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Reliability: 考えを巡らしている過程を詳らかにする

「ソース(情報源)をチェックする」以外の信頼度の確認方法
あらゆる情報をオンラインで集められる今日、日々触れる情報の量は膨大で、これを整理して精査するには膨大な時間がかかる。だからニュースのまとめサイトや商品のレビューをしてくれるサービスは気軽で便利。でも目にする情報の信頼性(reliability)をどう判断するのか。一般によく言われる「情報源(ソース)をチェックする」という方法の他に、研究ではいくつか信頼性を検討する方法がある。

今日はある「知」が信頼に足る・reliableなものなのかどうか検討する方法とトランスローカル論を綴るこのnoteでの信頼性についての考え方について。

ピースをすくい集めて1つの絵(知)にする
何か知りたいこと・調べたいことがある人にとっては、気軽に大量に浮遊している情報をウェブ検索を通じてパズルのピースのようにすくい集め、1つの絵(知)として意味を成す形に組み上げることができる今の環境は素晴らしい。時々はそのピースのなかに偽物(fake)もあるし、組み上げる絵が恣意的なこともあるけれど、特別な訓練も必要なく、このように個人が簡単に1つの意味を成す絵をつくれる環境がある。組み上げられる絵の新規性(novelty)は別にして、それは言ってみれば研究が目指す「知をつくる」手続きとと同じだ。

組み上げられた絵(知)が信頼できるかどうかのチェック
では、何かを「知」としてピースを組み合わせて1つの絵に組み上げるとき、できあがったものについての信頼性(reliability)を私たちはどう判断するか。それが信頼に足る情報なのかどうかを、私たちはどうやって知ることができるのだろうか。

一般によく言われるのは「ソース(情報源)が信頼できるかどうか」。これはグラフや表などの例がわかりやすくて、それをつくるときに使ったデータが、政府の統計局など信頼できる機関から取得されているかどうか。他にも、論説や社会現象を解説するような記事も、引用元できちんと論理(logic)のある議論をしているものなのか、或いはある程度の色がついているものなのかどうかなどで、信頼性を判断できる。この方法はオンラインのような匿名性が高い環境で、かつ議論の過程はすっ飛ばして「結果」にあたる情報だけが膨大にあるとき、ある情報がどのくらい信頼に足るのかを判断するのに頻繁に用いられる。

パズルの絵になるピースを自分で見つけてくる
さて、研究では他にも信頼性(reliability)を検証する方法がいくつかある。代表的なのは、経験的に検証する方法で、ある理論や概念が実際にある事象を説明するものであるのかを、ある特定の地域やグループを対象としたフィールドワークを通じて、empiricalに(経験的に)示す方法である。"多様性をベースとした学びのデザイン"であるトランスローカル論も『サステイナビリティ課題の解決に向けた社会デザイン研究の拠点形成(JSPS拠点形成事業アジア・アフリカ学術基盤形成型)』という3年間の研究プロジェクトにて、秋田と南アフリカでのフィールドワークを通じて経験的な検証を試みている(この内容については別のnoteで書く予定)。

実証的な検証はウェブ検索などで二次情報を集めてくるのではなく、自分で対象についての一次情報をデータとして集めてくる。ソース(情報源)を確認する方法とは違い、ある絵のパズルをつくるために合いそうなピースを既にあるピースの山から集めるのではなく、実際に絵にしたい風景の場所に赴いて写真を撮ってきて、それをもとにピースをつくるような方法だ。二次情報と一次情報にはこのくらい大きな差がある。

ただし、ここで注意しなければならないことが2点ある。1点目は、一次情報を集めてくる過程で集める者の恣意性が生じる可能性があること。誰しも時間と労力をかけて赴いた先で自分が意図していなかった情報に出会うと戸惑う。こういうときにフィールドワークで得られた情報を自分の考えに近い内容で再解釈してしまう、という失敗をする可能性はゼロではない。これを極力小さくする努力が必要だし、意図しなかった情報に出会ったときに楽しめるくらいのマインドが必要になる。

2点目は、フィールドで見聞きしたことを優先的に扱ってしまうこと。経験的に検証する方法は、実際に社会で起きていることを事実(fact)として扱う、という合意が前提としてある。しかし、ある事柄について様々な文献から理論や概念を参照して議論をすることもできる。このような実証を伴わない議論を「机上の空論」と批判することもできるが、これは実社会で役に立たないことに価値を置かない、という前提に立った主張になる。経験的に検証できることだけでアイデアが構成されていくとなると、随分と息苦しいことになってしまう。

考えを巡らしている過程を詳らかにする
研究のなかでも特に質的研究では、信頼性を示すために、研究の過程を慎重に細部まで説明する(describe maticulously)、という方法がある。質的研究では、人々の価値観や経験などを扱う。先日のnote (「言葉が似てくる」 : トランスローカル論での言葉)でも記したように、人は言葉を使って世界を切り取っている。だからよりグリーンな消費行動をしている人、大きな自然災害を経験した人、ジェンダーのことについて特定の考えを持っている人など、ある特性を持っている人の世界観を理解するためには、その人たちの言葉で切り出された世界を聞いてまとめていく必要がある。このようなときにインタビュー、観察、グループディスカッション、ワークショプなどの方法が使われ、これを実施する研究者は自身の主観を通して対象の世界観を理解する。

この他に地理情報、写真や動画、歌やパフォーマンスなどの、視覚的に切り取られた情報など、多様なデータをパッチワークのように組み合わせてそこに意味や解釈を生み出すのが質的研究が得意なことだ。このような場合に、ある研究がreliableかどうか・信頼できるものかどうかは、研究の過程で研究者がどのような手続きでデータを集め、どういう手順で分析をして、どういう考えを巡らしたあとに特定の解釈に至ったのか、という過程を精査することで判断することができる。このためには、研究を実施している間の思考のステップがまずは詳らかにされる必要がある。これを辿ることで、あるいは別の見方や解釈がありえるかもしれないが、研究を行ったものがどう考え解釈をしたのかを知ることができ、導き出された答えに納得感が生まれる。

右往左往しながら進む様子を慎重に細部まで記述する:トランスローカル論を綴る過程の信頼性(reliability)
多様性をベースとした新しい学びのデザインを提案するトランスローカル論を組み立てていく今のこの過程でも、思考の展開を詳らかにしていく。このnoteはそのための機能を持っていて、論として組み立てる過程を慎重に細部まで記述している。既に論として出来上がっているものについて順序立てて書いているわけではないので読みにくいことだろう。しかし、ひとつの論が立ち現れてくる過程を、その右往左往する様子も含めて記述していくことで、トランスローカル論が生まれてくる際の信頼性(reliability)を確保していく。


まだまだつづく。




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