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肉、トマト、豆は黄金の組み合わせ!〜鶏肉とひよこ豆の煮込み〜

34回目のテーマは『鶏肉とひよこ豆の煮込み』。肉、トマト、豆は、世界各国の料理にも見られる黄金の組み合わせ。今回は煮込み料理の基本と豆のおいしい調理法について学びます。食の博識、樋口直哉さんによる科学的「おいしい料理」のつくり方。この連載もベースにした『新しい料理の教科書』が発売となりました!

豆を使った蒸し煮をご紹介します。煮込んだ豆のやわらかな甘さには、他の野菜では得られない滋味があり、自分で一度作ってみるとそのおいしさを見直すはずです。

豆はカリウムが豊富で、ナトリウムの摂取が過剰になりがちな現代人にこそ、必要な食材。今回は手軽に調理できる缶詰を使って、『鶏肉とひよこ豆の煮込み』をつくります。

鶏肉とひよこ豆の煮込み

材料(2人前)
鶏もも肉…250g~300g
塩…2.5g〜3g
玉ねぎ…小1個(100~120g)
トマト…中玉3個(200g、大なら一個)
にんにく…1片
オリーブオイル…大さじ1
水…200cc
ひよこ豆缶…100g〜140g(1缶)

作り方

1.鶏もも肉は半分に切り、重量の1%目安の塩を振っておく。皮を剥いた玉ねぎは半分に切ってから、薄切りにし、トマトはへたをとり、1/4に切っておく。にんにくは硬いもので潰す。ひよこ豆の缶詰は水気を切っておく。(Tips1 一度くらいは塩の量を計ってみる)

2.フライパンにオリーブオイル大さじ1を入れて中火にかけ、皮目を下にした鶏もも肉を入れ、じっくりと焼く。皮目に香ばしい焼き色がついたら裏返し、身側は5〜10秒焼いたら取り出す。

多めの油で焼くことで、皮がカリッと香ばしく焼けます。

3.同じフライパンに玉ねぎとにんにくを入れて、残った油を利用して数分間炒める。この時、火加減は弱火に落とす。
玉ねぎがしんなりとして、半透明になったら、トマトと水200cc、2の鶏肉、ひよこ豆を加え、火を強火にする。鍋の水分が沸騰したら弱火に落とし、蓋をして10分間煮る。(Tips2 肉、トマト、豆は黄金の組み合わせ)

4.鶏肉をとりだし、火を強めて、フォークでにんにく、豆、トマトを好みの具合までつぶす。味見をして、器に盛り付ける。(Tips3 豆を潰してソースに濃度をつける)

この段階で味見をして物足りなければ塩を足しますが、その必要はないか、と思います。

★レシピの解説

【Tips1】一度くらいは塩の量を計ってみる

鶏肉は煮込む前に塩を振っておきます。肉の場合、塩の量の目安は1%です。両面全体に20cmくらいの高さから塩を振ります。まんべんなく振った時の量がちょうどそのくらいですが、秤を使って一度くらいは計量するといいでしょう。

今回は解凍品の安価な鶏肉を使用したので、この段階でも胡椒を振りました。素材の性質によって、調理工程や使用する材料は微妙に違ってきます。料理に慣れてくると素材が最適な調理方法を教えてくれるようになります。味の強い地鶏や銘柄鶏を煮込む場合は煮込み時間は20分ほどかかるでしょうし、全体のバランスを整えるためにトマトペーストやホールトマト缶など強い味のものを組み合わせる必要があるでしょう。

【Tips2】肉、トマト、豆は黄金の組み合わせ

蓋をして蒸し煮にします。シチューなどの煮込みの場合は素材から成分を抽出するために、たくさんの液体を加えますが、蒸し煮の場合は素材に旨味を残したいので少なめの煮汁で加熱します。蓋をすれば蒸気の力で液体に浸かっていない部分にも火が通ります。

よく焼き目をつけた鶏肉、トマト、豆は黄金の組み合わせで、これにカレー粉を加えればインド料理のカレーになりますし、エジプトにもお米が入った鶏肉とひよこ豆の煮込みがあります。

なぜ、世界各地でこの組み合わせの料理が作られているのでしょうか。その答えは肉のイノシン酸とトマトのグルタミン酸という旨味の相乗効果にあります(「出汁づくり」の回を参照)。そこに炭水化物である豆(あるいは芋類)を加えれば完璧なバランス。例えるならば食の世界の三位一体、完璧な組み合わせには理由があるのです。

【Tips3】豆を潰してソースに濃度をつける

写真は豆とトマトを潰す前の状態です。この状態でももちろん構いませんが、豆を少しつぶすと味にコクが出ます。やわらかく火が通ったにんにくはフォークで簡単にペースト状になるので忘れずに潰しましょう。

豆類の調理についていくつかのポイントを頭に入れておきましょう。豆類を調理する時のポイントは「塩」「酸」「糖」「カルシウム」です。

塩を加えると味付けの他に加熱時間を短くすることができます。多くの料理書には「豆をやわらかくするためには塩を加えてはいけない。塩を加えると硬くなってしまう」と書かれていますが実際には誤りで、塩を加えることで早く火が通ります。塩には細胞膜を構成しているペクチンを溶けやすい状態にする働きがあるからです。

実際に豆を固くするのは残りの3つの要素「酸」「糖」「カルシウム」です。このレシピではトマトの酸が加わるので豆が煮崩れにしにくい状態になります。例えばイギリスの料理のベイクドビーンズはトマトの酸のおかげで長く煮込んでも煮崩れないわけですが、この料理もトマトを加えているので、豆が崩れにくくなります。煮崩れた豆が肉と絡み合うところに煮込み料理のおいしさがあるので、ここでは後からフォークで潰すことで煮汁の濃度を調整しているのです。

潰し具合で最終的な仕上がりが変わってくるでしょう。潰すほどにソースに濃度がつきますが、豆の粒はある程度残っていたほうが食感が楽しめます。

残りの糖とカルシウムも豆を硬くします。豆を甘く煮る場合はやわらかく煮てから、糖分を加えるようにしましょう。そうしないといつまで経っても豆は硬いままです。カルシウムもペクチンを強化する働きがあるので、煮込み料理に使う際は購入する缶詰の裏に『乳酸カルシウム』という添加物の表示が入っていない商品を選ぶのがコツです。

ひよこ豆は豆類のなかで特に油分が多いのが特徴。煮込み料理に使うとクリーミーな味が楽しめます。この料理は豆の種類を変えることでもアレンジが可能です。さっぱりとした味にしたければキドニービーンズを、甘みのある優しい味にしたい場合は白いんげん豆を……という具合に手に入る豆でいろいろと試してみるのがいいでしょう。

厚生労働省が定めた「健康日本21」では日本人の豆類摂取目標値は100g以上となっていますが、現在の日本人は平均60g程度しか食べていません。それも若い人ほど摂取量が低く、トレンドで見れば消費量も右肩下がり。日常的に豆類を摂取することをすこしだけ意識すると、より健康な食生活な送れるでしょう。

参考文献
マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- ハロルド・マギー著 香西みどり他訳 共立出版

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!