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〈読書録:繁栄のパラドクス>


■「繁栄のパラドクスとは?」

貧困エリアに資金を投じ直接支援する試みでは持続的繁栄は得られない。
例えば貧困エリアに井戸を掘っても生活者の生活は一時的にしか良くならなず根本的には解決しない。
目に見える困っていることを解決するだけでは貧困は解決しない。

一方で、そこに市場はない、そんなところでどうやってコストを回収するんだ?と一見思われるような貧困国、かつ富裕層でもない大衆へのイノベーションを伴うビジネスにこそ持続的繁栄をもたらすチャンスが眠っている。

 

■なぜ単なる援助では貧困は解決しないのか?

「持続可能な経済成長に目を向けられていない」ためである。

例)水場のないエリアに井戸を掘る

∟日々多くの時間を遠くの川への水汲みに従事していた人々の、安全な水の提供と、水の調達にかけていた時間が無くなりほかのことに使える時間を増やす

→井戸はすぐ壊れる。修理のための資源や知識がその場にない。ただ使えなくなるケースがほとんど。時間が創出されても生活が豊かになる有効な仕事がない。

「貧困を終わらせることばかりに目を向けると貧困は根本的にはなくならない」

 

■市場創造型イノベーションが繁栄のプロセスをもたらす

・「市場創造型」イノベーションとは?

プロダクト・サービスをシンプルかつ安価にし、より多くの人が購入し利用できる入手性の高いプロダクトに変換することである。まったく新しいプロダクトのカテゴリーを創造することもある。

 

・なぜ繁栄するのか?

プロダクト・サービスを製造、市場化、流通、販売、顧客サービスのためにより多くの人材を必要とし、雇用が創出される。雇用が創出されると一人当たりの所得が高まる→新たな消費が増える。市場があると明確に分かれば資源が外部から流入する。新たなプロダクトを作るための雇用が生まれる等の、持続的経済成長と雇用の創出という好循環が形成される。

 

※そのほか2種のイノベーション分類があるが、それらは長期的な繁栄のプロセスを生み出さない。

・持続型イノベーション

すでにある解決策の改良である。プロダクトやサービスに、より高い付加価値をつける。既存市場の顧客をターゲットとした、利益幅を上げるアプローチ。(例:iPhone5→iPhone10)

→既存の資源(人員・流通網等)を活用するだけ。若干数の人員を雇えば済んでしまう。市場規模にも変化がないので、経済成長を牽引するようなドライバーにはなりえない。

 

・効率型イノベーション

プロセスの変革により既存の流通、既存の資源を、ぎりぎりまで有効活用するもの。「どのように作るか?」といった概念。

→組織の生産性の向上にはなるが、既存従業員にとって喜ばしいこととは限らない。効率化イノベーションによって増加したキャッシュフローは雇用の増加にはつながらない。多くは消滅が増加を上回る。

(資源採集産業は根本的に効率性に依存するため持続的な雇用創出を生み出さない)

 

※もちろん社会の発展には成果を残す上記の2つのイノベーションではあるが、持続的な経済成長と、雇用の創出を生み出さないという特徴がある。

 

■無消費者に目を向けることの意味

市場創造型イノベーションは無消費者(これまでそれらを使えなかった、使わなかった人々)を巻き込む新市場である。金持ちを対象とするのではない。ここを取り込むことで多くの資源が集まる。

 

・市場創造型イノベーションを成功させるポイント

①     従来より確実に低いコストで高度なパフォーマンスを実現する技術

②     コスト構造を見直すこと

∟既存の消費者をターゲットにしているコスト構造では無消費者をターゲットにすることができないため新しいバリューネットワークの創造の中でコスト構造を見直す必要がある

③     柔軟戦略

 市場がまだ確立していないうちは、予期しないことがよく起こる。予測するためのデータもないことが多い。             

④     経営陣のサポート

新市場の創出は高い評価をもらえないことが多い。予測が立てられないため。また要する資源が多くなりがちなため。

 

■無消費者が消費をしないバリア要因

・スキル:それらを扱える知識・能力がない

・資産:買えない

・アクセス:その場所からでは得られない

・時間

 

無消費者の消費を喚起するには「その不満課題は行動を起こしたくなるほど重要である必要がある」

 

■繁栄のプロセスを構築するためのその他の注意点

・制度は文化に追随する

 他国で成功した規則や規制は制度として機能するとは限らない。なぜなら、制度は地域の習慣や文化と密接にかかわっており、制度の心臓部は人の価値観を反映しているからである。

制度の構築維持には市場創造型のイノベーションが先行する。

※地域経済をまず成長させるよう手助けをすれば文化と制度の変化は後からついてくると思われがちだがそうではない。

 手続きは道徳の道具ではない。経済の道具である。何をすべきかを手続きが決定することはなく、ただより手早く行う方法のみを決定する。

 

・インフラはイノベーションに追随する

インフラを構築し、維持するためのコストを吸収できる市場があればこそ、インフラは着実に整備される。そこに市場がない場合はステークホルダーの思惑により政治の道具となったり、腐敗を生むため、ただ維持されるのみとなり、有効な活用がなされにくい。

そこに有効活用できる市場がある場合にのみ有効活用される。

 

・インフラのあるべき定義

社会が価値を保管あるいは分配するための、最も効率的なメカニズムである。

例)学校と教区は道義ではない。学校を作っても教育レベルは同じになるとは限らない。

 

※国や公共的なインフラは高いコストをかけながら、経済に好影響を与えるという目的を十分に果たせていないことが多い。

※企業の求める水準の機能を満たせない場合、自社で内製化してしまうほうが中長期的に高い利益、及び経済価値を生み出すことが多い。

 

■まとめ

・貧困国問わずどの国でも素晴らしい成長の可能性がある。

・すでに存在するプロダクトのほとんどは無消費者をターゲットにすることで(入手しやすくすることで)新しい成長市場を創造する可能性がある。

・市場創造型のイノベーションは単なるプロダクト・サービスではなく、持続的経済成長と雇用を創出する繁栄のプロセスを生み出す。

・制度やインフラなどは押し付けると、長期的な好ましい結果をもたらさない。創造した市場がそこにあれば、引き寄せられた資源は、より有効的に活用されやすく、持続可能な繁栄につながりやすい。

 

■考察

慈善活動ではなく、ビジネスであるから、持続的な雇用と経済成長がうまれ、繁栄のプロセスが形成されるということ。

また勝手に既存の経済規模で、そこでビジネスを実現することは難しいと勝手に思い込んでいたが、無消費者のジョブに気づき、コスト構造さえ押さえれば、どこでも市場になりうる可能性がある。また「どこでも」という話からも、飽和して、衰退し始めている国や市場でも同様のことが言える。

無消費にアプローチするためには既存のデータにほぼ頼れない。「なぜその選択をしたのか?」「なぜその選択をしなかったのか?」をとらえる必要がある。

 


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