見出し画像

超短編小説『ナンセンス劇場』058

【最強拳法】

「こんな所で1人でどうしたんじゃ、青年よ」

「実は俺、学校で苛められてるんです」

「ほう・・・強くなりたいか?」

「なれるもんなら・・・」

「ならばお主にとっておきの拳法を授けてやろう。
 酔えば酔うほど強くなる、その名も『酔拳』じゃ!」

「俺、未成年なんで酒は飲めません。
 それに父も母も下戸で多分俺もアルコールには弱いと思います」

「う~む・・・ならばもう1つの拳法を授けてやろう」

「もう1つの?」

「そうじゃ、ワシのオリジナルの最強拳法じゃ。
 あれは忘れもしない・・・10年位前じゃったかなぁ。
 ワシがスーパーで買い物を終え家に帰る途中、公園で子供たちが遊んでおるのが見えたんじゃ。
 じゃが突然ケンカが始まってな、1人の子が一方的にはたかれ始めた。
 ワシは見かねて止めに入ろうとしたんじゃが、その時ワシの目の前でとんでもないことが起きたんじゃ。
 はたかれていた子が泣き出した途端形勢が逆転し、はたいていた子をやっつけてしまったんじゃよ。
 ワシの全身に衝撃が走った。
 これじゃ! 泣けば泣くほど強くなる、その名も『泣き拳』じゃ!」

「あの、それって泣かなきゃ強くなれないんですか?」

「当たり前じゃろ、泣き拳なんじゃから」

「じゃあ・・・遠慮しとこうかな・・・」

 しかし青年は半ば強引に老人から『泣き拳』を教えられ、その数年後、世界格闘技大会で『泣き拳』の圧倒的な強さを世に知らしめることになる。

 強烈な泣き顔と共に。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?