父との 備忘録
これは過去の わたしの ほんの些細な 父との備忘録
誰に当てるわけでもあなく私だけの為のもの。
朝5時半に起床して、6時には家をでる。そこには行ってきますという言葉もなく 見送る家族もない。父は月曜日,火曜日,水曜日は家に帰りテレビを見ながら母と私のご飯を作る。祝日と私が帰ってこないとわかると家には帰ってこない。
どこにいるかもわからない。おしえても くれない。
ご飯を作るときは、必ずテレビの音量を24とボリュームを大きめにしてバラエティを見ながら作る。無音なのが嫌らしい。
そして、ご飯を作る前はお決まりのやりとりがある。少し期待しているような、けれど少し面倒くさそうな表情で父は私にこう聞く。
「今日は、お腹空いてるの?」
その ほんの 僅かに見え隠れする期待に応えるために、父のことを待ち侘びてしまって ついには少しすねているような表情で大きな声でこたえる。
「ペコペコだよ!!いつできるの?」
すると、少し満足そうに、しょうがなさそうに笑いながら答える。
「あと40分後くらいかな笑」
そのやりとりを終えると、父は黙々と料理を作りはじめる。
こうやって子どもらしく パパが必要なんだよ と甘える態度を示すことで、いつまでもそこにいてくれるんじゃないかとほんの少し期待する。
そして、できたあたたかいご飯をすばやく口に運ぶ。
パパに早く美味しいと喜んでる姿を全身で表現しなければ。そんな焦燥感に駆られて 味も感じないまま 興奮した様子と 満面の笑みで表現する。
「これ、めちゃくちゃ美味しいね!!ひなこれ大好きだなあ。本当に美味しいね。ひなこんなおいしいの食べれるの幸せだ。明日も食べたいなぁ」
ご飯を再び口にかけ込み、何度も何度も笑顔でいう。
父は私の喜んでいる反応を見るのが好きで何度も言わないとその後何度か聞いてくるからだ。そこだけはわかりやすいんだよな、と心の中で苦笑いする。だから先に何度も伝える。しつこいくらいがポイントなのだ。
すると父は満足そうに
「美味しいよなあ、今日は上手くできたなあ」と少し笑って答える。その顔を見て安堵する。
あぁ、今日も父の存在意義を証明できた。
そして、ほんの僅かに心がはずむ。もしかしたら、また家に帰ってきてくれるのではないか。家族と 私と 向き合ってくれるのではないか。家族に関心を寄せてくれるのではないか。
愛してくれるのではないか。
そして父は食べ終わるとソファーに寝っ転がりながら、テレビを見る。
相変わらずボリュームは24と大きめだ。
だから、ソファーの近くに座って父の手を握りながら一緒にテレビを見る。20歳にもなってまだ幼子のように そんなことをしたがるのだ。
触っていないと 一緒の空間にいるのにどこかにいってしまいそうで 私に愛など 関心などないとわかってしまいそうで 物理的に繋がることを求めてしまう。触っている間だけはこの人は少しでも私に関心が向くのだと、そう思いながら 願いながら 暖かくて大きな手をさわる。
ふれてしまうと 私に愛がないという事実がほんのわずかな面からわかってしまうから そこに何も意識が向かないように さわる。
たださわる という行為をする。
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「家族」というだけでは愛情はどうしても振り分けられず、それぞれの心に沿った自由な選択があるだけなのだと思う。
でも。それでも諦めてしまったら家族が一気に崩れていくのが怖くてただただくっついてみせる。
家族愛などという言葉ほど残酷なものは ない。
ねぇパパ。お願い私を忘れないで。
ねぇパパ。あなたの望むような人になりたかったよ。
ママが泣くのをみて、またなんだか絵を描きながら泣きたくなっちゃったよ。
ねぇパパ。どうか愛を離さないで。
その声は届かず、届けず、今日も大きくて暖かい手を握りながら今日も一緒に画面を眺めていた。
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