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トヨタデイズ第三回  誰もが心に自分のスポーツカーを秘めている。新型スープラはそうなり得るのか

●心に秘めたスポーツカーって、でもやっぱり不便w

誰もが心に自分のスポーツカーを秘めている、なんてクルマ好きは思っているのだろう。私の場合はなんといってもポルシェ911だ。そして心に秘めているのはやはりかつて所有していた80年代の930SCだと思う。パワーは確か、180馬力ほどだった。昨今ではたいしたパワーとはいえず、昔でもそう速いということはなかったが、RRの独自な「鋭さを隠した」挙動は唯一無二で、それこそが魅力だった。911でもその後所有した964あたりは、ずいぶんラグジュアリーな感覚だったし、997になるともう、クルマに乗せてもらっている感覚のほうが強かった。意のままに操る感覚を得ようにも私には997でもすでになんだかちょっと大きすぎた。それからアウディTTカブリオレにも乗ったが、FFながらこれは小振りゆえ面白かった。このクルマに乗って、走りもそうだが、オープンクルージングができることもスポーツカーの気持ちよさの重要な部分だと悟った。

いずれにしてもこれらのクルマは、実用性には疑問符がつく。ポルシェ911は2ドアながら+2座があったので助かる場面もあったものの、後席に子供を乗せていて車酔いされたこともあったし、ひとまず乗れるというだけであくまで緊急サイズ。TTは完全に二人乗りゆえやはり何かにつけ不便なことがあり、結局4座(といっても後席はそう広くないが)のザ・ビートルカブリオレに乗り換えた(これはスポーツカーとはいい難いが、心のなかではオープンスポーツカーだと思っている)。これらを所有してわかることは、普通の自動車生活をするにはスポーツカー+もう一台が必要ということ。昔、ホンダ・ビート(パーツ販売再開)が出たときには、ビート+ミニバンがサラリーマン家庭の理想だろう、なんて原稿を書いたこともあった(結局ビートは買わなかったが)。とはいえ役に立たないくせにスポーツカーの値段は高いから、普通に稼いでる人では、そうたやすく2台を持てはしない。

●カッコ悪いことはなんてカッコいいんだろう

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そういうことで、富裕層の道楽となってしまっているのが現代の日本におけるスポーツカーだろう。まあスイフトスポーツだってスポーツカーだとも言えるから、ここからは今回の試乗車のスープラのようなピュアスポーツに分類されるクルマで話を進めたい。でまあ、ピュアスポーツはやっぱりカッコよくないといけない。そこでスープラだが、これ、カッコいいのか。素直に言えばカッコいいとは思えない。相当不気味なカタチをしている。知られているようにBMWのZ4と双生児というあたりで、こういう独自の造形が生まれてきたのかもしれない。ただ、スープラには911や日産Zのような伝統のカタチがないだけに、それにとらわれずオリジナリティのあるカタチとなっている。それはまあいいのでは。マジョーラカラーというか、つや消しみたいなマットストームグレーメタリックは35万2000円ものオプションだが、このスタイリングにはものすごく合う。このボディカラーでますます不気味になったが、その存在感ゆえ、最終的にはもしかするとこれはカッコいいのかもと思えてきた。

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時効だがその昔、スープラを公道コーナーでスピンさせたことがある。ヒットはしなかったものの相当やばかった。昔の大パワーFR車は乗り手を選んだと思う。選ばれなかった私はもうちょいで大変なことになるところだったが、さすがに今のスープラは、乗り手を選んだりしない。それどころか私でも少し物足りなさを感じるくらい、安定してコーナーを越えていく。回頭性がいいということになるのだろうけど、足がぺったりと地についている感覚。そこで、スポーツモードスイッチを入れてみるわけだが、すると昔のように暴れてくれるものの、そこは電子デバイスが助けてくれる。なるほど。今のクルマはすごい。

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高速道路の巡航などはアダプティブクルーズコントロールでどんな速いクルマにでもついていける。先頭切らないで速いクルマについていけば、まあ安全でしょうw そして何より快適。ちょくちょく出かける東京までもこれなら楽だろうと思うが、二人しか乗れないし、たいして荷物が載らないのでやっぱり長距離の移動というより、瞬間の走りを楽しむクルマだと思われる。となればやはりパワフルな直列6気筒の方を買いたいところだろう。オプション込みで740万円超えになってしまうが、これが欲しいという人ならお金はあんまり問題ではないと思われるから。

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●トヨタは80点主義の会社、なのか?

とにかく存在感があるのは確か。路上に「異物」が停まっているようだ。このご時世でスポーツカーなんてのはまあ、まっとうな人の乗る物ではないから、これでいいのでは。他を寄せ付けない独自性は確かにあり、仮想ライバルと思しきポルシェケイマンあたりと並べてみても存在感はスープラが上だ。しかもこれがトヨタのクルマなのだ。専業メーカーにはこういうピュアスポーツがいっぱいあるが、トヨタがこれを出していることは、素直にたいしたものだと思う。今でもトヨタは80点主義だと思っている人がいるのかどうか知らないが、このクルマに関していえばこれはもう0点か100点かどちらかだろう。

トヨタのスポーツカー86はスバルBRZとの双生児だが、スープラはBMWのZ4との双生児だ。イチからトヨタ製ではないというのもスポーツカー専業メーカーでない巨大企業らしいところ。日産はフェアレディZを開発しているようだが、巨大メーカーがもはやそんなことをする時代ではないと思う。イチからスポーツカーを作るくらいなら、もっと売れるクルマを考えるべきでは。スープラはとても売れそうもない。しかしそれでいいのだ。トヨタはこんな個性的なクルマだって売ってるということこそ、トヨタという自動車メーカーの価値を高めている。

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ちなみにこのクルマを作っているのは名古屋大学出身の多田くん。私は多田くんを直接知らないけれど、学生時代のバンド仲間の友達の友達。当時からクルマ好きだったようで、60歳過ぎまでそのままで生きてこられたのはうらやましい限り。彼の場合、86はスバルと、スープラはBMWと作っただけに、思いのままにというより、調整して色を出すというやり方なのだろうけど、それでもこれだけ個性的なクルマを作ってこられたのは幸せなことだと思う。章男社長肝いりでもあるわけだし。そう、章男社長がいなかったら、こんなクルマは出せないはず。スポーツカーというある意味「反社会的」な商品を世界最大規模のメーカーが作れるのは章男さんがいるから。そしてまた豊田家が中心にあるというあまり洗練されてない企業風土が残っているからだろう。素朴なクルマ好きというメーカー気質は、横浜や青山にある都会の会社では失われてしまったように思う。三河のトヨタのもとに群馬や広島や大阪や浜松などの田舎企業(失礼)が集まるのもなんだか分かるところ。これからはともかく、今はまだ章男さんや多田くん(1956年生)世代の一世代下くらいまでのトヨタマンは、素朴なクルマ好き気質を失っていないと思う。

ただやっぱりトヨタが作っているだけに、スープラは凶暴とまではいかない。だから普通に運転していてもうちょっと高揚感があるといいな、とは思ってしまった。とはいえスポーツモードスイッチを入れると、ドライバーにもアドレナリンスイッチが入る。ということでノーマルでもうちょいアドレナリンが出てくれるといいのにと思ったわけだが、それが今年のモデルのいきなりのパワーアップの理由なのかも(試乗車は昨年発売された初期物 20年モデルの試乗記)。であれば今の新車はかなりいい感じだと思われる。そうして、欧州車のように毎年手が加えられながら、ロングテールで売られるのだろう。ウインカーレバーは左側にあるし。

●DCTに関しては考え直しました

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最後に、ZF製8速ATが素晴らしかった事も書いておきたい。私はずっとDCTを支持してきたけど、ここに至ってもはやトルコンATが勝ったと思う。心に秘めたスポーツカーはDCTだったが、ザ・ビートルのDCTは私の乗り方だと6万キロほどでギクシャクが止まらなくなった。また心に秘めたスポーツカーがMTの人は多いと思うが、もし実際にピュアスポーツを買うとしたら、諸事情考えると大方の人はATになるだろう。となれば今後はDCTでなく多段トルコンATの時代になるだろう。結局DCTを採用しなかったトヨタの勝ちということだ。

今回乗ったのと同じ試乗車(ナンバー一緒)の昨年の試乗記 https://gazoo.com/car/impression/wcg/19/09/02/w0000141349/

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