見出し画像

物件のススメ

物件。この2文字に面白さを見出したことはなかった。そもそも自分の人生には関係なかった。今の部屋も成り行きだ。大学合格した日に生協の指示に従って1日で決めた。物件にきちんと向き合ったことなどない。

そんな自分が新たに始めたバイトが物件紹介記事のライターだ。ホステルの受付のバイトをしているのだが、その会社もともと不動産屋だったのだ。今不動産は忙しい時期らしく応援要請をされた。仕事内容は物件の写真をオシャレに撮り、紹介文を書くこと。一眼レフカメラでのオシャレな写真の撮り方を教えてくれるという言葉につられて始めることになった。
 とはいえ、物件とは無縁の人生を送ってきたわけだ。勝手が全く分からない。文章を書くことは好きだけど、知らないものについて書けるわけでもない。物件なんて何が面白いんだと思ってた。参考にと、ある記事を紹介されるまでは…。

何だこれは。何だこれは。僕には知らない世界がそこには広がっていた。物件なんてスペックが全てなんだと思ってた。部屋がどんな広さとか、トイレとお風呂が別だとか、それが全てだと思ってた。住む場所を選ぶための無機質な情報の塊だと思ってた。今じゃそんな自分を殴りたい。これはそんなもんじゃなかった。もはや純文学だ。

パステルブルーとホワイトのバイカラー。
もしも、おとぎの国から
アリスがやってきたならば
この部屋をとても気に入るような気がします。

これだけでどんな部屋か手に取るようにわかる。もうこの一言だけでこの部屋を訪れてみたくなる。読んでいてたまらなく楽しい気分になる。この一言でその部屋の世界観が形作られているのだ。
 その後もそんな世界観に合わせて、そこでの生活が紡がれる。劇的なことは起こらないけれど、まるで小説みたいだ。自分がこんな部屋に住めたらば…そう考えると何だか心がほわほわしてちょっぴり楽しくなる。

住みたくなるの入口は妄想が捗るだ。そこに住んだならどんな生活が出来るのか、それを魅せるのが物件紹介だ。人は物件に新生活を浮かべて心躍らせる。どれだけ生活が妄想できるかが鍵だ。そんなことに気づいた途端、このバイトが堪らなく楽しくなった。知識が少なくてまだ難しいけど、楽しい。
 これから様々な物件を、そこでの生活という妄想を紡いでいく。そして誰かをワクワクさせる。それが誰かの新しい生活に繋がるかも。そう思えば、物件という2文字からは、面白さしか見出しようがないね。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?