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油抜きの方法で結果が分かれる「いなりずし」

今日は、この時期の行事食の「いなりずし」をご紹介します。油抜きをしっかりすることで、煮汁の味を染み込ませ、すっきりした味に仕上げるのがコツ。ぜひお試しください!

街を歩いているとふと小さな神社を見つけることがあります。外国人観光客の方は過密な住宅街のなかに、余白のような空間があることをおもしろく感じるそうですが、これらの社の多くは商売繁盛の神様として江戸時代に広まった稲荷神社です。

2月最初の午の日である初午(今年は2月9日)は稲荷神社で五穀豊穣を祝う祭りが行われます。稲荷神社の神様の使いはご存知、狐。この日に狐の好物、油揚げを使った「いなりずし」を食べると福を招くと言われています。

お弁当にも便利ないなりずしをおいしくつくるためにはきちんと「油抜き」をすることです。

基本のいなりずし

材料
油揚げ…5枚(正方形に切られているものが使いやすい。長方形であれば半分に切る)

▼煮汁
出汁…400cc(鰹節と昆布のあわせ出汁→参照「旨味を最大限に引き出す、出汁の引き方」
醤油…大さじ3
砂糖…大さじ5

▼酢飯
米…300g(2合)
水…360cc
米酢…45cc
砂糖…大さじ2
塩…小さじ1

1.鍋に油揚げと被るくらいの水を入れ、火にかける。沸騰したら弱火に落として3分〜5分ほど茹で、水を捨てる(=油抜き)。水をかけて冷やし、両手で優しく挟んで水気を切る。

2.水気を切った油揚げを鍋に入れ、出汁、醤油、砂糖を入れて火にかける。沸いてきたら弱火に落として10分間煮て、裏返して5分煮る。アルミホイルかクッキングシートで落し蓋をすると煮汁がきれいに回る。火を止めて、冷ます。

3.酢飯をつくる。米は5%少ない水量で炊き、熱いうちに米酢、砂糖、塩を混ぜたものをふりかける。ボウルなどに移し、しゃもじでかき混ぜながら人肌くらいまで冷ます。

4.ザルなどに上げて、2の油揚げの煮汁を切る。酢飯を50gにまるめ、油揚げのなかに詰める。端を折りたたんで鮨を握る要領で俵型に成形する。端の折り目を下にして、盛り付ける。少し時間を置いて味が馴染んでからがおいしい。

油揚げの油、いかにして抜くべきか

油揚げを甘辛く煮ておくと便利なので、多めに作っておいてもいいでしょう。そのままでもおかずになりますし、茹でた市販のうどんにのせればきつねうどんに早変わり。2の段階で冷蔵保存すれば3〜4日持ち、冷凍すれば保存期間はさらに伸びます。

最初のハードルは油揚げの選択。半分に切った正方形の形で売られている、いなりずし用の油揚げを購入するのが確実です。このタイプの商品は袋状になるように豆乳の濃度を薄くし、膨張率を上げる製法でつくられています。

それが見当たらない場合は「油揚げ」と書かれている比較的安価な商品(何枚かが一袋に入っています)が候補に入ってきます。逆にやや高目の値段で「手揚げ風」などの名前で売られている油揚げは「浮かし揚げ」という製法でつくられたもので、いなりずしには向いていません。(肉厚でしっかりしているため鍋物や味噌汁などに向いてます)

油揚げを煮る場合は油抜きをするのが一般的。油揚げはかなりの油を吸い込んでいるので、これを処理しないと味が入りづらいからです。また、油が溶出すると大豆の成分と混ざって煮汁が濁り、すっきりした味に仕上がりません。

油抜きの方法は人によって「熱湯をかける」「下茹でする」の2つにわかれます。女子栄養大学が行った実験によると熱湯をかけると5%油が抜け、下茹ですると11%溶出し、官能評価では「下茹で」が最もおいしく、「熱湯をかける」は「油抜きをしない」よりもやや評価が悪いようでした(『料理のなるほど実験室』女子栄養大学)。また「油揚げの脂質の性状」(内島幸江ほか、名古屋女子大学紀要(28), p95-102, 1982-03)という論文では油ぬき処理法が検討されていますが「油の抜ける量は茹でる時間に関係し、水量では差がなかった」と報告されています。

さきほどの実験では下茹での時間が2分と短いのですが、この作り方では5分とある程度しっかりと下茹でしています。その後、水気をきちんと切ることで、余計な脂質が煮汁に入らず、すっきりとした味に仕上がります。

油抜きをしたら、あとは醤油と砂糖、出汁で甘辛く煮るだけです。味の濃さは最終的な煮汁の量で調整できます。味が薄い場合は煮る時間が短いか、火が弱すぎることが考えられるので、その場合は煮直せばいいですし、逆に味が濃い場合は水を足して同様に加熱しなせばリカバーできます。

酢飯についてですが、いなりずし用は少し酢を控え、甘みを強調しています。刻んだ甘酢漬けの生姜や大葉、ゴマなどを混ぜ込んでもいいでしょう。酢飯がまだ温かいうちに油揚げに包み、粗熱がとれたくらいで食べるのが一番美味しいのですが、もちろん冷めても味が馴染んでおいしくなります。

いなりずしはお稲荷さんと呼ばれ、親しまれてきた味。油抜きをした後の水気をきっちりと切り、煮汁をきっちりと煮詰めるなど一つ一つの工程にけじめをつけ、きちんと確認していけばおいしくつくることができます。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!