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招き猫…?の木材たち。

この記事では、井波彫刻師・野中氏の作品「まねく」に使用されている木材についてご紹介します。
野中氏と作品について詳しくはこちら↓


野中願児氏の作品は実に25種もの木を使用して作られている。
1体1体が異なる種類の木材のため、ぜひ作品と一緒にどれがどの木なのかまで楽しんで!


①榧(かや)

光沢のある淡黄色で木肌はきめが細かく、緻密で美しい木目が特徴。
油分が豊富でやや重厚、適度なかたさと弾力性があり、特有の芳香がある。
また、耐久性・耐水性にも優れ、昔は建築材や船舶、風呂桶など幅広く使われていた。
碁盤・将棋盤に使われる素材の最高級品でもある。

②槐(えんじゅ)

辺材(丸太の外側部分)は幅狭く黄白色、心材(丸太の中心部分)は暗褐色。
やや硬く粘りのある木質で、加工はしにくいが表面仕上げは逆に行いやすく、磨けば光沢が出るのが特徴。彫刻や細工物のほか、昔から床柱や床カマチなどの建築装飾材として珍重されてきた。
日本では、この樹に「延寿」という漢字があてられ、病魔を払い寿命を延ばす木ともされ、庭の北に植えれば魔除けになるとされた、とても縁起のよい木。

③桂(かつら)

キャラメルのような香りと、肌めが細かく、材面がキラキラして見えることが特徴。軽軟で加工がし易く、家具用材、特に引き出しの側板として定評があるが、最近では生産量が減り、需要が追い付かなくなり安価な代用品にとってかわられている。ホンモノは大変貴重。(今回は貴重なホンモノの桂を使用!)かつては洗濯用の張り板、和裁の裁ち板などの用途があり、その他碁・将棋などの盤、彫刻、器具などにも。

④朴(ほお)

葉で味噌を包んだ朴葉味噌に使うことで知られている木。
大きくて芳香があること、殺菌作用を持つことから食品を包む用途にも用いられ、樹皮を乾燥させたものは、厚朴(こうぼく)などと呼ばれ、漢方薬としても使われる。風邪の咳や痰、便秘や下痢などの消化不良に対する整腸作用などに、効果があるとされている。
刃物に触れても錆びないことから、古くは刀の鞘に使われてきた。
刃当たりが良いためまな板に、またその他太鼓のバチなどに使用されることが多い。

⑤黒柿(くろがき)

柿の木の中でも樹齢150年以上の老木にしか現れない、希少な製材。
通常の柿の木は製材した際、橙色〜淡黄色に近い色味をしているが、稀に墨色のような黒色が樹の中心部に入ることがあり、これを黒柿と呼ぶ。
黒柿が出る確率は1万本に1本とも言われ、非常に貴重で高価。
和家具や床柱、建築用装飾材、茶道具などに使われる。

⑥楠(くす)

井波彫刻で使用される代表的な木。
耐朽性が高く、その防虫効果や巨材が得られるという長所から、家具や古くは飛鳥時代から仏像にも使われていた。
楠の葉や煙は防虫剤、鎮痛剤として用いられ、野外作業の際に携帯していたという記録もある。「赤樟(女樟)」「青樟(男樟)」などと呼び区別することもあり、葉や幹、根皮から樟脳 (しょうのう)の原料が採れる。樟脳は独特の香りがあり、一般的には衣類の防虫剤として有名。薬品としても利用されており「カンフル剤」のカンフルは樟脳のこと。

⑦檜(ひのき)

木造建築において最高級の材質とされ、世界遺産の法隆寺の建材にも使われている。
他の木と比べて耐久性が高く、伐採直後から強度が増すと言われており、伐採後 200 年で強度がピークとなり、そこから強度が少しずつ下がっていくというデータもあり、鉄筋コンクリートの耐久年数(30~50 年)と比較しても耐久性が高い。
名前の由来は諸説あり、すぐに火がおきやすい「火の木」としている説や太陽など自然を表す「霊の木」「日の木」という説がある。

⑧梅(うめ)

観賞価値の高い花を咲かせる「花ウメ」と薬や食品加工用に向く良質の実をつける「実ウメ」に分けられる。
寿命が長く、古木となっても力強く芽吹くことや、肌寒い早春に開花することなどから慶事の象徴とされ、マツ、タケと共に「歳寒三友」、そして菊、蘭、竹とともに「四君子(しくんし)」と呼ばれる。四君子は井波彫刻の伝統的なモチーフでもある。
辺材は淡黄褐色、心材は紅褐色、肌目が緻密であることが特徴。

⑨桜(さくら)

女神・木之花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)が最初の種を 富士山から撒いたという伝承があり、「サクヤ」が転訛し「サクラ」となったという説がある。
日本にはヤマザクラ、オオシマザクラなど9種を基本にして、変種をあわせると 100 以上の品種があり、沖縄には野生化したといわれるカンヒザクラがある。
今回は代表的な品種であるヤマザクラを使用。
辺材は淡い黄褐色、心材は褐色。暗緑色の縞模様が入ることもあり、緻密で光沢があることが特徴的。

⑩欅(けやき)

材色・材質に優れたものを『欅』、赤みが少なく堅い材ができ加工が困難で狂いの出やすいものは『槻』と呼ばれる。銘木業界では、『槻』のことを材色が青味がかっていることから『青欅』、良材を『本欅』ともいう。
床柱、床地板、床框、落掛、棚板、上り框、床板、内装材などに使われ、京都の清水寺の舞台の柱も欅である。重厚な特色を生かし、座卓やテーブル、カウンターなど家具作りに用いられていることも多い。

⑪栗(くり)

食用でもおなじみの、栗。木材はタンニンを多く含み、全体的に赤っぽい茶褐色であることが特徴。硬く重く、湿気に耐えて腐りにくいという特徴から木造建築の柱や土台に使われてきた。また、かつての線路の枕木にも使われた。シイタケの原木も栗が使用されることが多い。縄文時代には集落の周辺にクリの木を植え、建材及び食用として長期的な計画を持って管理していた。

⑫苦木(にがき)

苦木という名前は枝や葉に強い苦味があることに由来する。
樹皮や葉のみならず木全体に苦味成分であるクワッシンを含み、苦味には胃薬としての効能もあり、日干しした小枝を煎じた物、葉を刻んで粉末にした物が漢方薬「苦木」として売られている。かの有名な太田胃散の原料にも使用されている。
きれいな黄色い色合いが特徴的で、寄木細工、象嵌、下駄、天秤棒などの道具を作るのに使われる。

⑬青森ヒバ(あおもりひば)

ヒノキやイチョウなどの他の樹木に比べて水に強く、カビや雑菌に対して驚異的な抗菌力を持ち、シロアリを寄せ付けない唯一の木材。
香りが強く、緊張を和らげて落ち着きを与えるアロマ・リラクゼーション効果がある。アロマでよく知られるシダーウッドにも、ヒバと同じ香り成分が含まれている。
木材としては100年生以上のものを伐採・利用することが多く、一方でスギやヒノキは 50年生以上で伐採・利用されることを考えると、成長に長い年月を要することがわかる。
防虫効果があることから中尊寺金色堂や弘前城といった城や神社仏閣など多くの建造物の建材として活用されてきた。

⑭桑(くわ)

「どどめ色」という言葉は打撲の跡や紫色の唇など、赤黒いような暗い紫色のような色に対して使われることの多い表現だが、この「どどめ」という言葉、本来はクワの実を指す言葉。甘酸っぱい果実はマルベリーとしても知られ、ジャムなどにもよく使用されている。
材は硬質で耐久性が高いことに加え、色味が良く、「杢(もく)」と呼ばれる美しい模様が入
りやすいことから、床柱、框(かまち)、茶道具、針箱、鏡台、家具、仏壇など見た目を重
視する造作の化粧に使われた。三宅島など伊豆七島産の桑材は「島桑」として江戸指物に重用されている。

⑮枇杷(びわ)

一般的に果実を食用に、葉を薬用に使用されることが多く、木材としては流通量が少ない木。
乾燥させると固く丈夫なため、家具や木刀、杖などに使われてきました。特に杖の場合、丈夫で長持ちすることから、「長寿杖(ちょうじゅづえ)」と呼ばれて、縁起物としても活用されている。

⑯神代欅(じんだいけやき)

数百年以上の長い間、土中に埋まっていた欅のことを神代欅と呼ぶ。
長いときを経て炭のように真っ黒になった色が特徴。中には茶色いものもあり、こちらは茶神代(ちゃじんだい)と呼ばれる。

⑰ウォールナット

和訳するとクルミだが、ウォールナット材とクルミ材の違いは“色”。
ウォールナット材は深みのある褐色で重厚感がある一方で、クルミ材はナチュラルで明るく、自然の温もりを感じられる木材。どちらも耐久性に優れ、衝撃に強い材質。
貴重価値があり利便性や美しさを評価された世界三大銘木のひとつ。「ウォールナット」のほかに、「マホガニー」や「チーク」が世界三大銘木とされている。

⑱ミズナラ

今回使用した中では一番堅い木。利賀村のものを使用。
水分を多く含み、燃えにくい素材であることが名前の由来。
一般的にヨーロッパでウイスキー樽としての人気が高い木材で、砺波市の若鶴酒造もウイスキー樽に使っている素材。
※若鶴酒造の三郎丸蒸留所にも野中氏作のウイスキーキャットが。
ぜひ訪れて探してみて。

⑲松(まつ)

耐水性が高く、湿気のある場所でも土木用材として使われており、皇居の堀の石垣の基礎も松材。
今回の作品では地元井波の瑞泉寺に生えていた松を使用。
かつて瑞泉寺で火災が起きたときに、この松に龍が巻きついて山門の火を消したと言われている縁起モノ!

⑳一位(いちい)

秋になると小さな赤い実をつける針葉樹で、いちいという呼び名の他、あららぎ、おんこ、しゃくのき、きゃら、きゃらぼくなど様々な名称で呼ばれる。「おんこ」は北海道地方で多く使われ、語源はアイヌ語。
加工がしやすく肌目が緻密で、仕上がりが美しいことが特徴。
飛騨高山の一位一刀彫(いちいいっとうぼり)という一位の彫り物細工が有名。

㉑薩摩柘植(さつまつげ)

昔から櫛や印材、将棋の駒などに使用されてきた。いわゆる柘植の櫛、の柘植。
一般に出回っているのは外国製の「柘植もどき」。本当の柘植ではない。
今回使用したものは幅10cm×高さ30㎝で2万円という高級素材。

㉒椨(たぶ)

古代、椨の木は霊が宿る木とされ信仰対象であった。それが、霊(タマ)、 タモ、タブ、タブノキと変化したとも考えられている。
材は船材に適し、古代に朝鮮半島から日本に渡来した船はすべてタブノキの材で造られた。
またタブノキの樹皮はタンニンを多く含むため、黄八丈の染料としても使われる他、線香の原料としても使用される。

㉓屋久杉(やくすぎ)

屋久島の標高 500m を超える山地に自生しているスギを屋久杉と呼ぶ。
このうち樹齢 1000 年以上のものを指し、ゆっくり育つ屋久杉は材質が緻密で樹脂分が多く 腐りにくい。現在は伐採禁止。江戸期に薩摩藩が伐採したものの島から持ち出せなかった埋もれ木が木材として稀に市場の競りに出ていたが、2019年3月より競りも全面禁止となり、入手困難な幻の木材。現在入手できるものは自然倒木したものなどのみ。

㉔桐(きり)

岩手県の南部桐、福島県の会津桐、岡山県から広島県東部にかけての備後桐が著名な生産地。
タンス、刀剣、掛け軸など高級貴重品を収納する箱のほか、琴、琵琶等の楽器、下駄等の日用品に至るまで幅広く使用される。
桐は熱伝導率が極めて低く着火点が高いので、表面が焦げても中まで火がまわるのに時間がかかるため火事のときに桐タンスは黒焦げになったが、中の着物は無事だったという話もある。かつては、女子が生まれたら庭に桐を植え、成長して他家に嫁ぐ際にその桐を使った箪笥を持たせる習慣があった。

㉕鬼胡桃(おにぐるみ)

胡桃といえば食用で一般的によく知られるが、木材としても◎
国産の胡桃といえば、北海道産のオニグルミが一般的。
色は赤みがかった茶褐色で、あたたかみのある柔らかなイメージの家具向き。
製材直後は紫芋の様な色をしており、乾燥後にクリア塗装をすることによりこげ茶色に。
国産オニグルミ材の方が、ウォールナット材に比べて若干、柔らかい材質なのが特徴的。

《この記事を書いた人》
池端まゆ子
時代が移りゆく中でも継承されてきたものに強く惹かれる。歴史、背景を知るのが好き。趣味は芸術鑑賞、料理、本の蒐集。

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