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Homecoming⑥

ミズーリを東西に駆け抜ける高速道路は2つある。一つは中西部屈指の大都市であるカンザスシティに向かい、コロラドを通ってカリフォルニアに至る州間高速70号線。少し遠回りだがロッキー山脈超えが美しいと言われていた。もう一つは南西に向かい、オクラホマをを通って、アメリカ南西部に至る州間高速44号線だ。乗っているバスは往路と同じく44号線を通る路線だった。旅の計画時点では、復路に前者のルートを使う予定であったが、フィラデルフィアで気が動転していたのもあって、最短の行程で席を手配していた。

わたしは次第に暗くなっていく車窓を再び眺めていた。延々と続く畑の向こうに果てしなく続く地平線が見えた。何マイルもわたしたちのバスしか存在していないような錯覚を覚えた。わたしは飛行機には何度も乗ってきたし、旅も多くしてきたが、このときほど大空を近く感じたことは今においてもなかった。だが、日もすっかり暮れてしまい、長い、睡眠不足の夜が再び始まった。バスの車内もエンジンの轟音が聞こえるだけだった。寝たのかどうかも定かではない。ただそのまま外を見つめていただけだと思う。

深夜にバスはオクラホマシティに到着した。気分転換を兼ねてターミナルの外に出てみると、この旅で見てきた街の多くより立派ではないにせよ、中心街のビル群が輝いていた。未だに空気は冷たかったが、東部のそれとは違う、土の香りを何処感じさせる、厳しさを感じさせない優しい冷たさだった。わたしは、次第に近づく西部を肌に感じて、気持ちも前向きになっていった。東部は何もかもが冷たい。空気もそうだが人間も冷たい。あんな所にはいるべきではない。カリフォルニアに変えればすべて良くなる。そう確信した。

またターミナルのファーストフードを買って無心状態で頬張る。その晩は何を買ったかも覚えていない。わたしはふと隣においておいたパソコンに目をやった。また未読メッセージが山ほど来ていることだろう。そう思ったが、やはりそれに目を通すことは嫌だった。いや、もはやEの存在自体に嫌気が差していた。一体どうしたら人間ああいうふうになれるのか。わたしは再び怒りを覚えると同時にアマンダのことも考えていた。彼女は彼女で何を自分から求めているんだ。

やがて再びバスに乗り込み、カリフォルニアへの逃避行を続けた。明日にはテキサスのアマリロまでまでたどりつく予定である。アマリロでEとアマンダの両方に話をして結論を出そう。そう決心した。

つづく

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