20191128@無力無善寺

リビングには白い立方体に画面がついたテレビ
外は明るく平和そのもの
料理番組ではオムライスを切っている
切るたびに断面からきっと玉ねぎを沢山摂取したのであろうさらさらとした赤黒い血液が溢れ出す
ケチャップをかけてもその上から血液が飛び散る
この平穏な昼下がりに反抗するように
夢の中の真昼の空はいつだってエル・グレコの絵画のようにコントラストの激しい青空だ
何が起ころうとも雲は一定の速度で動いていく
非常に無情でなんてリアルなんだろう

中学校の教室
掃除のために机を後ろに下げて
歪なスペースで正直な殺し合いが始まる
箒で叩きあっていたかと思えば銃撃戦が始まる
私は必死で逃げている
駆ける脚は温かく熱い血が通っていることを感じる
決して弾丸が当たらないことは分かっている
決して撃ち抜いて貰えないことは分かっている
いつもそうだった
いつだってそうだった

逃げた先は川沿いの線路だった
焦げたように真っ黒に錆びた線路のざらつきを足の裏に感じながら走った
見知らぬ懐かしい顔をした男と走った
彼は目を見開いて寂しそうにしている
しかし私を追い抜いて崖を下る
必死で追い掛ける途中足元に現れた沼に私は沈んで行く
男は立ち止まるものの目を見開いたまま柔らかな微笑みを向けるだけで何もしない
腰の辺りまで泥に漬かる私は微睡みに負けそうになる
いつもそうだった
いつだってそうだった

夕焼け色の街並みを髪の長い男と歩いた
道中身体の大きい外国人の男に絡まれる
仕事に行かなきゃ、と言うと今何時?と尋ねられる
IPhoneの時計がものすごい速さで進んだり戻ったりする
あたりはいつの間にかすっかり夜になっている
空が紺から緑のグラデーションになってカメレオンみたいだ

いつだって青空なのではなかったか

ホテルに入ると髪の長い男は私の身体を優しくベッドに押し倒す
見上げると顔がなかった
とても悲しいと感じる
胸の奥から空の高い方まで
いつだってこんな気持ちでいたかったのだ

やがて男は後ろから何者かに刺される
よく見るとカウボーイのような出で立ちの
包丁と鋏を持った男たちがベッドを取り囲んでいた
ああ、あの包丁はうちのキッチンで水切りをしていたあの安包丁だ
そしてトイレの個室ぐらいの狭い真っ白な部屋に追い詰められる
後ろでは包丁や巨大な鋏での殺し合いが始まっている
血で染まった大きな顔が近づいてくる
この人には殺されたくないなあ
振り返ると大きな窓
急いで窓から身を乗り出すと浅黒い肌の女達が腕を引っ張って降ろしてくれた
女は5人、エスニックな服を着ている

黄金の草むらをみんなで手を繋いで走る
青春は何度だって訪れると誰かが言ってくれたけれど、或いはこんな瞬間かも知れなかった

いつの間にか自分は当事者ではなく、
観客の視点に変わっている
女達の後ろから刃物を持った男達がすごい勢いで追いかけてくる
首を鋏で一人ずつ切り落としていく男
空は夕暮れに少し水色が混じってとてもノスタルジック

女達を殺したのち、
男達は元いたホテルに戻る
何故か皆若返っている
きっと青春を取り戻したのだ
何故か殺される者、殺す者が決まっており、
殺される者は笑顔で鎖に繋がれている
私はここまで傍観者である
ふと殺す者に「これ持って」と殺される者の手首を持ち頭上に固定するよう言われる、
既に血が滲みぬめぬめしている
これはたまねぎが必要な血だ
ただし片手は何故か金属製の義手である
私多分金属アレルギーだから、この血を舐めたいとは思わない

殺す者が殺される者の腰を巨大な鋏で真っ二つにする
二人共幸せそうな笑みを浮かべていた
私はその様子を見てとても羨ましいと感じる
恐らく私は殺される側だったが、
殺してくれるひとはもう死んでしまった

周りでもしばらくその光景が繰り広げられる
そして目が覚めた

殺して貰えないのであれば、
私はあの男を自分の手で殺したかった

そしてあなたと生きたい
あなたと一緒に生きていきたい

抱きしめるとき温かく透ける身体
あなたの姿しか映さないその瞳
シャワーを浴びながら胸元を流れ落ちる鼻血を舐めた時の少し困った顔
いつだって夢のような言葉を吐く嘘つきな舌先

私の夢は夢を飛び出した
お前のことを想うと沢山の血が流れる
ひどく絶望する
踊り出したいぐらい幸せだ
自分が自分じゃないみたいだ
生まれ変わったみたいだ
こんなはずではなかった
もっと論理的でいつも冷静な人間だと思っていた
私だけじゃない、お前だって同じだ
嫌なところばかり似ている気がする
訳が分からない、めちゃくちゃだ
これが最後だと何度目かも分からない嘘に酔いながら抱き合うのはおしまいにしよう
お前の顔が見える、
胸の奥から空の高い方までどきどきする、
確かでとても不確かな血の巡り、
同じ速さで動いているのか確かめたい、
今確かめたい、いつだって。
これは本当に思い出なのか、
まるで何度も逃げ出せない始まりを繰り返しているみたいだ、
夢みたいだ!

私の夢は夢を飛び出した

(IPhoneを手に取り耳に当てる)

「もしもし、うん、寝落ちてた
うん、怖い夢見た
え?うん、出てきたかもしれないし何処にも居なかったのかも知れない
...........
え?終電あるの?
分かった、気を付けてね」

覚えていますか、あの日キッチンで水切りをしていたあの安包丁
握り締めたあなたの顔はとても寂しそうだった
手を握っていたっていつだって魂は別の場所に存在しているかのようだった
消えるつもりなんてなかったんでしょう?
もしも出来るとすれば、自分のことを守るために誰かを傷つけること
そのためには刃物なんか要らない
刃物なんかなくてもこんなに傷つけることが出来る
分かっていたのにあの日泣きながら包丁を掴み浴室へ逃げ込んだ
浴槽の中に包丁を置いて膝を抱えて座り込んだ
永遠に感じた、現実味がなかった
頭の後ろの辺りがぴりぴりと熱く痛んで、
これは夢ではないのだと警告されているみたいだった
ベッドから逃げ出した時に擦りむいた膝が申し訳なさそうにじくじくと痛んだ
とても静かでひとりきりだった
或いは初めからひとりきりだったのかも知れない
そしてこんな時間をずっと求めていたのかも知れなかった
あなたとわたしとの境目がなくなって、
ふわふわした魂をお互いに悲しんで、
出口の見えない繋がりを断ち切ってしまいたかったのかも知れない
或いはあのときあなたに包丁を押し付けて、
お願いだから消してくれと頼めば良かったのかも知れない
死にたくなんてなかった
だけどこのまま永遠に孤独が続くのであれば、
せめて一緒に時間を止めたかった
金属製の義手に血を滲ませた彼のように幸福な死を迎えたかった

だけどその先は?
私はきっと地獄に落ちる
あのひとの顔はもう消えているから
私はひとりきりのあなたたちと一緒に生き続けることをもうとっくに選んでしまっている
じゃあ今までの話はなんだったのかって?
ただの夢の話
ただの夢だから未だ夢に現れては私を絶望させそして幸福にする
こころにベールをかけて過去と今、未来を繋げていく
ざらざらとした中身を平らにするために
そしてきっといつか平らなこころに退屈するだろう
だからあなたたちも今ここに生きているのでしょう?
私が歌い続けることとあなたたちを繋げる場所は決して失われることは無い
ひとりきりでも、独りではないのだ

どうしても

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