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鶏もも肉でチキンステーキ(フライパン版)
これまで牛肉、豚肉と解説してきましたが、今日は鶏肉。いわゆるチキンソテーです。目指すのは「皮はカリっとしていて、なかはジューシーな仕上がり」です。
チキンソテー
鶏もも肉 300g相当
塩 重量の1%相当
レモン汁 小さじ1
EVオリーブオイル 小さじ1
opinion ディジョンマスタード 適量
まずはスーパーで鶏もも肉を買ってきます。
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一般的な若鶏(ブロイラー)です。選ぶポイントはやはり国産。理由としてはブラジル産やアメリカ産は冷凍の状態で入ってくる(豚肉や牛肉はチルドの状態で輸入されてくるので味が落ちないのですが、鮮度が落ちやすい鶏肉は冷凍が多い)ので、細胞が破裂し水っぽくなってしまっている鶏肉が多いのです。
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買ってきたらすぐにパックから出します。家に持ち帰るまでのあいだに結露もしますし、スーパーで売られている鶏肉は組織液が染み出しています。この水分は細菌が繁 殖する原因、早めに拭きとる必要があります。そもそも日本の鶏肉は毛を抜くためにお湯に浸けているので、湿っぽいのが難点。アメリカでコーシャ(ユダヤ教向け)やハラールの鶏肉が手に入ったら焼いてみてください。すごく焼きやすいので。
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とは言ってもないものねだりをしてもしかたがありません。とりあえず表面の水気を キッチンペーパーで拭きとることが大事です。
ここで一つ目の調理の分かれ道が。〈塩はどれくらい前に振るべきでしょうか〉
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正解は先に塩を振っておくことです。スーパーで売られているブロイラーは水分が多く味も薄いのであらかじめ塩で水分を引き出しておきます。味のある地鶏なら調理の直前に塩を振るのがいいでしょう。
このとき塩の量の目安になるのが肉の重量の1%。30分以上、寝かせて塩を浸 透させましょう。(すぐに調理しないなら冷蔵庫に入れます)
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寝かせた状態がこちら。多少、色が濃くなっています。
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表面に浮いてきた水気を拭き取ります。時々「この時浮いてきた水分は旨味なので拭き取らない」というシェフの方がいますが、表面に水分があるとうまく焼けないので拭き取りましょう。
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肉をマリネします。ジョエル・ロブションは鶏のクラボティ ーヌ風というレシピで若鶏をオリーブオイルとレモン汁でマリネしています。酸性の液体であるレモン汁でマリネすることで肉の保水性が向上し、しっとりと仕上がります。
この時、マリネ液(オリーブオイルとレモン汁をあわせたもの)は身だけに塗るのがポイント。皮をぬらしてしまうとカリカリに仕上がりません。
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今度は皮をうえにして、室温で1時間です。この時、ラップはしません。もしも、時間 的に余裕があるのなら、この状態で冷蔵庫にしまい一晩寝かせて皮を乾かすのが理想 です。この場合は冷蔵庫から出して、室温に戻します。
さて、室温に戻った肉を焼きます。ここでも調理の分かれ道が。
〈肉は冷たいフライパンから焼くべきか、それとも予熱するべきでしょうか〉
世間一般で科学的調理と枕詞がつくと弱火で加熱するようすすめている方が多いですが、ここで目的の仕上がりを思い出してください。我々は「皮をカリッと」という仕上が りを目指していますが、ハロルド・マギーはそのためには「オーブンやフライパンの高温が一番よい」という結論を出しています。
その理由はこうです。鶏の皮の成分は50%の水分、40%の脂肪、そして3%の結合組 織コラーゲンからなります。皮をカリッとするのは皮にふくまれるコラーゲンが溶け てゼラチン化し、水分が蒸発した結果です。弱火で加熱するとコラーゲンが溶けてゼラチン化する前に、水分が蒸発し皮が乾燥してしまうので、食感が悪くなってしまうのです。
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というわけで科学的にはある程度、予熱をしたうえで焼く必要があるようです。テフロン加工のフライパンでは中火で数分間、温めたフライパンに少量の水をいれると確かめることができます。
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ほんの少しの水を入れるとすぐに水の泡ができて、動く状態が理想。大きな泡が立ち、すぐに蒸発するようでは熱しすぎ、水滴が動かないようでは温め不足です。
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フライパンにサラダ油小さじ1くらいを敷きます。油が入ることで肉と金属のわずか なすきまにも熱を伝えることができるからです。経済的に余裕があるのならオリーブ オイルで焼いてもOKです。(この油はあとで拭き取るので味には影響しませんが)
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肉を投入します。
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肉を入れて2分間はヘラで押さえます。この作業によって皮が平らに伸ばされ、熱の伝 わり方が良くなります。また均等に加熱することにも繋がります。
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ただし底が固まったら抑え続けるのはNG。肉は水分を含んだスポンジのような状態。 押さえつければ水分が出てしまい、ジューシーさが損なわれます。底が固まったら火を弱め、じっくりと火を通していきます。
また、この時フライパンに蓋をすべきではありません。肉が蒸された状態になり、内部温度が上昇しすぎてしまいますし、水蒸気がこもって皮目がカリッとした仕上がりになりません。
今回、肉の中心温度は68度を目指します。安全のためには72度を推奨されていますが、70度を越すとジューシーさが損なわれます。もう少し低くてもいいのでは、と思うかもしれませんが、もも肉は多少中心温度を上げ、コラーゲンを分解したほうがやわらかく食べることができる、という考え方です。
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5分経過しました。肉の裏面に焼き色がついたのを確認して、裏返します。よく観察すると肉の中心近くまですでに火が入っていることがわかります。
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皮がかりかりに焼けました。一度、フライパンを火から外します。皮を焼く温度と肉 を焼く温度が違うからです。
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皮から出た脂を拭き取ります。
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美味しいEVオリーブオイルを少し足します。この工程によってフライパンの温度も下がります。こちらの面には焼き色をつけないようにしたいので、弱火で火を通していきます。
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一番膨らんだところを指で押して、弾力があれば火が通っています。最後に火を強め て、もう一度皮目の水分を飛ばします。肉側を焼くと水蒸気によって、皮が湿ってしまうためです。
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セオリーからいけば温かい場所で休ませたいところですが、内側から出る水蒸気で皮 が湿るのが難点なのであまり休ませません。温度を計るとぴったり68度でした。終始、弱火で加熱すると同じ中心温度に到達するまでに15分〜20分ほど時間がかかりますから、それだけ水分が蒸発するリスクが高くなり、外側もパサついてしまいます。火加減にはアクセルワークが必要、ということです。
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断面はこんな感じ。肉汁がたっぷりと含まれていることがわかると思います。あとは 肉を焼く練習あるのみ、です。
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仕上げにディジョンマスタードを塗っても美味です。ただ皮のカリッと感は多少失わ れますね。もっといい焼き方がありそうな感じもしますが(ただ単純に皮をかりっと 焼きたいのならオーブンのほうが向いています)こうして考えると鶏肉を焼くという 作業は皮の部分と肉の部分という2種類の肉を焼いている、ということがわかりま す。肉の性質を理解して、目的の仕上がりを目指しましょう。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!