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アメリカの風景:ロサンゼルスからフィラデルフィアまでグレイハウンドバスで旅をしたときの思い出⑤

ピッツバーグからフィラデルフィアまで1回も止まらなかったと思う。バスはわたしの気持ちを読み取るかのように夜通し走り続けた。ペンシルバニア州は横に大きい州である。端から端まで夜通し旅をしなければならない。

グレイハウンドは大小のターミナルの他に、バス停や、ドライブインのようなところにも停車していく。ドライブイン、つまりトラックストップと呼ばれる施設はグレイハウンドのターミナルより明るくて綺麗だからそっちに停車したほうが嬉しかった。もう少しまともな食事にありつけるし、トイレもきれいだし、有料のシャワー室もあるからだ。もっともシャワーなんて呑気に浴びている余裕はない。トラックストップに停車するのは長くて20分だからだ。わたしのときはなかったが、中には置いてけぼりにされる乗客もいるみたいだ。砂漠の真ん中の、トラックストップに置いていかれることを想像すると絶望感しか覚えない。

その晩はなぜかぐっすり眠れた。エンジンの音が子守唄のように心身ともに疲れ切っていたわたしを睡魔へと導いてくれたのであろう。目を覚ましたのは到着まであと2時間位の、ペンシルバニアの片田舎であった。支度をするにはまだ早い。雪に覆われた景色を、外の寒さを感じつつぼんやりと眺めていた。

やがてバスは徐々に都市部へ入っていき、いくつかのトンネルをくぐっていった。都会の活気が感じられる。未だラッシュアワーの時間ではなかったので、バスはスピードを落とすことなく通過していった。フィラデルフィアのターミナルに着いたのは7時頃だったと記憶している。バスから落ちるとともに迎えが来てないか必死に探してみるも、その姿は見えない。スマートフォンなんてまだ普及していない時代である。仕方がないのでパソコンを開き、連絡を取ることにした。

「ついた?ごめんね?色々あって9時までそこで待っててほしいんだ。」

嫌な予感が脳裏を横切った。

つづく



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