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コツコツ修行することは無駄なのか?

石の上で何年頑張ればいい?

堀江貴文さんは、著書「多動力」の中で、「1つの仕事をコツコツやる時代は終わった」と言っていました。

本当に終わったのだろうか?

私も読ませて頂きましたが、これ以外にも刺激的な言葉がたくさん出てきます。

「寿司屋の修行なんて意味がない」

「見切り発車は成功のもと」

「飽きっぽい人ほど成長する」などなど。

とにかく「石の上で3年我慢出来たら次の仕事を教えてやる」なんていう親方や上司の言うことなんて信じず、「オープンイノベーション」の時代なんだから、必要な情報を集め、自分でどんどんチャレンジしてしまえばいいじゃん!という主張です。例として紹介している寿司屋さんは、3か月の修行で寿司職人の技術を身に着け、開いたお店がミシュランガイドに掲載されたそうです。だから修行とかやっている奴は無駄!というのです。

物言いは過激ですが、時間は限られているんだから既成概念や会社のルールに縛られず、自分のやり方で失敗を恐れずやりなよ、というメッセージなのだと受け取りました。これには賛成です。他にも参考になることが書かれており、全体的に楽しく読めました。

レアカードになる方法

で、この本の中で、元リクルートの藤原和博さんの話が出てくるんです。それは「レアカードになる方法」というモノです。レアカードといのはレアな(希少な)カードで、カードゲームに興じる子供たちの間で使われる言葉です。(うちの小学生の子供たちもアニメのレアカードに夢中です)

その「レアカードになる方法」とはどういうことか。ちょっと紹介します。

①まず一つのことに1万時間取り組めば誰でも「100人に1人」の人材になれる。

1万時間は1日6時間毎日やったとして5年間(1日3時間なら10年間)。1日の時間にもよりますが、5年から10年の間、一つの仕事を集中してやれば、同分野で突出した人材になれる。

②次に、軸足を変えて別の分野でさらに1万時間取り組む。

すると、「100人に1人」×「100人に1人」の掛け算で1万人に1人の人材になれる。

③さらに別の分野でもう1万時間取り組めば、「100人に1人」×「100人に1人」×「100人に1人」で100万人に1人の人材になれる。

というものです。

100万人に1人の人材になれれば、仕事に困ることはないでしょう、というのが藤原さんの主張。この主張をを堀江さんは本の中で紹介し、次から次へと別の分野に手を出せば、いずればオンリーワンの存在になれる、と言っています。

なぜ1万時間なのか?

では、なぜ1万時間の間ひとつのことに取り組むと、他から突出したスキルを身に着けられるのでしょうか。

これは、『天才!成功する人々の法則』【マルコム・グラッドウェル著(原題「OUTLIERS THE STORY OFSUCCESS」)】に書かれていて、藤原さんもこの本を参考にして「レアカード」論を展開しています。

この本は、「天才」と「訓練」との関係性について書かれています。

それまで、世界中の心理学者はある疑問について盛んに論じてきました。それはこんな疑問。

「生まれつきの才能はあるのか?」

答えはイエス。ある。しかし、心理学者が才能のある人間の経歴を調べれば調べるほど、持って生まれた才能よりも、訓練の役割がますます大きく思えるのだ、と言っているそうです。

そして著者のマルコムはこう述べます。

「複雑な仕事をうまくこなすためには、最低限の練習量が必要だという考えは、専門家の調査に繰り返し現れる。それどころか専門家たちは、世界に通用する人間に共通する「魔法の数字(マジックナンバー)」があるという意見で一致している。つまり1万時間である」

神経学者のダニエル・レヴィティンはこう言います。

「作曲家、バスケットボール選手、小説家、アイススケート選手、コンサートピアニスト、チェスの名人、大犯罪者など、どの調査を見てもいつもこの数字が現れる。(中略)1万時間よりも短い時間で、真に世界的なレベルに達した例を見つけた調査はない。まるで脳がそれだけの時間を必要としているかのようだ。専門的な技能を極めるために必要なすべてのことを脳が取りこむためには、それだけの時間が必要だというように思える」

そしてこの本では、1万時間をこなすために必要な期間を10年と言っています。10年間、1つのコツコツと積み重ねると、突出した存在になれるのだ、と。

デビューから29連勝の新記録を打ち立て、日本中を湧きあがらせた驚異の中学生、将棋の藤井聡太4段。藤井さんは5歳から将棋を始めたそうです。今14歳だから将棋歴は9年。つまり(おそらく)約1万時間の訓練を積み重ね、才能を開花させたのでしょう。「1万時間一流説」に符合します。

1000段の階段をどう上る?

堀江さんの本に戻るのですが、面白いのは、堀江さんはコツコツやるなんて時代に合わないと言いつつリクルートの藤原さんの「1万時間」の話を紹介しています。一方、その藤原さんは「1歩1歩クレジット(信任)を積み上げれば夢は現実になる」と言っています。つまりコツコツやっていけよ、と。

堀江さんの真意がどこにあるか分からないのですが、個人的には藤原さんの主張には納得感があります。

藤原さんの本を読む限り、藤原さんは基本的には「コツコツ」を薦めています。

藤原さんは1000段の階段があるビルの頂上を目指すならば、1段1段着実に上っていけ、と言います。気の短い人だったら、頭とお金を使って、ヘリコプターでビルの上空に連れていってもらい、天から舞い降りた方が早い、というかもしれません。

でも、その日、台風が来て、ヘリが飛ばないかもしれない。その日、ヘリが故障するかもしれない。そうなると天気任せ、運任せの部分が出て来る。だったら、自力で、1段1段、確実に上って行った方が良いのではないか?と藤原さんは言うのです。

私もまさに、藤原さんの考え方に賛成です。コツコツ流では、1段1段積み重ねていく行為そのものが尊いと考えます。ヘリで一瞬で頂上にいくよりも、1段1段踏みしめていくことに価値を置き、それがスキルを上げ、自信を育て、人からの信用を築くのだと信じます。

信任を積み上げる時間は短縮できない

寿司屋で10年修行するのは無駄が多いかもしれません。寿司の握り方マニュアルを読めば、一瞬にして分かることも多いのでしょう。だから3か月で寿司職人になれるのかもしれません。

しかし。

10年間修行したからこそ「見える領域」、「理解できる感覚」、「気づける違い」もあるはずです。そこに、一流の人になれる秘密が隠されているのだと思います。私が尊敬するベーカリーの経営者は「パンの味に人間性が出る。だから人間を磨かなければならない」と真剣に言っています。途方もなく続くトライ&エラーの繰り返しの中で、スキルの違いが生まれ、人間性が磨かれるのです。

つまり「熟成」です。熟成が生み出す「数値で表せられない何か」こそが、本物とそれ以外のものを分けるのではないでしょうか。

そしてすごく重要なことがもう一つ。それは、「信用」に関することです。

スキルについては、もしかしたら堀江さんの言うように、正しいやり方さえ分かれば3か月で身に着けられるものもあるかもしれません。しかし、「信用」は3か月では得られません。信用は言葉巧みに「私を信用してください!」と言ったところで、信用されるものではありません。そして、ビジネスをする上で「信用」というのはスキル以上に重要なものです。

藤原さんは、信用を「クレジット」という言葉に置き換えて、こう説明しています。※正確には、藤原さんはクレジットのことを「信任の総量」と呼んでいます。

「クレジットを蓄積するためには、目の前の1人を大事にして、地道に信頼と共感をゲットしていく以外に方法はありません。この時間を短縮することはできないのです。そしてクレジットが高まれば、自然と、夢が現実になる確率も高まります。信任の高い人物には応援団がつくし、資金的な援助も得られるでしょう。何より、ネットワークが川となって、流れる水のごとくにエネルギーが集まってくるからです。繰り返します。一歩一歩クレジットを積み上げれば、夢は現実になる。」(参考:「10年後、君に仕事はあるのか?」藤原和博 著)

「コツコツよりも、ヘリで目的地へひとっ跳び」したい人は、そちらへ。

1段1段着実に行きたい人は、コツコツ流へ。

ここは、流派の違い、タイプの違いです。

コツコツを愛し、コツコツを信じるあなたへ。

1段1段上り、自分なりの頂点を目指していきませんか?



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