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昭和の少女漫画に思いをはせる、令和の内職おばば

ある事情から「幻の名作」になっている漫画
『キャンディ・キャンディ』は
70年代育ちの女子の必修科目でした。
多くの昭和の少女漫画がそうであるように、
全9巻という決して長くない物語ではありますが、
思い出しただけで切なくなったり、
ときめいたりするエピソード満載です。

殊に作業をしているとき
ふと思い出すエピソードがありまして…
それについてねちっこく、うっとうしく
語っていきたいと思います。


はじめに

 今回の内容は、70年代キッズ(♀)を魅了した漫画『キャンディ・キャンディ』をフィーチャーしたものです。

 水木みずき杏子きょうこ(名木田恵子の別名義)原作・いがらしゆみこ作画【どちらも敬称略】のこの作品は、講談社の月刊誌『なかよし』にて、1975年4月号から1979年3月号まで連載されました。
 76年10月にはアニメ化もされ、原作の連載が終了するタイミングで番組が最終回を迎えました。月刊誌の作品を週1のアニメにということで、オリジナルストーリーも大分多かったと記憶しています。

 アニメのキャラクターデザインが原作イメージからかけ離れていたり、性格が(よくも悪くも)改変されたキャラが出てきたり、とってつけたようなオリジナルキャラのペットが登場したりで、アニメの方はどうも消化不良気味だったため、あくまで漫画ベースで語ります。

 余談ですが、大人になって結婚し、女児を2人授かってみて初めて、あのペットキャラ「あらいぐまのクリン」の存在意義が分かりました。要するに、おもちゃやグッズを展開する上で「売りやすかった」のでしょう。私自身、原作ではなくアニメ絵柄のひざがけを買ってもらったことがあり、主人公キャンディの足元には、しっかりクリンの姿がありました。

 それはともかくとして、この作品、水木氏といがらし氏の権利関係トラブルがこじれているため、現状では「稀覯きこう本状態ゆえ入手困難」みたいになっています。
 『赤毛のアン』や『あしながおじさん』『小公女』といった傑作少女小説のエッセンスに加え、看護婦(※当時の呼称)という職を得て自立する女性像とか、ハイスペックイケメンたちにやたらと愛される乙女ゲーヒロインとか、割と多方面に支持されそうな要素も多いので、何とか多くの人が気軽に読める環境になってほしいと願わずにいられません。

キャンディがパイを焼いたら

キャンディス・ホワイトという少女


 『キャンディ・キャンディ』のヒロイン「キャンディ」ことキャンディス・ホワイトは、12歳で孤児院「ポニーの家」から大金持ちのラガン家に引き取られます。
 そもそもは自分と同い年の令嬢イライザ・ラガンの話し相手の名目でしたが、実態は使用人としてこき使われ、超絶性格の悪いイライザとその兄ニールにいじめられはめになります。
 しかし、それでもくじけず、常に明るく前向きなキャンディは、使用人たちからは愛され、かわいがられていました。

 ある日キャンディは料理人のダグに教わって見事なパイを焼き上げるのですが、これをラガン家の本家に当たるアードレー家のエルロイという老婆に差し上げたいと言います。一族の中で今のところ実質的に一番偉い人で、みんなから「大おばさま」と呼ばれていました。

 キャンディは少し前、あるパーティーの席でエルロイに無作法を働いて怒らせてしまったことを気にしており、おわびにパイをプレゼントしようとしていたのですが、読者の大半がここで「うわあ、要らんことを」と思ったことは想像に難くありません。
 多分、何をしてもキャンディがエルロイ大おばさまの歓心を買うのは無理だろうなと、読み進めると分かるからです。

 それはそれとして、パイの出来に気をよくしたキャンディは、庭師のおじいさんからもらったライラックの花も飾り付け、愛らしく仕上げました。
 気のいいタグはそれを見て、「年食ってても女だ。きっと喜ぶぜ」と、キャンディのアイデアに「イイネ」します。

人間関係etc

 ところで、エルロイはニールとイライザをかわいがっており、このクサレ外道なかよし兄妹も、外面だけは「いい子ちゃん」として、エルロイと接していました。
 こういってはナンですが、どうやらうわべの敬意や優しさにコロっとだまされているチョイい人のようです。
 厳格だけれど身内には甘々のようで、同じ一族の子供――性格が良く外見も美しいステア&アーチーのコーンウェル兄弟やアンソニー・ブラウンのことは、当然のようにラガン兄妹以上にかわいがっていました。
 アンソニーたちが孤児院育ちのキャンディを気に入って仲よくしているのが気に入らないというのも、キャンディのパーソナリティーそのものを全く見ていないからでしょう。

事件勃発!

 さて場面はかわり、アードレー家の午後のお茶シーン。

 ちなみにアードレー一族はスコットランド系だそうですが、私はスコットランドのお茶事情はよく知らないので、「日本人が考えるイングランドっぽいやつ」程度で理解することにしました。

 なぜかキャンディの焼いたライラックのパイを前に、エルロイが「あなたもすっかり女らしくなって…こんなすてきなパイを…」みたいなことをイライザに向かって言い、調子こいたイライザが「飾りつけに苦労した」とか、腹の立つ笑顔で答えています。

 はあっ???
 やはりこいつは人の手柄を奪うことなど屁とも思わぬ人間のクズです。

 お茶の席には、エルロイの一番のお気に入りであるアンソニーがいました。
 実はイライザはアンソニーが好きなのですが、アンソニーの方はキャンディが好き(両片思い状態)なので、イライザに「君のところの愉快な女の子は元気?」と尋ねます。
 むっとしたイライザがキャンディの悪口を並べ、それにニールが便乗し、「やはりあの子は問題だ」とエルロイも表情を曇らせました。

 そしてたいへん間の悪いことに、この場にキャンディがびしょ濡れの姿で現れました。

 発明好きのステアが「水上を歩けるブーツ」なるものを開発し、ノリのいいキャンディが実験台になったばかりに…(略)です。
 ステアとその弟アーチーが「アードレー家ならうなるほど服があるから、あそこで着がえよう」と、楽天的に屋敷にキャンディを連れてきた結果、「薄汚うすぎたぇぬれねずみが!さっさと帰んな!」とエルロイに追い出されました(もちろん、こんなに口汚いわけではありませんが)。

 キャンディにしてみれば、詰めの甘いお坊ちゃんたちのせいで踏んだり蹴ったりという、本当に涙なくしては見られないシーンです。

 しかし、キャンディが(多分)それよりも悲しかったのは、エルロイのために焼いたパイが、なぜかイライザが作ったことになっていて、しかもイライザがパイの背後で「ドヤァ」という顔で腕組みしていたことでした。

アナタの気持ちがよく分かる

 話は大分長くなったのですが、書き起こしの仕事の中で、このときのキャンディの気持ち「分かる、分かるよ!」となることがあります。

 今まで2度ほど、雑誌とWebサイトで「協力」として名前が載ったことはありますが、音声の書き起こしなど基本的に裏方仕事ですし、そもそも好きこのんでそうしているので、それは構いません。

 それでもやるせなくなるのは、例えばこんなときです。

 インタビュー後、「○○日頃アップ(掲載)予定ですので、その前にいったん原稿に目を通していただけますか」的な打ち合わせをしている状況まで録音されていることがあり、まあ普通は「承知しました」で済むのですが、「本日録音したものを書き起こして、それをもとに原稿を作ります」という説明に対して、「いっぱいしゃべっちゃったし、専門用語も多いから大変でしょう?」みたいなお気遣いを見せる方がいます。

 そこで「書き起こしは専門の人に依頼します」と言う方もいますが、作業自体は誰がやっても変わらないので、そこまで明らかにする必要はありませんから、大抵「いえいえ、大丈夫です」くらいな感じで流されます。

【本音】そーだよっ。バッキバキにしゃべり倒してくれるから、チョー大変だよ!▼1時間のインタビューで、こちとら毎度毎度2万字打ち込んでるわっ!(しかもこれ、そこまで早口でなくても発生する字数です)▼専門用語というか、録音が悪いから音を正しく拾うのがまず大変だったし!

 大分手前勝手な理由を含みつつ、内心はこんな感じになっております。
 それも仕事なので致し方ないとはいえ、それでも、それでも時には…

そのパイを焼いたのはイライザじゃない!私よ!エルロイ様聞いて!

 という心境になるわけです。

 「こういう音源、AIとかで自動的に起こしたりできるんでしょ?」とおっしゃるインタビュイーも時々いて、これもまたストレスです。
 それが本当にできるなら、それを「その場で」やった方が効率よくないっすかね。

 いずれは飛躍的に技術が進み、そういうことも可能になるのかもしれませんし、現在でも条件さえそろえば何とかなることもあるでしようが、生身の人間が恣意的に発するライブ感のある「声(話)」というのは、「こういうニュアンスだろうな、これの言い間違えかな、前の音とリエゾン状態になって全く意図しない言葉として認識されちゃいそうだけど大丈夫かな」といったあたりし、まだまだAI的には「知ったこっちゃない」話のようです。
 AbemaやYou Tubeの自動生成字幕を見て、大したものだと感心する反面、「知ったこっちゃない」をお感じになる機会もあるのではないでしょうか。

 とはいえ、インタビュアーもインタビュイーも私に仕事をくださる皆さんも、イライザみたいに性根が腐っていたり、エルロイみたいに尊大だったりするわけではないのが救いです。

 そんなこんなで文字起こし人・須恵村すえむらは、今日もせっせライラックのパイを焼きます。

あとがき&おまけ

感謝です

 『昭和の少女漫画に思いをはせる令和の内職おばば』へのアクセス、まことにありがとうございます。

 私はもともと趣味で小説を書いていて、その一環で仕事関係のエッセイを書いたりしていました。
 ブログだったり小説サイトへの投稿だったり、スタイルはいろいろですが、これももともとはそんな中で書いた一つです。

 仕事関係の方も読むことができる形で小説のアカウントの投稿するに当たり、「誰からのこういう依頼」というところは絶対に特定されないよう、細心の注意も払っておりますが、たまには今回のような本音はきます系もいいのでは…と、思い切って公開しました。

 私と同じ作業をしている皆様へ――共感いただければ幸いです。
 お仕事をくださる皆様へ――「お任せいただければベストを尽くしたい」という気持ちは常に持っております。

 今後ともよろしくお願いいたします。

小ネタ(少しシモネタ)

 ところで、「キャンディ・ストライパー」という言葉をご存じでしょうか。
 赤と白の縦縞ストライプのユニフォームを着た看護助手を、キャンディの包装紙のような柄だということでこう呼ぶことがあるそうです。

 キャンディはその後、ラガン家で盗みを働いた(イライザとニールのでっちあげ)罪でメキシコの農場に売り飛ばされます(このエピソードが何と1巻終盤から2巻で登場します。展開早っ)。
 しかし、アンソニーたちがアードレー家の一番偉いが正体不明の人物「ウィリアム大おじさま」に、キャンディをアードレー家で引き取ってほしいと嘆願したことで、メキシコに行く直前で救出され、めでたくアードレー家の養女「キャンディス・ホワイト・アードレー」になります。
 そこから何だかんだあって、ロンドンの名門寄宿学校での生活を挟み、アメリカに戻ってからは、恩師の紹介で看護学校に入学し、努力のかいあって見事ナースに…という展開です。

 そんな感じの少女漫画を読み、情操教育を施された私でしたが、19、20歳くらいの頃は、映画鑑賞にドはまりしました。
 情報を求めて毎月情報誌を買っていたのですが、そこで紹介されていた1本で『キャンディ・ストライパー 白衣の天使』なる作品があり、キャンディ・ストライパーという名前の意味や由来も書かれていました。
 ストライプなのか白衣なのか、はっきりせえと言いたいところですが、問題の本質はそこではありません。
 キャンディの名前とナースという職業にこんな関連があったことを知り、ちょっとうれしくなったのですが、それもまあ置いておきます。

 問題は、『キャンディ・ストライパー』が、大分アダルティーな作品であった、ということです。

 あくまで一般映画の紹介が中心ではあったものの、そういう作品もさらっと「今月公開(あるいは発売)」と紹介し、結構エグい画像も使われたりしているので、ちょっと複雑な気持ちではありました。
 現代なら「ゾーニングしなさい!」と、モラルある人たちに叱られるところでしょう。

 その後、私も大分年を食い、30代になっていた00年代のことです。
 1999年から我が家に導入されたインターネットも大分生活に溶け込み、ふと「そういえば」と思い出すことを検索することが多くなりました。

 そこで興味本位で「キャンディ・ストライパー」で検索すると、まあ、男女の営みらしき写真が出るわ出るわ。
 これだけ連呼しておいてあれですが、これは「検索してはいけないワード」かなあ…と思いつつ、このあとがきを書くにあたり、調べてみたところ、出てきたのはせいぜいコスプレ衣装か、かなり古い時代のモノクロ写真らしきものだけでした。

 まあ、そりゃそうか(いや、断じてがっかりしたわけではありません)。

 ただ、ポルノ映画のタイトルであることが前提の調べ方をすると大変なことになります。セーフサーチでぼかしが入っていればギリギリOKですが、自己責任でお願いします。
 ノリが「押すなよ、絶対押すなよ」になっていて申しわけございません。


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