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トヨタデイズ第一回 小さなSUV「ライズ」に乗ってみた

●地方メディアはクルマを借りるのが大変

昨年、何十年も続けてきた各社の新型車に試乗することを終了し、モーターデイズを休刊とした。名古屋のメディアが新車試乗をするのは大変だった。そこでメディアによる新車試乗の事情を最初に少し書いておきたい。

国産自動車メーカー(以下メーカー)は新車が完成すると、メディア向けに新車発表会を行う。自動車が元気だった80年代、90年代には、メディアが多く集まっている東京だけでなく、名古屋や大阪などでも同時に行われていた。名古屋ではホテルでの開催が多かったが、地元大手ディーラーのショールームで行われることも時に有った。またトヨタはトヨタ博物館で、日産は栄地下(名古屋市中区・繁華街の地下街)にあった日産ショールームでよく行われたものだ。

新車発表の模様が夕方のローカルニュース番組などでよく流れたことを覚えている人も多いはず。それはこの発表会で撮影されていたのだった。またテレビ的には走っている映像も欲しいということで、簡単な試乗会なども行われた。しかしこれはここ数年で完全になくなってしまった。このあたりも自動車への関心が低下していることの感じられるところだが、今はほぼ東京だけで発表会が行われている。トヨタだけはたまに地元名古屋で東京と同時に行うこともあるが。トヨタ アルファード/ヴェルファイア 新車発表会

発表会が終わると、数週間してメーカーは自動車メディア(雑誌や新聞がメイン)、自動車ライター(モータージャーナリストと自称する人も多い)向けに試乗会を行う。これはよく知られているように箱根のホテルが起点になることが多い。箱根のワインディングロードを走ってもらおうという趣旨だ。メーカー広報と開発担当者らがホテルに詰めており、より詳しいレクチャーがあり、数種類のグレードに試乗できる。試乗した後は感想などとともに開発者と談話でき、様々な情報が収集できる。

とはいえ試乗は撮影込みで一台1時間半くらい。その僅かな時間で、箱根というかなり特殊な道路を走ってインプレッションしないといけない。これがなかなか大変である。ちなみに箱根までの交通費は自前だが、美味しいランチがいただけたりする。景気の良かった頃は帰りに豪華なお土産がもらえたりしたものだが、昨今はそういうことはないようだ。

以上の流れは輸入車もほぼ同じ。発表会、試乗会に呼んでもらえるというのが一流メディア、ライターの証となるから、そのためにはメディアはメーカー広報とのお付き合いも重要となる。発表会では巨大企業の社長や重役と話ができたりするし、試乗会では開発トップと話ができるわけで、メーカーとの関係を良好にしておくことがメディア・ライターとしては課題だった。

メーカーとしてもメディアやライターと付き合っておくことで自社製品の評判をキープできる。そんな持ちつ持たれつの関係はどの業界にもあるが、特に強いのが自動車業界だと思う。

試乗会のあと、メーカーには広報車として新型車が何台も用意される。そこで取材目的をはっきりさせて申し込めば、広報車を無料で借りることができる。期間は1日から、空いていればもっと長い期間借りられる。試乗会で乗り足らない場合は、広報車を借り出して乗ることになる。撮影も同様だ。雑誌の記事ではたいていこの広報車が使われている。したがって広報車はメディアが集中する東京にあるのが普通だ。輸入車の広報車も同様。

つまり名古屋のメディアが試乗するためには東京まで出かける必要がある。昔は東京で借りて、名古屋に乗って帰り、撮影してまた乗って返しに行くなどということをしたこともあったが、いかにも効率が悪いし経費がかかる。地方でクルマメディアを運営する難しさはこのあたりにもある。

ではモーターデイズはどうしていたかというと、実は地元のディーラーにお願いして試乗車を借りていた。ディーラーでは客を乗せる試乗車が用意されるが、これを定休日などにお借りして、撮影やインプレッションを行っていた。メーカー広報は貸し出して記事を書いてもらうのが仕事だが、ディーラーは貸し出してもほとんどメリットはない。それでもこれまで長い間、信頼関係だけで貸し出してもらえたのは、本当にありがたかった。ただただ感謝しかない。

そのおかげで、箱根のような特殊な道でなく、地元のよく知っている道で、現実的なインプレッションができた。いつも同じ道を同じように走ったので、実用的な燃費データも取れた(これは最悪の燃費データとなることが多かったが)。まあ、こうした問題があって地方で自動車メディアを作るのはいかにも難しい、というわけだ。

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●トヨタが新型車を貸し出してくれた

さて、これまで名古屋で試乗車を用意してくれるメーカーは「トヨタ」だけだった。名古屋駅前のミッドランドスクエアに東京やトヨタ本社(豊田市)にもある広報車の一部を運んでくれて、地元メディアに貸し出してくれる。モーターデイズでもトヨタの試乗車はメーカー広報車だ。他に「スズキ」もメーカー広報車だが、これは本社が名古屋から100キロほど離れた浜松市にあるため、本社に広報車が来ているのを見計らって、こちらから出かけて借りていたのである。

今回、モーターデイズは休刊したが、トヨタは以前どおり試乗車を貸し出してくれた。ありがたいことである。そこで、TOYOTA DAYSというページを作って、試乗したよもやま話を書いておきたいと思う。モーターデイズのようなキッチリした試乗記ではなく、水野が個人的に楽しく乗ったというレポートになると思うので、気軽にお付き合いいただきたい。

●これまでのモーターデイズ トヨタSUV試乗記

RAV4 アドベンチャー

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C-HR

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ランドクルーザー “70”シリーズ ピックアップ

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FJ クルーザー

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●小さいSUVはライズしかない!?

私もすっかり年寄りになったので地方在住のジジイの常として軽トラに乗りたいと思っていたが、百姓はやらないのでそこまでヘビーデューティーなものはいらない。そしたらちょうどジムニーが新型になったので発売日に申し込んだ。結構早く納車され、ここ一年はジムニーが愛車となっている。ジムニーのほうがもっとヘビーデューティじゃないかという突っ込みもあると思うが、ジムニーでオフロードを走ったりはしない。街乗りオンリーであるw 

旧型と比べるとさすがにオンロード性能が良くなっていて、街なかでは乗り心地に重厚さすらあり、何ら不満はない。しかし、高速走行はさすがに厳しい(時速100キロ程度ならいいが、新東名で120キロ巡航し続けるのは無理ではないがちょっと辛い)。とはいえその幅の狭さは、日常の足としては文句なしに使いやすい。すごく楽。やっぱり日本の道路・交通事情においては小さいことは正義だと確信してしまう。軽が売れるわけである。

軽じゃない小さいクルマを探してみても、数えるほどしかない。1700mm以下という5ナンバー幅は国際的に意味がないので、グローバルカーでないと商売にならない昨今、1700mmを若干超えてしまうのはいたしかたないところだが、日本では幅1700mm以下の方が日常的に使いやすいのは間違いない。しかも人気のSUVだと、おそらくほとんど5ナンバー幅の選択肢はないのでは。スズキのハスラーとクロスビーはSUVとメーカーは言っているが、ちょっとそれは違うと思うので。そんな状況を受けて、何の前触れもなく登場したこのライズ(ダイハツではロッキー)は、当初から貴重な5ナンバー幅のSUVとして企画されたようだ。

試乗してみると、乗り心地はやや荒いし、重厚感はない。1リッター以下のエンジンを積むのだが、まさにリッターカーというその乗り味は、期待を裏切らない。が、それが悪いかというと、しばらく乗っていれば何ら不満がなくなるのは、軽自動車同様だ。グッと加速するとターボが効いてパワフルに前に出るが、燃費を稼ぐためのプログラムなのか、速度が乗るとストンと回転が落ち、慣性で滑るような走りになる。そうではなくリニアなパワー感を得たければパワーモートに切り替えるといいのだが、そうなれば燃費が悪化するのは当然だろう。660ccターボのジムニーと比べてみると、998ccターボは1.5倍の排気量ゆえ、全く力感が違う。むろん高速道路もラクラクに走れる。走りの方はwebCGの試乗記に詳しいからご参照いただきたい。

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●せっかくレーダークルーズコントロールがあるのに


ライズは高速道路もラクラクなのだが、レーダークルーズコントロールは時速115キロまでしか効かなかった。今どきの新車でこれはちょっと残念なところ。とはいえまあ、トヨタ系のクルマだから大きな不満はない。といって絶賛したくなるということもない。つまりサイズの小ささを生かして日常で使うには、サイズの割に荷室も広く、人も乗せやすいし、いわゆる道具としてのクルマなら文句なしだろう。

価格は安めだし、リッターカーだから維持費も大きな車より安め。燃費もいいし、と言いたいところだが、実燃費はいつもの80キロほどの試乗で12㎞/L。丁寧に走れば14㎞/Lくらいは出せそうだが、ハイブリッド車のような燃費は期待できない。でもまあ、この走りでこの燃費なら、妥当なところだと思う。軽でいわゆるSUVに分類されるのは今のところジムニーしかないから(ハスラーは別として)、小さいSUVならライズの一択となる(クロスビーは別として)。となればかなりのニーズが有るはず。マーケティングの勝利。これは売れるでしょう。

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●ディスプレイオーディオとLINEとつながるクルマに関して


さて何よりのトピックだったのは試乗車にはディスプレイオーディオが装着されていたこと。昨年9月に新型カローラの発表とともにこちらも発表されたもので、Clovaが使える「LINEカーナビ」が売りだ。「カーナビ」自体はどうやらアイシン・エイ・ダブリュが作っているようで、アイシン・エイ・ダブリュのナビ技術とLINEのAIアシスタント「Clova」とを組み合わせたというものと考えて良さそうだ。

個人的にはAndroid Autoに入れ込んで、ケンウッドのディスプレイオーディオをジムニーに装着しているが、便利かと問われると、実は使っていないと答えるしかない。Android AutoでもUSBケーブルを接続せねばならず、これが実に面倒だ。コンビニに寄ったりしてちょいちょい乗り降りする場合にいちいち付けたり外したりしなければならない。「LINEカーナビ」も同様ゆえ、ケーブル接続が面倒なのは否めない。

接続はBTでもする必要がある。BT接続はスマホの機種を選ぶようで、最新のギャラクシーS10は問題なかったがギャラクシーでもS7はだめだった。スマホは何より常時持っていたいものだから、クルマから降りて、少し何らかの作業して、またしばらく乗って、降りて作業してなんてことを想定すると、全く現実的ではない。車載ナビが欲しくなってしまう。

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こうなるとスマホのナビアプリを作動させてホルダーに取り付け、そのまま道案内させるほうが 楽だし、その場合はナビのディスプレイには地図以外の情報を表示させることもできる。思うに、クルマのディスプレイは2つ以上あるべきだろう。ナビ専用とその他(ラジオ、テレビ、交通情報、スマホ以外の音楽ソースなど)の情報用だ。グーグルナビなどはしばらく使っていると地図画面が小さくなって画面隅に表示されるようになるが、最低でもこうしたことは必要だと思う。

しかしまあ、一台のスマホでなく二台所持していればなり面倒は省ける。一台は常時車載してつないでおけばいいが、複数台持つ人はまだそう多くないはず。またクルマの中にスマホを置くのは夏場の熱対策も必要となる。盗難も心配だ。それゆえスマホを車内に放置するのはなかなかハードルが高い。となれば全車搭載のDCMがあるのだからそれで全部通信すればいいと思うのだが、DCMは通信だけでナビ機能はないから、結局車載スマホが必要になる。

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LINEを使っている人はそれ経由でクルマからメッセージが来たり、人からのメッセージを音声読み上げしたりできるのでもしかすると便利だが、LINEは個人的に使っていない。デフォルトで電話番号が登録されている人とつながってしまう仕様は気味が悪いからだ。という意味では私がマイナーな存在だが、LINEを使わないといけないという時点で残念な気分に。

そのLINEの音声検索は思ったように検索してくれない。例えばデイズといえば全国のデイズが出てくる。名古屋のデイズといえば久々に「名古屋ので伊豆」となったし、オーディオの音声に勝手に反応して勝手に検索してしまうし、どうにも辛い。またルートの音声案内から、オーディオに戻るのがかなり遅いので、聞いていたニュースなどの肝心のところが聞こえなくてイライラしたりする。

試乗時にはこういう不都合があったが、これは徐々に改善されていくだろう。とはいえ、リリース時点でこれではユーザーは納得しないのでは。ディスプレイオーディオを1年使っている身としては、普通の人には普通の通信ナビの方が満足度は高いと思う。価格も高いが。しかしこういうことをいつまで続けるのだろうとは思ってしまう。スマホを使いこなせる人から「もうカーナビなんかいらない」と聞かされてもう何年たつのだろう。未だに満足な商品が出てこないことに、日本の未来に対する不安を感じてしまう。とまあ、モーターデイズではいつもおなじみだった愚痴を書いて、第一回のトヨタデイズは終了とさせていただきたい。(水野誠志朗)

「トヨタ ライズ」のサイト

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