターを加えることで、しっとりします。昔はマーガリンを入れるのが一般的でしたが、バターのほうが断然美味しいです。

出来上がり。パスタを炒めるというイタリア人は絶対にしない調理法がかえって斬新 です。よく加熱したケチャップのコクが麺にまとわりついています。口のまわりが赤くなりますが、気にしないで食べましょう。
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