塩と鍋が決め手の本格湯豆腐
湯豆腐は冬の定番ですが、江戸時代の料理書『豆腐百珍』には掲載されていません。あまりにも簡単な料理なので、載せるまでもないと作者は考えたのかもしれません。(ちなみに冷奴も掲載されていませんが、同じ理由かも)
しかし、この湯豆腐。ちょっとしたところに気を配るだけで、味は格段によくなります。今日は湯豆腐の作り方を学びましょう。ポイントは『塩』と『土鍋』です。
本格湯豆腐
作り方
1.土鍋に水1L、昆布10gを入れて30分ほど置く。(【Tips 1】湯豆腐をなめらかにするための『土鍋』)
2.かけ醤油をつくる。醤油50cc、みりん50cc、水250cc、鰹節5gを小鍋にあわせて強火にかける。沸騰してミリンのアルコール分が飛んだら、ザルでこして鰹節をとりのぞく。
3.豆腐を8等分に切る。
4.1の土鍋に3の豆腐、塩小さじ1を加えて強火にかける。土鍋以外の金属製の鍋の場合は中弱火にかけて、ゆっくりと温めるようにする。(【Tips2】『塩』の力で豆腐をやわらかく)
5.周りがフツフツと沸いてきたら弱火にして、3分ほど煮る(沸騰はさせない)。豆腐が芯まで温まったら火を止め、出来上がり。薬味として一味唐辛子を少し振った大根おろし、青ネギの小口切り、おろし生姜などを添える。
豆腐をすくい、薬味を添えて、かけ醤油を垂らして食べます。
★レシピの解説
【Tips 1】湯豆腐をなめらかにするための『土鍋』
以前『豆腐の油焼き』をご紹介しましたが、豆腐を加熱しすぎてはいけません。豆腐のなかの水分が蒸発し、まわりの豆腐を押し広げて穴ができてしまうからです。これを調理用語では『スが立つ』と言い、スが立ってしまうと湯豆腐の命である滑らかさが失われてしまいます。
それを防ぐためには急激な加熱を避けるのが一番。そこで水からゆっくりと加熱します。土鍋は熱伝導率が悪いので、温度が上がるスピードが遅いので、ソフトに熱が伝わります。試しに上の写真のようにアルミ鍋でつくった湯豆腐と食べ比べてみると、なめらかなのは土鍋でつくったほう。比較すると土鍋の力がよくわかります。もっとも
「土鍋なんて持ってないがな」
という方はいつもの鍋を使ってください。でも、土鍋と金属製の鍋は熱伝導率が異なるので、注意が必要です。土鍋であればなにも考えずに強火にかけて、温まってきたら火を落とすだけでいいですが、金属製の鍋を使う場合は弱火で加熱し、ゆっくりと温めるようにしてください。
鍋の底がふつふつとしてきたら弱火にします。湯の温度は90℃くらいが理想的。豆腐の内部の温度が90℃くらいまではスが立ちづらいことを思い出してください。芯まで温める必要がありますが、豆腐の水分が100度に達する前に加熱を止めるのが重要です。
豆腐の下に昆布を敷くことで、熱の当たりがやわらかくなります。特に土鍋ではない、金属の鍋で湯豆腐をする場合は必ず敷いてください。また、昆布に含まれるグルタミン酸が豆腐の味を良くし、同じく含まれる塩分もいい仕事をしてくれます。塩分の働きについてはTips2で解説します。
【Tips 2】『塩』の力で豆腐をやわらかく
豆腐は熱い豆乳に凝固剤を打ち、固めてつくりますが、温めることで豆腐に残っている凝固剤が再び働き、やや硬くなります。しかし、湯豆腐の煮汁に塩分を加えると、凝固剤に含まれるカルシウムの働きが阻害され、固くなるのを防ぐことができるのです。
【アレンジ】野菜湯豆腐
湯豆腐に野菜を加える場合もありますが、小松菜や水菜のようなアクの少ない野菜が向いています。小松菜や水菜は90度の湯であれば20秒程度の加熱で食べるのがベストなので、豆腐が温まってから入れればいいでしょう。
他にしいたけなどのきのこ類を加えると、きのこに含まれるグアニル酸という旨味成分と昆布の旨味成分であるグルタミン酸の相乗効果で、よりおいしく食べることができます。きのこから旨味成分を引き出すメカニズムを思い出してください。
きのこのグアニル酸は低温で加熱することで酵素によって核酸が分解されて生成されます。つまり、しいたけは豆腐と一緒に入れて、ゆっくりと加熱をするのが正解。豆腐が芯まで温まった頃にはしいたけもちょうど食べごろになっているはずです。
最後に湯豆腐の味は豆腐の質で決まるので、できるだけおいしい豆腐を選ぶのも重要です。たまにはスーパーでちょっと高めの豆腐を買ってみてください。豆腐は味の差の大きい食材、いろいろな種類を食べ比べるのも楽しいかもしれません。
こちらの記事では、豆腐料理の基本をご紹介しています。
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