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大陸横断紀行⑥

その朝はまだ空がうっすらと明るくなる前にでた。眠気覚ましにトラックストップでXLサイズの激アマコーヒーを買ったのちに、暗い高速道路を東へ東へと車をすすめた。日がやがて進行方向にあがり、周りを照らし出すおようになると、わたしは延々とトウモロコシ畑の中を走ってきたことを知った。オズの魔法使いの舞台であるカンザスは麦畑であったが、こっちはトウモロコシか。だが、竜巻が来たとしたらわたしもマンチキンの国にいよいよ飛ばされそうな気分がした。リンカーンやオマハといったネブラスカの主要都市を通った記憶はない。通ったことは確かなのだがまったく覚えがない。それほど印象が薄かったのだろう。ともあれ、トウモロコシの記憶しかないネブラスカ州を後にした頃には午後になっていた。

正直なところ、次のアイオワ州についてもあまり記憶がない。ただ延々と田園地帯の中をまっすぐ何時間も走っている思い出しかない。ホークアイステートの別名で知られるこの州の特徴なんて、ただ通り過ぎているだけの旅人であったわたしにとって、ただのでかい田園地帯であった。畑の中を一日中旅したのちに投宿したのは結局通り過ぎたイリノイ州であった。前回ともtoっと北のほうの、ダベンポートという町でアメリカ一の大河を渡り、変わらない田園地帯をしばらく走ってから小さな街のモーテルに投宿した。その前の晩は仮眠をとっただけだったのでさすがに疲れを感じていたわたしは、プールがある宿を選び、ジャクジーで英気を養うことにした。とりあえずチェックインをすませ、部屋でベッドに横たわる。気持ちがよい。しばらくくつろいでから食事に出かけた。実は、モーテルに入るときに、隣のストリップモールに中華料理の看板を見つけていたのだ。わたしは期待を膨らませ、モールのほうに足を向けた。

レストランのドアを開けると先客はあ誰もいない。どうやらファストフード形態ではないようだ。歳を召された奥さんがいささか覇気なく

「いらっしゃい..」

とわたしを席に案内してくれた。メニューを開いて観察すると、ありふれた、アメリカンチャイニーズの料理の名前が並んでいたので、わたしはその中から、General Tso's chicken、つまり左宗棠鶏とご飯を注文した。左宗棠鶏はごく一般的なアメリカンチャイニーズの料理で、揚げた鶏肉に甘辛のタレをかけた、酢豚みたいなものである。中国本土にはないらしいが、なんせ酢豚っぽいのでわたしはよくこれを好んで食べた。まもなく運ばれてきたものも期待に裏切らない味であったのでわたしはそれをたいらげてからもう一品、持ち帰りで注文したらさっきの奥さん、現金なものでニコニコし,ながらどこの人なのか、ここに住んでいるのか、などわたしに質問してきた。わたしが旅の途中で、大陸を横断していることを告げたら彼女はたいそう私のことを気にかけてくれ、持ち帰りの宮保鶏丁の包みを持ってきたときに、これおまけだよ、と揚げ春巻きが入っていることをわたしに伝えた。わたしが感謝の言葉を述べるとおばちゃんは

「いいえ、私たちアジア人は一緒に頑張らないと、気を付けてね」

と笑顔でわたしを送り出した。わたしは、奥さんのご厚意に心から感謝し、もう暗いなかを自分のモーテルへと戻っていった。

つづく





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