焼きとうもろこしのスープ
とうもろこしのシーズンです。個人的に一度は作りたいのがポタージュ。生のとうもろこしからスープを作ると、インスタントより格段においしく仕上がります。
基本のコーンポタージュはこちらの記事で紹介していますが、先日note社の加藤さんと打ち合わせで会った時「あのレシピ、美味しいんだけど裏ごしが大変で……」と言われたので、今回はミキサーと裏ごしについて解説します。
基本のポタージュと作り方はほとんど同じなのですが、とうもろこしを焼いて香ばしい香りを出し、バランスを取るために昆布で味を補っています。
とうもろこしは皮を剥きます。とうもろこしのおいしさはうま味物質のグルタミン酸と甘味成分のスクロース(ショ糖)。鮮度が落ちるとショ糖が減るので、早めに食べるのが吉です。
包丁で実を切り出します。とうもろこしは皮、胚乳(いわゆる実の部分)胚芽(根本の部分)で構成されていて、実は主に糖質、胚芽には遊離アミノ酸や脂質が含まれています。
スープに使う場合は胚芽が含まれるように根本から切り落とすことが重要です。有名シェフの和久田哲也さんもとうもろこしをカットする際は「実だけではなく、芯の表面を少し削ぎとるようにカットするのがコツ。そこに甘みがある」(『モダン・タパス・コレクション』柴田書店刊)と言っていますが、おそらく理に叶っているのでしょう。
とうもろこしの実はこれで準備完了。
芯は小さくカットします。
芯と内側のやわらかい皮、ひげと昆布、水を鍋に入れ、火にかけます。沸騰したら弱火に落として5分煮出し、とうもろこしのストックをとります。
そのあいだに焼きとうもろこしを作りましょう。鍋にサラダ油大さじ1/2(分量外)をしき、中火にかけます。
とうもろこしを投入。
跳ねるので蓋をして、そのまま中火で加熱します。
1分経ったらかき混ぜて、蓋をして再び放置。これを3回繰り返して、とうもろこしと鍋底に焦げ目をつくります。
弱火に落として、醤油で香りをつけます。
とうもろこしのストックを注ぎます。
バターを高温に熱すると、とうもろこしの香りが負けるので、ここで投入します。
ミキサーにかけます。
僕が使っているのはバイタミックスのE310という機種です。実は裏ごしの手間はミキサーの種類によって変わってきます。結論から言えばバイタミックスを使えば裏ごしの必要がないほど。
低い速度から回し始め、徐々に速度を上げていき、少し長めの時間、ミキサーにかければなめらかなスープになります。バイタミックスは速度を変えられるので、熱い食材をミキサーにかけても吹き出すリスクがほとんどありません。
ミキサーのなかでは何が起こっているのでしょうか? 回転する刃が食材を細かくする、と思っている方がほとんどだと思いますが、実際にはミキサーの刃が食材を切断するのは最初の段階だけです。食材のサイズが小さくなると、刃に当たらなくなるからです。
フードプロセッサーやハンドブレンダーと違い、ミキサーを使うと食材がある程度の大きさまで粉砕されると、キャビテーションという力が働きます。キャビテーションとはwikipedeiaに「液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象」と説明されていますが、大雑把に言えば圧力差による力が食材に伝わる現象です。その衝撃によって、食材は細かく粉砕されます。
食材の粒子が小さくなるほど、さらに小さくするのに多くの運動エネルギーが必要となります。つまり、モーターのパワーが物を言うので、高性能のミキサーを使うメリットが出てくるのです。問題は高性能のミキサーはいいモーターを使っているので価格が高いということ。さすがにミキサーに5万円以上も出せないという人がほとんどでしょうが、投資する価値は十分にあります。裏ごしの手間がほとんどいらない、というのも大きいですが、繊維質をそのまま料理に生かせるというもの利点です。つまり、野菜のパルプなどのゴミが減るのです。この性質は特に野菜を使ったスムージー作りで役立ちます。
バイタミックスの弱点は「音がでかい」&「底が広いのでつくる量が少ないと力が逃げる」の2点。前者は日本の住環境を考えるとかなりの問題で、後者はマヨネーズなどを少し作りたいというときに不便です。安価なブレンダーでも手間はかかりますが、なめらかなスープを作ることができます。そのためにはまずミキサーをある程度の時間かけて、しっかりと回しましょう。また、食材の粒子を細かくするにはエネルギーが必要なので、たくさんの量を回すのではなく、何度かに分けることが重要です。
そして、裏ごしする必要があります。裏ごしは面倒な作業です。しかし、適切な道具があると楽に作業が進められます。
お店では鍋の大きさや種類に応じてシノワという道具を使い分けますが、家庭では手持ちのザルで裏ごしをすると思います。その時、写真左のような底にワイヤーがあるタイプは食材が詰まってしまい、洗い物が大変です。また、写真右のようなパンチングメタルのザルは洗い物が楽そうですが、穴が大きくほとんど裏ごしできないでしょう。
cakesの連載でも取り上げましたが、裏ごしの場合はこのザルのように底にワイヤーがなく、しかもある程度目が細かいざるを使う必要があります。
そして、ザルの相棒は木べらではなく、ゴムベラです。時々、木べらを使う人がいますが、木べらはザルのカーブにそわず、裏ごすのが大変です。ゴムベラは先端にしなやかさがある製品が適当で、購入する前に手で触って確かめてください。
もっと楽に、かつ丁寧に作業するのであれば裏ごし器です。裏ごし器は底が広いものほど効率的に作業が進めます。裏ごし器を逆さまにして、サイズがあうボウルを使うのも大切。安定して作業できます。
裏ごし器をの相棒はドレッジです。スケッパーとも呼びますが、お菓子やパンの生地を扱うときに使う道具です。(料理の先生がまな板から食材を移すときに使ったりもします)平らな面が広いので作業効率がいいのです。
いずれの道具を使うにせよ、高性能なミキサーをしっかりと回しておくと歩留まりもよく、ムダがでません。
繊維質が細かくなっているとスープに濃度がつくのもメリット。昔のコーンポタージュにはバターと小麦粉で炒めたルーでとろみがついていますが、現代の技術を使えば繋ぎがいらず、その分、とうもろこしの味を強く出せるのです。
クルトンを添えれば出来上がり。とうもろこしのポタージュは温かい状態でも冷たくしてもおいしい料理です。