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遠いけど、遠くない

幕張の浜を走っていて、いかにも久しぶりに会いましたっていう若い男女とすれ違ったときに、きっとこういう恋人たちがたくさんいるんだろーなーって思いました。

そのお二人からいただいたきっかけをベースに、妄想?の羽を広げて、書いてみました、「遠いけど、遠くない」

遠いけど、遠くない

「ねー、もう1ヶ月近く会ってないよ。ちゃんと走ってる?仕事、仕事とか言って、私と走ってたことなんて、忘れちゃったでしょ!? 私この1ヶ月で劇的にキレイになったから、街ですれ違ってもわかんないよー」

久しぶりに電話で話すミサの声は弾んでいる。毎日LINEでは日々のトレーニングの状況については交換をしている。それはある意味、事務的な時もあり、ライバル同士の刺激となる時もある。

でも、今日の電話はそんな感じではなさそうだ。ミサから会いたい、といい出すのは、出会ってから初めてじゃないかと思う。

そっかー、1ヶ月か、、、

こういう生活になる前には、お互い仕事で忙しい毎日で、それでも1週間に1回はごはんを食べて、美味しいお酒を飲んで(どちらかというと後者がメイン)、お互いが設定しているそれぞれの挑戦、具体的にはロングトレイルのレースについての夢やトレーニングの状況について話ををしていた。

そう、お互いに会いたいとか思う前に、フツーに会っていたのだ。だから、そんな気持ちも新鮮なのかもしれない。

山を走って、温泉に入って、安くて美味しい居酒屋に突撃して、その日の走りをあーでもない、こうでもない、と楽しくお酒を飲みながら振り返る、それが僕たちの愛するトレランのスタイルだった。もちろん、レースはレースでガッツリ勝負!

そして、突然こんな生活に突入。

山を、トレイルを走らない生活が、そして、こんなに長い間会えないことが、少なくとも僕にとってはとてつもなく違和感のあることだと、この1ヶ月近い自粛生活で気がついた。

「確かに、1ヶ月だね。山も走ってないし、UTMFも中止になちゃったし、ミサが予定していた海外レースも中止でしょ?会って話すネタもないんだけどさ、なんか変だよね、こんなに会わない時間があるのって」

「えー、寂しいって言えばいいのに!素直じゃないねー、相変わらず(笑)」

「寂しいとか、そういうんじゃなくてさ、、、でも、寂しいのかもねー」

「そうやって、いつも私に何か言わせようとするでしょ。ずるいなー(笑)」

「そうかな、そんなことないよ(笑)」

「でもさ、何でもいいからさ、久しぶりに会わない?どれぐらい離れてるんだっけ、お互いの家って。電車はやだよ、私。」

「Googleで調べたけど、40キロぐらいかなー。なんだ、中間地点まで走って帰ってきても、フルマラソン以下なんやねー。ま、お互いに方向については自信があるほうじゃないから、迷うことを想定しても、50キロには収まるね。走る?」

「いるんだよね、こういう人。距離感がおかしくなってるんだよね、、、」

「でもさ、お互い100マイル走る人でしょ?」

「それは、そうだけどさ、、、。でも、なんか楽しそうだね。明後日とかひま?ひまだよねー、ひまに決まってる!じゃ、あのカフェで合流ね。」

「カフェやってるのかな?」

「そうだねー、、、でも、ま、いいんじゃなない?やってなかったら芝生のお庭を勝手に拝借して、ランチでもしようよ。だって、お店は人と人を繋ぐから、279でしょ?マスターも怒ったりしないよ、きっと。あ、カフェがやってなかったときに備えて、ランチは私の分も持ってきてね、私非力だからさー(笑)」

「はいはい、、、」

ここ数年ガッツリ走り始めて、距離感覚がおかしくなっているのは事実。10キロ以上走ったことがなかったけど、どんどん距離は伸びて今では100マイルレースをターゲットにするほど。でも、ミサのほうがはるかに大先輩で、海外も含めた多くのレースの完走歴がある。

そして、いつもこんな感じでモノゴトが決まるんだってことを忘れてた、ま、いいんだけど。

明後日は天気も良さそうだ。

久しぶりの再会も、きっと次は何のレースに出るかとか、あのレースは開催されるのか、トレーニングはどんな感じ?、そんな話ばっかりなんだろうな。

でも、20キロお互いにひとりで走ったあとの久しぶりの再会はいつもと違う気持ちの揺らぎをミサにももたらすのでは?、などと期待をしている自分に気づき、少なからず動揺し、そして、少しの間を置いて、おかしくなって笑ってしまった。

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