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10/30(土)「ラ・カチャダ」上映後トーク with 福田倫子さん&高橋智子さん

ドキュメンタリー映画「ラ・カチャダ」上映後、青年団・俳優の福田倫子さんと髙橋智子さんをお招きし、「演劇ワークショップについて」お話を伺った。

福田倫子(ふくだ・みちこ)
女優。二児の母。青森県つがる市出身。市内高校や小学校におけるコミュニケーション教育のワークショップ講師。地元FMラジオのパーソナリティ。発達障害児のための運動療育士。幼児教育インストラクターとして子育て講座等を開催。2000年に当時国家公務員として働く傍ら劇団「青年団」へ入団。2018年に家族で東京から豊岡へ移住。最近は、紙芝居の活動をする。

髙橋智子(たかはし・ともこ)
東京都出身。俳優/ 青年団・介護福祉士。桜美林大学生時代に平田オリザに出会い、演劇の魅力にハマる。以降、『東京ノート』『銀河鉄道の夜』等の作品に参加。昨年10月末より豊岡へ移住し、現在は江原河畔劇場で劇場スタッフとして働きながら、俳優、ワークショップアシスタント、TAAの理事などの活動を行っている。介護従事者としても10年以上のキャリアを持ち、ALSやSMAの難病をお持ちの方々のコミュニケーション支援を行ってきた。

<あらすじ>
 エルサルバドルの露店で生活の糧を得るシングルマザー5人が演劇のワークショップに参加し、講師とともに劇団「ラ・カチャダ」を立ち上げる。リハーサルを繰り返すうちに、彼女たちは自分たちの生活や状況に向き合うことになる。それは社会全体が許容している、女性に対する不当な暴力のサイクルだった。哀しみを肥った肉体に秘めて陽気にふるまう女たちは、植えつけられたトラウマを乗り越えることができるのか。
 本作が初の長編監督作品となるマレン・ビニャヨは、ラ・カチャダの活動に1年半密着して、その魅力を存分に映像に焼きつけた。

作品提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 /山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 インターナショナルメインコンペティション出品作品 / サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2019グローバル部門観客賞受賞

1)演劇を通して世界を見ていく

高橋智子さん

▼高橋智子さん
演劇の良さも怖さもすごい詰まっていました。
大学時代、オリザさんから「演劇を通して世界を見ていく」ことを教わりました。自分の解像度を上げていくことで、世界の色が変わって見えていくということです。劇中の彼女たちもそのプロセスを体感していたと思います。
自分の経験を語って舞台を作り上げていくのは、日本でも最近増えています。ただ、それは危なくもあって、劇中でもファシリテーターが途中で彼女たちに傷づいていないかの確認をしていました。
私もワークショップに入る時は、個々が持っている物語に失礼のないように、なるべく安心してやってもらえることを考えるようにしています。

▼福田倫子さん
演出家が初日の楽屋で、これは「全ての子どものたち、社会のため、あなたたちのための作品よ」って言ってました。だとしたら一人の俳優・女性に課せられ、乗り越えないといけないハードルがが高すぎます!ハードルを乗り越えたら彼女たちは救われるかもしれないけど、乗り越えないないといけないものが高すぎて、なんか晴れないです。
演劇のある種危険な匂いも感じました。演劇を使って、自分を吐露させている部分です。
セリフを与えられて、それを言おうとしているときに、普段の自分を振り返ったり、自分を違う角度でみたりすることができます。私は、俳優として一つのセリフを前にした時に、自分を違う角度から見る作業をしています。そのあたりに通じるものがあると、反面で感じたりもしていました。
でも、本当に観られて良かったです。

2)物語に変換された瞬間

福田倫子さん

▼福田倫子さん
俳優が昔体験した若いころのエピソードを話して、それを高校生たちに劇にしてもらう「エピソードトーク」というワークがあります。
そのワークとこの映画が、若干似ていると感じました。
エピソードを話した人にとっては、自分の過去の体験を誰かが演じることによってすごく客観的に見ることができます。
高校生たちは、誰かの話をアウトプットしていく表現として組み立てていく面白さを体験することができます。
このワークの面白い点は、その続きを本当の実体験じゃない続き、彼らなりに考えてもらうというところです。
それが素晴らしいんですよ!
本当の体験じゃないからこそのありえない展開、自分がさも引き続き体験したような既視感を味わえます。

▼高橋智子さん
物語に変換された瞬間
というか、自分の物語なんだけど、それがフィクションになった時に癒やされるというか、そういうことが起きます

▼福田倫子さん
オリザさんが以前言っていたのは、「自分が作品を作る上で目指したいのは、あるシーンを見て、一部のお客さんは笑っているけど、一部のお客さんは泣いているみたいなこと。同じシーンを見て、いろんな感情を持てるような芝居を作りたい」と仰っていました。
人によって切り取る部分は、悲しいとか辛いとか面白いとか感じる部分が違います。一つのエピソードを通して感じれる部分が客観性。そこが面白いと思えるのが演劇だと思います。

(レポート作成:杉本悠 / 写真:友金彩佳 / 当日ファシリテーター:歌川達人)
開催日:2021年10月30日(土) / 場所:江原河畔劇場

【監督のことば】
 私がこの映画の登場人物たちに出会ったのは、2010年、卒業制作となる短編ドキュメンタリーの撮影のために、スペインからはるばるエルサルバドルへ赴いたときのことだった。取材対象である現地のNGO団体が、街頭で物売りをして生活する人々の子どもたちのケアを主な活動内容としていて、マガリやマグダ、ルースやチレノやウェンディは、そんな母親たちのなかにいたのである。

 初めて中米を訪れた私は、このとき、自分とは完全に異質の現実と直面することとなった。私は当時23歳で、自分とそう変わらない年齢の女性が自分とは全く異なる人生を歩んでいて、子どもたちをできるだけちゃんと育てることしか考えていないという事実に、ショックを受けたのだ。

 ところが3年後、エルサルバドルへの移住を果たした私と再会した彼女たちは、なんと舞台の上に立っていた。あの内気で不安げな女性たちが劇団を結成し、家庭や市場での自身の経験を描く、ささやかな演劇の実験を披露していたのである。私は驚いた。そこにいるのが、かつて出会った人と全く異なる女性たちだったからだ。彼女たちはその頃、プロとして初公演となる劇の準備を進めていた。そこで私は、母親としての実体験を語るこの劇が創作される過程で行われる稽古を、一つひとつ撮影していこうと決心した。

 リハーサルを重ねてゆくごとに、幼児期の虐待、10代での妊娠、ジェンダーにもとづく暴力、性的虐待、貧困など、彼女たちの体験してきた恐ろしい出来事の数々を知ることとなった私は、やがて何か本質的な変化が目の前で起こっていることに気づいた。私は、演劇から力を得た女性たちが自らの声を発見するという実験、そのなかで彼女たちが自身を理解し再発見するという実験の立会人となった。そして、暴力的な現実が自分と子どもに対してもたらす影響や、そうした世代間の悪循環と闘い、打破することがこの実験によっていかに可能であるかに彼女たちが気づいてゆく様を、その目で見届けることになったのである。

https://www.yidff.jp/2019/cat009/19c012.html

#ドキュメンタリー #シングルマザー #ラカチャダ #とよおか月イチ映画祭 #演劇 #江原河畔劇場


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