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基本のペペロンチーノの作り方

アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ(にんにくと唐辛子のパスタ)はオイル系パスタソースの基本。パスタ料理をマスターするには避けて通れない料理です。

こだわる人が多い料理でもあり、新書一冊分を解説に費やした『男のパスタ道』(土屋敦著) という本も出ているほど。

いつものようにレシピの分析からはじめましょう。ペペロンチーノの主要な材料は『パスタ』『オリーブオイル』『にんにく』の3種類。(唐辛子はどのレシピでも少量で影響は少ないので除外します)パスタに味を付ける茹で汁の塩分濃度にも作り手の個性が表れます。

最初のコツは『パスタの量は一人前80g』にすることです。今回、プロのレシピとクックパッドに掲載されているアマチュアのレシピを比 較しましたが、アマチュアのレシピはほぼ一人前100gなのに対し、プロのレシピはすべて80g(一人だけ70gもあり)でした。量が少なめのほうが後に説明する乳化作業が簡単なこと、また量を控えることで美味しい状態のうちに食べきってしまえることが利点して考えられます。

さて、続いて茹で湯の塩分濃度、にんにくとオリーブオイルを比較します。今回は量 を比較するためにすべてパスタ100gに対しての分量で、にんにくは1片8gで再計算しています。
例えばイタリアンの巨匠、落合シェフのレシピは

茹でる湯の塩分濃度......1.5%
にんにく 16g(厚切り又は丸ごと)
オリーブオイル 36g        (参考『落合務のパーフェクトレシピ』 )

一例をあげるとこんな感じ。また、落合シェフはバターやパルメジャーノ・レッジャーノといった乳化剤の使用を推奨しています。別の本では茹で野菜とすりゴマを混ぜたアーリオ・オーリオを紹介していますが、すりごまも乳化剤代わりになるでしょう。また、にんにくは厚切り、もしくは固まりで使用する傾向が見られます。

続いてはプロの料理人の卵を育成する服部栄養専門学校のレシピを参照してみます。

茹でる湯の塩分濃度......1.3%
にんにく 19.2g
オリーブオイル 36g          (参考『服部の料理の基本』)

1.3%とは微妙な塩分濃度です。また、にんにくは『60度から70度で加熱すること』とありますが、最終的な写真ではこんがりと色づいているので、弱火で加熱するという意味か、と思います。(ニンニクは60度〜70度では色づきません)また、にんにくは薄切りでした。

続いてはアルポルトの片岡シェフ。

茹でる湯の塩分濃度......1%
にんにく 5g
オリーブオイル 31.2g    (参考『きょうの料理』)

にんにくは薄切り派。参照したレシピではパスタはフェデリーニという細めを使用。 にんにくとオイルの量は控えめでどこかシェフの人柄が表れています。

続いてはアロマフレスカの原田シェフ。

茹でる湯の塩分濃度......1%
にんにく 8g
オリーブオイル 36g          (参考『アロマフレスカのパスタブック』)

原田シェフは引用元の本にはシンプルなアーリオオーリオは掲載しておらず、セリや たけのこ、とうもろこしと組み合わせたアーリオオーリオのレシピを発表していま す。また当該のレシピはパルメジャーノ・レッジャーノ入りです。

続いてはコアなイタリア料理ファンから人気があった故、澤口知之シェフ。

茹でる湯の塩分濃度......1%
にんにく 5g
オリーブオイル 48g     (参考『人気のパスタ103』)

個性派の作り方で、赤唐辛子はフードプロセッサーで細かくして辛味を強調、にんにくもみじん切り、仕 上げにかなりの量の塩を足し、パンチを利かせた味付けをしているようです。オリーブオイルの量も圧巻です。ちなみに同じ本のなかで小林幸司シェフ(現在、銀座リストランテ・エッフェ)はアンチョビ入りのアンチョビ・ペペロンチーノを、奥村忠士シェフ(外苑前 アカーチェ)はクリスピーなにんにくを振りかけたクリスピーペペロンチーノを紹介 しています。

恵比寿アガペの真中シェフは

茹でる湯の塩分濃度......1%
にんにく 12.5g
オリーブオイル 33.6g   (参考『PASTA』)

にんにくの割合が多い気がしますが真中シェフの場合はソースを作り際にニンニクの スライスをかりかりにし、その半量をとりだし後からトッピングする形なので、実際 のソースに入る使用量は6g程度と考えていいのかもしれません。また仕上げに茹で汁とともに塩も足しています。こうして並べてみると個性的な性格のシェフほどニンニクとオイル、塩が強いという傾向が見てとれて面白いですね。また、パスタは細めのスパゲッティーニを選択しているシェフが多いようです。

比較のためにクックパッドからもアマチュアのレシピを二つ引用してみま す。

レシピA
茹でる湯の塩分濃度 記載なし
にんにく 8g
オイル 18g
〈レシピB〉
 (塩 大さじ1 塩分濃度記載なし)
 にんにく 5g
 オリーブオイル 24g

アマチュアのレシピの特徴はオリーブオイルの量が控えめ。代わりにコンソメや顆粒だし、醤油といった副材料が登場する頻度が高く、イタリアでは唐辛子を使ったレシピには普通、振らない胡椒が入っているレシピも多くありました。
また、市販のペペロンチーノソースを調べたところ、アンチョビやベーコン風味調味液などが入っている製品が多く、アミノ酸などの化学調味料も使用される傾向があります。日本人好みのアレンジが加えられているようです。クックパッドレシピはこちらの味に近づけているのかもしれません。

さて、プロのレシピからイタリアンシェフの平均値を導き出していきます。

まずはニンニクから。量の前に見当するべきはにんにくの形状です。にんにくの形状 は風味の強さと関係します。みじんぎりはパスタと一緒に多く口に入るので風味が強 く、固まりのほうがやわらかい風味になるでしょう。にんにくは大きいと火を通すのが難しく、細かいと焦げる恐れがあります。そこで今回は落合シェフ流の厚切りを選 択しました。このあたりは目指す仕上がりに応じて、というところ。

次にオリーブオイルの量を検討しますが、突出して量が多い澤口シェフのレシピを除 いた五つのレシピから平均値を出すと100g当たり34.56gになりました。これを80g 当たりに換算すると約27.6g。大さじ2弱といったところです。まずはこの平均値でつくってみて、好みに応じて加減することにしましょう。

またオリーブオイルの種類はピュアやEVバージンなど人によって様々。前述の『男のパスタ道』では著者の土屋敦さんは〈ペペロンチーノにオリーブオイルは向いていない〉と主張されています。なぜ、そうした結論に至るのか、また適した油は何なのかはなかなか興味深い考察でしたが、このレシピではイタリアに習ってオリーブオイルを使い、EVオリーブオイルを仕上げに少量振りかけることにしましょう。

ペペロンチーノ作りの秘密兵器はこの耐熱性ゴムベラです。ゴムベラを使うことでパスタの表面を傷つけることなく乳化作業を進めることができます。なければ菜箸で混ぜても大丈夫です。

基本のアーリオオーリオペペロンチーノ(一人前)
 スパゲッティーニ 80g
 オリーブオイル 大さじ2弱(27g)
 にんにく 8g(1片)
 赤唐辛子 1本
 イタリアンパセリのみじん切り おおさじ1 茹でる湯 1L
 塩 13g~15g

茹でるお湯の塩分濃度は服部レシピの 1.3%か落合シェフ推奨の1.5%が仕上がりが安定するようです。ただ、塩味はあくまで好み。1%~1.5%のあいだで好みの具合を調整します。多くのシェフが塩分濃度の1%を選択しているのはペペロンチーノのためだけに濃い塩分の茹で湯を準備できないからでしょう。1%で茹でると仕上げに塩を足す必要が出てくるのでつくるのが難しくなります。

ちなみにアルケッチャーノの奥田シェフは海水の濃さである3%の塩分で茹でて、お湯で洗うという例外的な手法で知られています。この手法はパスタをプリプリにするので、知っておいてもいいでしょう。ただ、テストしたところ麺とソース分との絡みが悪くなりシンプルなペペロンチーノには向いていないようです。

また、1度に2人前以上はつくらない」ようにしましょう。量が多いと難しくなります。5人前以上を一度につくる場合は最後の工程をボウルで混ぜるアプローチをとることで解決しますが、まずは一人前で感覚を掴んでからです。

にんにくは国産又はスペイン産を選んでください。スペイン産は落合シェフ推奨の銘柄。たしかに癖がなくておいしいですが、入手の容易さからいえば国産でしょうか。ちなみににんにく8gは写真の量です。1片とレシピに書きました が、本当は計量するのが一番。パスタ100gに対して5gのみじん切りが黄金比であ る、と言い切っているシェフの意見も。

唐辛子は香りの良い小粒なものを。種は取り除いておきます。よく種が辛いのでとっておきましょう、といいますが、実は種に辛味成分が多く含まれているわけではないのですが(試しに種を口に入れてかんでみてください。 外側と辛味に違いはありません)焦げやすいのでとっておきます。

2mmの厚切りにしました。中心の芯の部分は竹櫛で除去します。実は入れても味に差はそれほど出ないのですが、問題は焦げやすいこと。取り除いたほうが無難です。パスタを茹でる用の鍋も火にかけておきましょう。

冷たいフライパンにニンニクとオイルを入れて準備します。この際、アルミかステン レスのフライパンを使うとオイルの色などの状態がわかりやすいので便利ですが、慣 れればテフロン加工のフライパンでも問題ありません。

こんな風にフライパンを傾け、オイルに浸るようにして弱火で加熱していきます。

加熱をしていきます。服部レシピに掲載されていた60度から70度で加熱するのはなかなか難しそうですが、目安としてオイルの温度が100度に近づくとニンニクから泡が出てきます。泡が出たら鍋を20秒ほど火から外し、温度上昇を落ち着かせましょう。

油の温度は126度、まわりがかすかに色づいているのがわかります。頭に入れておくべきはニンニクが急速に色づきはじめる温度です。メイラード反応は154℃から顕著になることを憶えておきます。(もちろん、それ以下の温度でも遅いだけで反応自体は置きます。味噌や醤油、黒にんにくなどが茶色いのはメイラード反応の結果です)だからメイラード反応を起こす必要のある肉や魚を焼くときのオーブンの温度は最低160℃以上にセットし、焦げ目をつけたくない場合は120℃や140℃という具合に温度設定することが多いのです。
今回の目的はニンニクにしっかりと火を通しつつ、表面をきつね色にすること。そのため低温から徐々に温度を上げていき、ゆっくりと火を通します。

ニンニクに火が入ったか調べるには竹串が便利です。火が通ったジャガイモの ようにすっと串が通ればOK。

火を止めて、赤唐辛子を入れて馴染ませます。にんにくと赤唐辛子を同時に投入し、 香りを出す流派(?)もありますが、この段階で加えても辛味は充分に出ます。

この段階でにんにくをとり出すこともできますが、この後入れるゆで汁にニンニクの風味を移したいので残しておきます。風味は水には溶けますが油脂には溶けづらい(逆に香り成分の多くは水に溶けづらく、油脂に溶けやすい性質を持つものが多い)ので、おすすめしません。もしも、薄切りのニンニクを使って食感のアクセントにしたい場合、半量をとりだし、もう半量は鍋に残しておくといいでしょう。

イタリアンパセリのみじん切りを投入してフライパンの温度を下げます。この状態で ソースのスタンバイはOK。

パスタを茹ではじめます。袋の表示時間から1分程度引いた時間が茹で時間の目安になります。実際はメーカーによって違い、バリラなら40秒、ディチェコなら1分といったところ。今回はディチェコを使用し、お湯の量は1Lです。

茹でるお湯の量が少なく見えるかもしれませんが、これもペペロンチーノのコツ。通常、パスタはくっついたりするのを防ぐため、たっぷりの水で茹でる、とされています。このアプローチのメリットはパスタを入れた直後に湯の温度が低下しないこと。つまり、アミロースが溶けすぎずにすむのです。また、パスタから出 たデンプンがパスタに付着しにくいため、時間がたっても粘りが出ることがないのです。

しかし、ペペロンチーノに限ってはなるべく少ない湯で茹でたいところ。乳化剤として動物性のタンパク質を使わないので、パスタの茹で汁に含まれるデンプンやグルテンなどの成分だけが頼り。そのためなるべく濃い茹で汁が欲しいので、少なめの湯で茹でます。プロのキッチンではパスタを何回も茹でるので濃度のある液体がえられますが、お店と違って大量のパスタを茹でない家庭ではこの方法がベター。

お皿も温めておきましょう。

茹で上がり時間の1分30秒前にパスタの茹で汁を50ccとります。

茹で上がり時間の30秒前~1分前になったらフライパンに茹で汁を加え、中火にかけ ます。ニンニクの風味が溶け出した茹で汁が味の決め手。沸騰したことを確認したら火を止めます。

セットしたタイマーがなったので、パスタをフライパンに投入しました。この状態ではまだ乳化していませんが慌てる必要はありません。

秘密兵器のゴムベラか菜箸でパスタをぐるぐると混ぜます。このぐるぐる混ぜ、落合 シェフや真中シェフがおすすめしている手法ですが、なかなかの優れもの。パスタが 泡立て器のワイヤーの役割をはたしてくれるので上手に乳化させることができるのです。 この時、鍋を揺するとより効率が良くなります。

鍋を寄せて水分が少ないと感じればスプーンで一杯、もう一杯と茹で汁を追加します 。この時、乳化にこだわるあまり激しく鍋を煽り、かき混ぜる人がいますが、それはNG。パスタの表面が崩れると滑らかさが失われてしまいます。乳化作業で重要なのは オイルと水分のバランス。ぐるぐるとパスタをかき混ぜ、そこに適正な水分があれば ソースは(一時的ではありますが)繋がります。

出来上がり。熱いうちに食べましょう。乳化剤となる成分(具体的にはタンパク質) が入っていないため、乳濁液は非常に頼りない状態です。なるべく早く食べるしかあ りません。食べるスピードが遅い人には少量のバターかチーズを入れてあげたほうが 最後までおいしく食べていただけるかもしれません。

パスタを持ち上げた時にオイルや水分が皿の底にたまらないこのぐらいの状態を目指します。オイルベースのパスタは水分とオイルのバランスがすべて。好みの割合を会得しましょう。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!