Homecoming④
セントルイスへは朝についた。バスがゆっくりとターミナルに止まるとほんの少しの安堵感を感じていた。このバスはここが終点である。全員降りなければならない。係員から預けたカバンを受け取り、朝の忙しさでにぎわっていたターミナルの、奥にあるベンチに腰をおろした。乗り継ぎのロサンゼルス行きの出発まで半日以上あった。どう暇をつぶそう。
取り敢えずパソコンを開き、Eからのメッセージに返信することにした。
「一体なに?」
わたしの返事はいささかぶっきらぼうだったし冷たかったかもしれない。ただわたしはいつもどおりの会話をする気力もなかった。チャットに瞬時に既読が付き、返信をしているというメッセージがでた。わたしはそれを見てパソコンを閉じ、朝食を確保するべく立ち上がった。
メニュー表の前で十分ほど立ち尽くしてしまった。どれもこれも全部食べている。外に出ても何かありそうな気配はない。仕方なくわたしは例の自販機でサンドイッチを買い、それを味わう余裕もなく咀嚼した。
食事の後にパソコンを開くと早速通話がかかってきた。
「ねえ、いまどこなの?心配していたんだよ。
Eには舌が何枚あるのだろう。
「警察から全部聞いてるんだよ。あんたの恋人だかなんだかどこの馬の骨か知らない野郎が通報したんだってな。」
「怒るのもわかるけどわたしの話も聞いてくれる?彼とはほんの少しだけ付き合っただけなの。あなたがこっちにくると知ってあなたにものすごく嫉妬して通報したの。ごめんなさい。」
「ああそうかい。それだったらなんで僕を呼び寄せたかも正直意味がわからないし自分の考えの整理をしたいからまたあとで。」
「まって、まって‥今どこにいるの?」
「セントルイス。」
そう言って一方的に通話を切った。案の定Eはあの調子である。自分の周りの人間をめちゃくちゃにしても自己弁護しか頭にないんだ。自分としてはもうすべてにうんざりしていたが、一方的に連絡が途切れるのも敗北であることを理解していた。Eとはロサンゼルスにつくまで再び話をしないことにし、再びベンチで天井をみつめていた。
そうしているうちに一つの考えがよぎった。別にこのままロサンゼルスに帰ることもないんじゃないか?このままワイオミングとかの田舎に行ってしまって誰にも知られることなく暮らしてしまえば?そしてわたしが行方不明だと知ったEは罪悪感に打ちのめされるだろう。それが当然の報いじゃないのか?
そんな事を空想しているうちに、昼時を迎えた。バスの発車時間も6時間を切った。わたしはそのままベンチで天井を眺めたままであった。
つづく