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煮豚(角煮)の作り方

たっぷりと時間をかけてつくる、本格的な煮豚(角煮)のレシピです。豚の角煮の肝は肉の味を逃さずにトロトロで、かつしっとりと煮上げるか、という点。このレシピは2017年にある料理雑誌に発表したものがベースになっています。従来のレシピと違うのは

1 砂糖と塩で豚バラ肉を漬ける
2 下茹でをせずに豚肉の味を生かす

という2点。

豚角煮
豚バラ肉 600g  ブロックを購入し、3.5cm厚にスライス
塩    小さじ1/2(3g)
砂糖   大さじ1(9g)
昆布 5g
水  1L
大根   300g(1/4本)
酒    150cc
砂糖   大さじ6
醤油   大さじ2
たまり醤油 大さじ3
塩    小さじ1/2

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豚バラ肉は脂肪とコラーゲンが多い白い肉と赤い肉が層になっています。脂肪とコラーゲンが多い白い部分は高温で長く煮込むことでトロトロになりますが、反対に赤い部分はパサパサになってしまいます。このあたりの妥協点をどこに見つけるか、というあたりに作り手の個性がでます。

豚バラ肉は安価な部位ですが、手間をかけることで極上の味に仕上がります。1996年の夏、引退宣言をした20世紀を代表するシェフ、ジョエル・ロブションが(引退宣言は後に無形化し、ロブションさんはその後、世界に店を広げますが)ロンシャン通りにあった店を閉店するにあたり、最後のメイン料理に選んだのも豚バラ肉──ソミュール液(砂糖や塩、スパイスを溶かした液)に浸けた後、柔らかくなるまで煮たもの──でした。

その下処理からアイディアをもらい、豚バラ肉は塩と砂糖をまぶして30分間以上、冷蔵庫で寝かせてから使います。

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30分経過すると色が濃くなったのがわかります。豚肉になにが起きたのでしょうか? 塩に漬けることで、通常はたがいにしっかりとまとまっているタンパク質の一部が溶け、繊維がほどけます。

なにもしない状態の筋肉組織は光を通さない=不透明ですが、ほどけたことになって光が通る=半透明になるので、色が濃くなったように見えます。繊維がほどける、ということは筋肉の繊維が弱くなったということ。同時に脱水によって組織は密になります。結果として、詰まっているがやわらかい食感──ハムに似た──になります。

硬くて大きな肉をやわらかく、しっとりと煮るコツをハロルド・マギーはこう説明しています。

硬い結合組織が多く含まれる肉は、コラーゲンをゼラチン化するために70℃〜80℃以上で調理する必要がある。しかしこの温度範囲は、筋繊維から肉汁が流れ出てしまう温度(60〜65℃)よりもかなり高い。したがって、硬い肉をジューシーに調理するのはむずかしい。繊維が脱水しないようにコラーゲンの溶解する最低温度かそれよりわずかに高い温度でゆっくりと調理するのが大切である。

一般的にコラーゲンは65℃で収縮をはじめ、硬くなります。中途半端に加熱した肉が硬いのはこのため。コラーゲンは70~80℃以上で軟化し、ゼラチンになるので、肉汁の一部がゼラチンにとどまるので、ステーキとは別の種類のジューシーさが出ます。

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表面の水気を拭き取ったら、昆布5gと水1Lを入れて、中弱火にかけます。強火にかけずに中弱火にかけるのは温度をゆっくりと上げるためです。50℃以下の低温では肉の熟成が促進され、結合組織が弱まる(低温ローストと同じ原理です)ので、繊維から肉汁が抜けるような高温での加熱の時間を短くすることができるからです。

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ふつふつと沸いてきたら火を弱火に落とし、水面が微笑むような火加減を保ち、1時間〜1時間半加熱します。最重要ポイントは「蓋をしないで煮込むこと」。蓋をしなければ気化熱によって表面が冷やされるので、水温の上昇を抑えることができます。

1時間半、煮込んだら粗熱をとり、冷蔵庫で冷やします。冬であれば外に置いておいてもいいでしょう。

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すると、こんな風に表面に浮いた脂が固まります。このレシピでは下茹でをせずに豚の煮汁をそのまま生かしますが、仕上がりを軽くするために脂はできるだけ除去したいところ。そこでこの方法をとります。

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時間はかかりますが、手間はかかりません。出汁用に使った昆布も除去します。

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酒150cc、砂糖大さじ6、醤油大さじ2、たまり醤油大さじ3、塩小さじ1/2を加えて再び中火にかけます。大根があったので、300g加えてみました。沸いたら弱火に落とし、1時間煮ます。

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煮上がった状態がこちら。可能であれば冷蔵庫で一晩、休ませると出ていった肉汁が肉に再吸収されるので、肉はさらにジューシーになります。

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出来上がり。肉はしっとりとやわらかく、とろりと溶けます。温め直すときにはハロルド・マギーが紹介している温め方を実践するといいでしょう。

まず、肉を取り出してから煮汁だけを一度沸騰させ、火を止めます。そこに肉を戻してかき混ぜ、弱火で肉を温めるのです。おいしい煮込みも沸騰させると水分が飛んでしまいますが、この方法を使うと肉の表面が沸点温度になるのはごく短時間なので肉から水分が逃げることはありません。肉を料理するときにも穏やかに加熱したのであれば再加熱のときも同様にすべき、というのがマギーさんの教えです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!