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トヨタデイズ第五回  四代目ハリアーはいまだ「高級セダンの乗り心地」「RVの使い勝手の良さ」「スポーティな走り」を融合した都会派レジャービークルなのか

四代目ハリアー縦長

ハリアー、思えば歴史あるクルマだ。初代は20年以上前の1997年に出ている。日本車初の高級SUVで、いわゆるオフロード四駆からの派生ではない。今に至るSUVの元祖というべきか。今の「カッコいいSUV」のブームというか、セダン・ハッチバック殲滅のきっかけとなったモデルといって良さそうだ。

そこで1998年02月06日、初代のモータデイズ試乗記より。

初代ハリアーphoto_1

新しいジャンルのクルマということで、ハリアーを一言で説明するのは難しい。メーカーは、「高級セダンの乗り心地」「RVの使い勝手の良さ」「スポーティな走り」を融合した都会派レジャービークルといっている。
これもまたトヨタのジャンルぶち壊し・将来のシェア独占作戦の戦略車種。
パッケージや機能性優先の質実剛健なクルマだが、それを高級車というオブラートでくるんでしまって、なんだかよくわからなくした上で、高級志向の消費者(高級車を買う消費者ではなく、買うなら高級車がイイという心理の消費者)に売るという見事な作戦。 全文はこちら

ということで、初代からハリアーはハリアーだったことがよくわかる。シェア独占は2020年現在、確かにそれに近い状況だ。

二代目は2003年03月15日の試乗記。

二代目ハリアー

世界初となるハイテク装備を満載。ミリ波レーダーによる「プリクラッシュセーフティシステム」、可動式HIDヘッドライト「インテリジェントAFS(アダプティプ・フロントライティング・システム)」などが新しい。
レーダークルーズとサイド&カーテンエアバッグとセットになった世界初「プリクラッシュセーフティシステム」(50万円!)
3分割ガラスルーフ「電動マルチパネルムーンルーフ」は、最近のヨーロッパ車に多い「天井ほとんどガラス張り」状態。日差しが暑い時に小柄なドライバーがサンシェードを閉めようとしても手が届かない! ほど大きい。
レーダークルーズは前述のように、混んだ高速で走る限り、かなりいい装備に思えた。走行中のクルマ全てがこの装置を使えば、縦列自動運転道路は、あっけなく実現してしまうだろう。とは言え、現状では「レーダークルーズ作動時のマッタリ感」と「運転中は緊張していましょう、という常識」に、相容れない部分がありそうだ。全文はこちら

二代目ハリアーインパネ

ちょうどこの頃、2005年の愛知万博を前に、プリクラッシュセーフティ装置、レーダークルーズコントロールなどいわゆるクルマのハイテクがどんどん登場してきた。私も「インテリジェントカー」というハイテク特集のムックを宝島社から出したりして、それからのクルマのハイテク化に大いに期待していたわけだが、それは今になってもなかなか叶わない。この頃、この手の装備を搭載していたのは、トヨタがSUVのハリアーだったのに対し、ホンダはセダンのインスパイアだった。確か、機能的にはホンダの方が先をいっていたと思うが、当時すでに人気のなくなっていたセダンのインスパイアへの装備だったのがホンダの辛いところ。

インテリジェントカー表紙

前車追走型のクルーズコントロールは今や軽自動車にまで装備されているが、とはいえいまだすべてのクルマには装着されてはおらず、しかも全車速対応でないものもまだ多い。さらに最高設定速度が低いままというものもある。登場してすでに20年近くたっているのだが、いったいつ縦列自動運転道路は実現するのだろうと、悲しい気持ちになる。

その点、天井のガラスが眩しいというのは、新型ハリアーではスイッチひとつでスリガラスになるというハイテクで改善されている。これがまあ20年もの年月による最大の進化、とは思いたくないところだが、さて。

二代目に追加されたハイブリッドモデルは2005年04月23日の試乗記だ。

二代目ハイブリッド

米国でハリアーハイブリッドは「レクサスRXハイブリッド」、クルーガーハイブリッドは「トヨタ・ハイランダーハイブリッド」となる。
『燃費より動力性能に軸足を置いたハイブリッド車と言える。3.3リッターV6エンジンと高性能モーターで前輪を駆動し、さらにリアモーターで後輪を駆動する電気式4WDシステム「E-Four」で「V8エンジン搭載車並みの動力性能」を達成したのが売り。ここでいうV8搭載車とは、暗にポルシェ・カイエンSのことを指す。印象的なのはアクセル全開の加速だ。発進時こそ大人しいが、その後はレシプロエンジンとは異質のトルクを発揮して、電車(というよりは新幹線か?)のように平然とスピードを増してゆく。とうとうクルマにとって重要な「速い」を実現したハイブリッド車ができてしまった。走るハイブリッド百花繚乱時代が待ち遠しい。』(『』内は兄弟車だったクルーガーの記事より)

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内装の上質感もクルーガーとは大きく異なっていて、とてもいい感じ。さすが北米ではレクサスブランドで発売されるだけのことはある。
パワーメーターの針が200kWの最大値めがけてグーンと上がる80km/hから100km/hの加速が気持ちいい。乾いた路面でも加速中に前輪片側がホイールスピンするところも、クルーガーハイブリッドと同じだ。VDIMが制御するパワー感とタイヤがほぼマッチして、ワインディングでの安定感が高く、腰砕け感がない。オールシーズンタイヤでこんなに速くていいの。
いつもの通勤路(片道30kmの一般道、深夜で40分ほど)で余分な加速を控えて走ったら12km/Lを達成。新車シェア50%に届かんとするトヨタ車が全てハイブリッドになれば、日本の新車のほぼ半分がハイブリッドになるわけで、環境には劇的な効果があるはず。燃料電池車の市販化と比べれば、確かにその方が現実的だ。ハイブリッド技術がトヨタの独占状況となるのは諸手をあげては喜べないが、クルマという愛すべき存在を生きのびさせてくれるのであれば、讃えないわけにはいかない。全文はこちら

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二代目のハイブリッド車は「走りのハイブリッド」車だった。燃費じゃなく走りのためにハイブリッド機構を使うというのは、昨今のご時世ではまず許されないことだが、当時はこういうやり方もあったわけだ。ものすごく速いクルマ、で燃費の良さばかりでないハイブリッド車の魅力を示していた。当時はクルーガーという兄弟車があって、今でいえば、RAV4のイメージと重なるちょっと無骨なクルマ。無骨なクルーガー(今ならRAV4)を対局に置いて、よりカッコいいハリアーを引き立てるというやり方で、それは今も功を奏しているといえそう。クルーガーハイブリッドの試乗記はこちらになる。

とにかくこの強烈な走りによって、ハリアーのイメージがぐっとアップしたことは確かだ。環境には優しくないかもしれないが、この速さでこの燃費(12km/L)ならおそらく皆が大満足だったはず。このコンセプトはかなり支持が高かったものとみえ、ハリアーは売れ続け、10年も生き延びた。フルチェンジなし、車名廃止という話もあったようだが、営業からの要請もあって、新型が出ることになったという。

で、三代目は2014年02月28日の試乗記。

三代目ハリアー (2)

ハイブリッド車(2014年1月に発売)では、先代のV6エンジンに代えて、カムリハイブリッドベースの新世代2.5リッター直4「2AR-FXE」に、前後2つのモーターを組み合わせる。
先代の「トヨタ、どうしちゃったの?」と思わせる暴力的加速はないが、相変わらず前後2つのモーターによるトルクは強力で、約1.8トンのボディを軽々と停止状態から加速させる。
先代にあったバカっ速いハイブリッドではなく、ある意味ではプリウスと同じような運転感覚のハイブリッド車である。燃費は確かに先代より良くなっているのだが。
いつもの一般道、高速道路、ワインディングを走った区間(約90km)が10.6km/Lで、一般道(20km)と高速(20km)を大人しく走った区間(約40km)が18.6km/L。
10年前の(ガソリン車の)3リッターV6ハリアーは10・15モード燃費でも9.1~9.7km/Lで、実燃費は5~6km/L台だったと思う。

三代目ハリアーインパネ

個性的なエクステリアデザインと、高級感のあるインテリア。特に、珍しくメッキグリルが主張しない顔は新鮮。プラットフォームは北米の主力車種である4代目RAV4(今のところ日本未導入)がベースで、それに日本向けにデザインしたボディを載せ、日本向けにチューニングしている。そうは言っても、ベースがアメリカ向けのせいか、乗り心地はかなり緩いというか、やわらかな感じ。世界でウケるものが日本でウケるとは限らない。
今、ジャパンコンシャスなハリアーが投入されるのは、マーケティング的には至極アタリマエのこと。ただ怒涛の走りや新たなハイテク安全装備に驚いた10年前のハリアーハイブリッドにあった感動は、もはやこのクルマにはない。全文はこちら

三代目ハリアー

この時代になるとさすがに燃費より走りなどというクルマを出すわけにはいかず、金太郎飴的ハイブリッド搭載車として、ハリアーは生き残った。より現代的なスタイリングとなったものの、10年の間にレクサスブランドは一般化し、レクサスの高級SUVがある以上、このクルマが絶対的にヒットするのは難しかったと思われる。とはいえ、トヨタブランドの最高級SUVという意味ではそれなりの存在価値があり、また代替需要もあったのだろう。6年の間けっこう売れて今回のモデルチェンジとなった。

四代目ハリアー横

そしていよいよ四代目、新型の印象だが、スタイリングはどの方向から見てもカッコいいと思う。流れるようなリアスタイルの大型クーペライクなSUVだが、CH-Rのいかにもなカッコよさとは違う大人っぽくも高級な雰囲気ゆえ、バカ売れしているのもよく分かる。レクサスのあのエグいグリルでなく控えめで落ち着いた顔つきがいい。いかにも金持ちっぽくは見えない奥ゆかしき高級感が日本人には嬉しいのだ。とはいえこれ、いよいよ北米や中国でも売られるらしい。北米版のハリアーである「ヴェンザ」はさすがにちょっとだけグリルが強調されてるように見えるのだが。モーターファンのサイトがニ車を比較紹介しているが、北米トヨタのSUVラインナップも興味深い。

四代目ハリアーインパネ

内装も程よい高級感。ど真ん中上方に位置する12.3インチ巨大横長モニターが目を引くが、画面を分割して使えるのでこれはいい。まあ、ナビは相変わらずなので、たぶんそんなに使わずに道案内はスマホで済ましてしまいそうだが。そうなると、スマホホルダーが欲しいところ。とはいえもし使いやすいところにホルダーを用意したら、走行中の使用を促すものとして当局に怒られるだろうし、それこそナビを自己否定するようなものだから当分の間、用意することはないと思われる。

目の前の二眼メータもごくオーソドクス。かつてのトヨタ車のようにセンターメーターが採用されることなど、もう金輪際ないのだろう。インテリアは大きな中央アームレストなど、先代よりかなり、いわゆる高級感が増していると思うが、成金ぽくないセンスの高級感ゆえ、悪くないと思う。

サンルーフノーマル

障子越しの光を演出する調光パノラマルーフが乗せた人を驚かせる秘密兵器だが、シートを大きく下げて乗れる大柄な人でないと、ドライバーにとって頭上の開放感の恩恵はあまりないと思われる。このあたりは二代目からずっと一緒。

サンルーフスモーク

試乗記の詳細はwebCGでも読んで頂くとして、走りにはもう何の不満もない。昨今は走りとか、もうどうでもいいと思う。このクラスで不満があったら「金返せ」ものだ。そういう人は走りのクルマに乗ればいい。そういうクルマはいっぱい存在しているのだから。またこれ以上高級な乗り心地が欲しいなら、やはりそういうクルマに乗ればいい。日常使いで乗るならもうこれで十ニ分。これ以上高級だと、カジュアルさがなくなって日常使いだとかえって使いにくそう。レクサスじゃなくてあくまでトヨタ車なんだから日常で快適で、そこそこな高級であればでいい。

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通常はありえないと思うが、個人的には今乗っている軽のSUV、ダイハツタフトと比べてしまったりする。高級感は当然ハリアーが上。快適性も当然上。乗せられる荷物量も多い。だけど市内を走り回る分には、軽のごく小さいボディはやはり便利だし、市街地での走りでは加速などそう劣らないと思う。また高級な生活をしているわけでもないので、個人的にはあんまり高級感もいらない。タフトには画面分割のできるストラーダの10インチナビ(ブルーレイ再生可)を後付けしているのでナビも見劣りしないし、プリクラッシュセーフティなどのハイテク装備もタフトにはひと通りついている。燃費はハイブリッド車には流石に負けるが、とはいえまあいい勝負だ。そんなに大量の荷物を乗せることもそうはないし、タフトの低い荷室は日常の買い物を載せるにはかえって便利だ。サンルーフも運転席での頭上開放感はタフトの方に軍配が上がる。どうしても勝てないのは4人しか乗れないということくらいかも。

四代目ハリアーリア

500万円のクルマと200万円もしないクルマを比較するな! クルマにはステイタスも重要だ!、という人は今でも多いと思うが、確かに今でもその人の社会的な地位をクルマは表すと思う。ハリアーはやはり年収が4桁に届こうというくらいの、好調に生きている人に相応なクルマ、ということになるのだろう。そして昨今、そういう人は世にかなり多いため(もちろんそうじゃない人のほうが圧倒的に多いが)、ハリアーは売れまくるわけだ。

しかしまあ実際には、買うのに収入が4桁万円無くてもいいかもしれない。クルマは金融商品の側面もあって、人気があって売りやすいハリアーはそんなに値落ちしない分、相当お値打ちなクルマとも言える。本当のクルマの価格は、(新車購入時の支払額-売却金額)÷使用月数だ。新車価格が高いか安いかは売るときにいくらになるかで決まる。同じ500万円で買っても、売却相場がハリアーより安いクルマはいくらでもあるはずだ。

ハリアー価格

計算してみる。銀行のマイカーローンだと金利は1~2%くらいと低いので、値引きされて総額500万円で買ったとして、2%金利で7年ローンを組むと、返済は月64000円弱。60回5年で借り入れ残高は150万円だから、そのあたりで手放せば、中古車の小売価格が現在の相場感だと230万円くらいゆえ、まあ少なくとも200万円くらいでは売れるはず。500万円借金をしてもなんと50万円のお金が手元に残る。値落ちの激しいクルマだとこうはいかないが、人気のハリアーならこの計算となる。こうなると64000円のローン支払いのうち8000円は毎月貯金しているようなものだ。

ということでそこそこ稼いでいる人に売れる要素を多く持つハリアー。総てのトヨタディーラーで買えるようになったし、高級なクルマは欲しいけどレクサス(ホントのお金持ち用のブランド)まで行くのはちょっと、という段階の人には最高の選択肢となるだろう。そしてトヨタのシェアはさらに高くなっていくのだろう。それは今となってはいいこと、だと思うのは第三次コロナ感染爆発中ゆえ、だけではない…。

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