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#8 放課後の動く教室

平日夕方のローカル線が賑やかだと、何だか微笑ましくなります。学生が本を読んでいたり、勉強していたり、スマートフォンで映像や音楽を楽しんでいたりと、思い思いに過ごす車内。半個室風の固定式クロスシートで、仲間と雑談に花を咲かせている様子は、さながら「放課後の教室」のように見えます。同じ通学手段でも、列車とバスとでは、空間が違います。他愛のない話で盛り上がっているのでしょうか、耳に心地よいノイズは、その土地ならではのBGMです。彼ら、彼女らの世界を邪魔しないよう、旅人はそっと身を置いています。列車が駅に到着するたびに、学生たちはそれぞれ列車を降り、いつの間にか車内に響くのは規則的な車輪の音だけになりました。

先日訪れたJR北海道・留萌線の話です。きっと毎日繰り返されている光景でしょう。深川から留萌まで、1日の中で最も乗客が多いという列車に乗ってみました。同線は2016年、留萌から先の増毛までが廃止。残った区間も、同年にJR北の経営再建の一環で、バス転換を求める輸送密度200人未満「赤線区」に位置付けられ、沿線自治体と廃線に向けた協議が進められてきました。直近の輸送密度は90人。石炭輸送で栄えた路線でしたが、JR発足時、すでに輸送密度が500人を割っており、過疎化とモータリゼーションが追い打ちをかけました。当初5つあった赤線区も、未解決は留萌線のみ。地元報道によると、協議が大詰めにさしかかっているようです。

赤線区は、鉄道の維持方法を考えるのではなく、廃線後の交通ネットワークを議論する対象。留萌線の輸送密度では、鉄道の特性を生かせないのは明らかです。無理にでも維持を主張すると、多額の費用負担を覚悟しなければなりません。終点の留萌市にとっては、役割を終えた鉄路です。2020年、ほぼ並走するルートで高規格幹線道路・深川留萌道が全通し、自動車交通の利便性は高まりました。交通の拠点だった留萌駅は立派な駅舎ですが、駅前には寂しさが漂います。飲食店が立ち並ぶのは少し離れた場所。歩いてみると、駅を扇の要に、放射状に街が広がっていることが分かります。廃線後の駅跡地再開発は、この街にとって大きなチャンスであるように思えます。

一方で深川市内に通う学生が多い秩父別町、沼田町は深川-石狩沼田間の区間存続を求めてきました。ただ、利用者数を考えるとバス代替が最適であることは否めません。JR北は2021年、留萌線の減便に伴い、定期券保有者向けに、市内高校の前を経由して留萌線各駅に運ぶ「下校バス」の運行を始めました。廃線への布石と窺えなくもないですが、従来同等以上の移動利便性が提供されるなら、良いアイデア。留萌線廃線の議論は、深川-石狩沼田間の時限運行で妥協する見通しとの観測です。もしそうであれば、残す期間、ぜひ利用者にとって、今まで以上に使いやすいダイヤの設定を。いずれ廃止にするから、工夫は必要ないとされるのなら、悲しい話。ぜひ列車通学する学生に、良い思い出の場を提供してあげてほしいものです。


(用語)赤線区

JR北海道が2016年11月に発表した「単独での路線維持が困難な線区」10路線13区間のうち、輸送密度が200人未満で廃線、バス転換を進めるとした区間。札沼線・北海道医療大学ー新十津川間、根室線・富良野ー新得間、留萌線・深川ー留萌間の3区間に加えて、発表時点で夕張市から廃止を容認されていた石勝線・新夕張ー夕張間、災害運休中で今後の在り方について議論を始めていた日高線・鵡川ー様似間(※茶線区とも)の5区間を指す。留萌線以外は、すでに廃線または廃線を決定済み。


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