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"ミャンマーの現在と、日本の移民を考えよう" 「僕の帰る場所」上映会@豊岡劇場

”ミャンマーの現在と、日本の移民を考えよう”と題し、ミャンマー日本合作映画「僕の帰る場所」を上映。監督の藤元明緒さんから、上映後にZoomでお話を伺った。

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脚本/監督/編集:藤元明緒
1988年生、大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映像制作を学ぶ。日本に住むあるミャンマー人家族の物語を描いた長編初監督作『僕の帰る場所』(18/日本=ミャンマー) が、第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門2冠など受賞を重ね、33の国際映画祭で上映される。長編二本目となる『海辺の彼女たち』(20/日本=ベトナム)が、国際的な登竜門として知られる第68回サンセバスチャン国際映画祭の新人監督部門に選出された。現在、アジアを中心に劇映画やドキュメンタリーなどの制作活動を行っている。
レポート作成:石原七海
2002生まれ、東京出身。芸術文化観光専門職大学在学中。豊岡映画センターのメンバーとして活動。

1)作品制作のきっかけ

監督の藤元明緒さん(以下、藤元監督)は、プライベートで通うようになったミャンマーレストランでミャンマーにルーツのある方々と交流し、難民問題に触れるようになったという。

「そこにいる人達の話を聞くと、ほぼ全員が難民、または難民申請中の方だったんです。“難民”という言葉を知ってはいましたが、実際に会って直接話をしたのは初めてでした。」

そして、藤元監督はこの映画のモデルとなる3人家族と出会った。

「その家族は、お父さんだけが日本に残り、子どもと奥さんが一年前にビザの関係でミャンマーへ帰ってしまった。でも、子どもたちが全然ミャンマーに馴染めない。友達もいなくて、すごく可哀想そうな状況になっている。その話を聞いていて、その子どもに会ってみたいと思ったんです」

実際に、子どもたちと会うためミャンマーを訪れた藤元監督。しかし、事前に聞いていた話とは違い、ミャンマーに馴染んでいる子どもたちの姿に出会ったという。

「ミャンマー語を頑張って勉強して、子どもたちが困難を乗り越えているように感じました。同時に、“彼らがどうやってこの壁を乗り越えたんだろう“と疑問に思ったんです。”子どもだけじゃなくて、家族がこの問題にどう立ち向かって行ったのか“をすごく見たくなりました。」

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2)藤元監督の話を聞いて、私が感じたこと

藤元監督が「フィクション映画であれば、この家族がたどった時間を再現することができる」とおっしゃっているのを聞いて、私はそこに“藤元監督がこの映画を撮るに至った強い衝動”を感じた。

そして、この作品で起用された演者は、殆どが一般人だ。演出方法として、撮影現場では、”映画を撮っている状態”と”日常を過ごしている状態”の境界を無くすように努力したという。そうした工夫が、臨場感やリアリティを伴って観客に様々な思いを届けているのだと思った。

司会からの質問で、「様々な国で上映された際、この作品がどのように受け入れられたのか」という質問がとんだ。ミャンマーでの上映が特に印象的だったと振り返る藤元監督。ミャンマーに住む方々は、海外で暮らすミャンマーの方々のことをあまり考えたことがなかったという。

「日本に住むミャンマーの方々を、ミャンマーから逃げて海外へ行った裏切り者だと表現する人もいる。でも、映画を観たことで、それぞれに事情があるのだと相互理解が深まったように感じた。映画がそういった偏見を変えていってくれたのではないかと思う。」

よく難民受け入れについては議論になるが、母国に帰っていった人々のことを考える機会は少ない。

私達が住む豊岡にも、ベトナム人技能実習生をはじめとして、海外にルーツを持つ方々が多く住んでいる。海外から日本に移り住む方々も、決して少なくない。観客から、「近くに住む技能実習生の方々に、自分から話しかけていれば」「コミュニケーションを取ればよかった」という感想が少なくなかった。

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撮影を終えて、藤元監督は
「難民を難民として見るのではなく、人は人で、家族は家族なんだと改めて実感しました。つまり、カテゴリー分けして、人を見るのは良くない。制作する前を振り返り、少し反省しています。撮影後は、なるべく先入観は持たずに人付き合いをしようと思うようになりました。」

私達はどうしても先入観を完全に排除することはできない。しかし、それぞれが抱える様々な背景や事情を知ることで、凝り固まった先入観がほぐれていくこともあるのだと、上映会を通して実感した。映画に限らず、アートはそういった役割を担うことができるのではないだろうか。移民や難民に限らず、“私達が他者とどう向き合っていくべきか”を考えさせられた時間だった。

3)新作『海辺の彼女たち』

藤元監督の最新作『海辺の彼女たち』が全国で公開している。本作は日本に住むベトナム人技能実習生を追った作品。豊岡劇場に限らず、日本中のアートハウス系映画館で上映されている。ぜひ関心のある方は、本作の上映にも足を運んでいただきたい。

レポート作成:石原七海 / 写真:堀内遥友・友金彩佳 / サポート:歌川達人

2021年6月2日(水) 17:30
会場:豊岡劇場
主催:豊岡劇場、豊岡映画センター
料金:大人1,500円 / 大学生1,000円 / 高校生以下無料
上映後、藤元明緒監督によるZoomトークイベントを開催
豊岡映画センター toyooka.eiga@gmail.com
【「僕の帰る場所」のあらすじ】
東京の小さなアパートに住む、母のケインと幼い二人の兄弟。入国管理局に捕まった夫アイセに代わり、ケインは一人家庭を支えていた。日本で育ち、母国語を話せない子ども達に、ケインは慣れない日本語で一生懸命愛情を注ぐが、父に会えないストレスで兄弟はいつも喧嘩ばかり。ケインはこれからの生活に不安を抱き、ミャンマーに帰りたい想いを募らせてゆくが——。
世界的な関心事項である”移民“という題材を、ミャンマーでの民主化の流れや在日外国人の家族を取り巻く社会を背景に描く。出演者の多くには演技経験のないミャンマーの人々を多数起用。まるでドキュメンタリーを思わせる映像は、ミャンマー人一家の生活を優しく見守りつつ、彼らが置かれた厳しい環境をありのままに映し出すシビアな眼差しで貫かれている。
・東京国際映画祭2017 アジアの未来部門作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞
・オランダ・シネマジア映画祭2018コンペ部門など10以上の国際映画祭で上映

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