窓の外に描く 第6話 「友達」
それから、2人はどういうわけか、毎日一緒に学校に来た。登校してからは、フィリックスは教室に、ジニは美術準備室に行った。
いつも通り、美術室でコーラを飲むジニに、バン先生が言った。
「ジニ、フィリックスと仲良くなったんだな。お互い友達ができて良かった。」
「友達?そんなんじゃねーよ。」
「毎日一緒に来てるじゃないか。」
「ああ、あいつと居たらおれが目立たないから。金髪じゃん、あいつ。」「あいつといたら、俺も金髪だけど、なぜか生徒指導受けないんだよ。」
「外国から来たからか、先生にタメ口きいても叱られねーし。トクだよな。」
それを聞いて、大笑いしてしまった。
「なるほど、生徒指導か!それならなおさら、親友ができてよかったな。」
また、バン先生は目を細めて笑った。
「だから、友達じゃないって!」
「わかった、わかった。」
「ところでさ、ジニ、せっかく美術準備室に毎日いるんだから、何か絵でも描いてみないか。」
「絵を描く?しねーよ。そんなだせーこと。」
「でもさ、美術の授業も出たことないだろ。ここで何か作品を作れば成績にも入れられるし。」
「成績なんか気にしてない。学校には暇つぶしで来ただけだから。」「それに、今更進学もどうせできないだろ。俺、頭も悪いしさ。」
「そんなことないと先生は思うけどな。高校も今はいろんな学校がある。夜間通えるところも、通信もある。面接だけで行けるとこもあるしさ。というか、どんな学校に行きたいとか、将来の夢とかあるのか?」
「そんなのねーよ。・・・・・。」
「好きなものとか、楽しいことは?」
「それもない。」
「バイク乗ってる時間だけは・・・まぁ、好きだけど。」
「そっか。先生も、昔バイク乗ってたよ。もう今は、乗らないけどな。」
「まじかよ、意外だな。俺ははやく免許とって、自分のバイク買いてーよ。盗むのももうだるいし。」
「そうか。好きなことがあるのはいいけど、あんまり無茶するなよ。バイクは特に危険な乗り物だからさ。まだ無免許だろ。せめて免許取ってからさ。」
ジニが、さえぎって言った。
「今日は、ウゼーこと言うんだな。なんだよ・・・帰る。」
ジニは美術準備室のドアを蹴って、帰ってしまった。
「おい!ジニ!・・・ジニ!」
裏門まで追いかけたが、ジニはバイクに乗って颯爽と走り去ってしまった。
これまで、ジニにはあえて、小言を言わないようにしてきた。ジニの周りの大人達が、どんな対応をしてきたのか、大体わかっていたつもりだった。きっと、否定されたり、無視されてきたのだろう。心配してるから、お前のためを思ってるから、と言う免罪符のような言葉でジニを縛ろうとする大人が多かったはずだ。
でも、今日は小言を言わずにはいられなかった。昔のことを、久しぶりに思い出してしまった。
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