11/3(水・祝)「ラ・カチャダ」上映後トーク with 姚瑶さん
ドキュメンタリー映画「ラ・カチャダ」上映後、芸術文化観光専門職大学講師の姚瑶さんを招き、話を伺った。
▼語学学習と演劇、自分を受け入れること
私は、教師一家に育ち、将来は教師になろうと思っていました。
中2の夏にドラマ「東京ラブストーリー」を見て日本に興味を持ち、語学教師になることを決心したんです。
大学卒業後は、九州大学で博士号を取り、「外国語を習得するのに演劇の手法が有効」という仮説を立て研究を進めています。
私の第二外国語は、日本語です。以前、私は大学の成績は良いのに、日本の人と話すと上手く通じないことに悩んでいました。
そんな折に、「カチカチ山」の劇に出た際、なぜか上手く喋ることが出来たのです。そこから、その理由を考え始めました。
教育現場では内容の理解や語彙の習得が中心ですが、なぜ日本の人と話す時には上手くいかないのか?
理由は、2つあると私は考えています。
まず「情意領域」、簡単にいうと「緊張」です。
例えば、私に100%の能力があるとして、日本の人と話す時に緊張して60%しか出せないことがあります。
この要因は不安だけではなく、テストで高得点を取りたいといった心理的欲求や動機付けなどの「外的動機」から生じているのです。
達成感やもっと勉強したいという内的要因だけでは、学校の勉強で習得した能力を上手く出せません。
もう一つは、「自信・自尊感情」です。言葉を間違うと笑われるのは、教室の中でもよく起きることです。それにより、自尊感情の低下につながって、うまく喋れなくなってしまう。
それはこの映画にも繋がっていて、映画の女性たちが生活の大変さを表に出せないのは、「自分を受け入れることができない、他人も受け入れることができない」からのように見えるんです。
でも、演劇を通してなら、子どもや両親に対する感情も表に出したり、共有できて、受け入れられるかもしれない。そういった研究をしています。
▼母親として、映画から感じたこと
映画鑑賞前に、あらすじだけを見た段階ではここまで感動するとは思いませんでした。
私にも2歳の娘がいて、何回かウルっとするシーンがありました。
ちょうど「魔の二歳児」なので(笑)、私が一番共感したのはお母さんたちがイライラして子どもに当たってしまって、その後、罪悪感や自己嫌悪に陥るシーンです。映画に出演する女性たちが、悪循環に陥ってましたよね。
後悔する、イライラする、叩いてしまう。
そういったことを、演劇ワークショップという形で、本当の自分の気持ちと向き合うというプロセスは、私は羨ましいなあと思いました。
子育てで困った時、私は自分の母親や友人に相談していましたが、そういう場がない女性も多い。
自分の行き過ぎた行動を、もちろん虐待はダメですけど、例えば言葉の暴力、それはしつけなのか、それとも自分のイライラを子どもにぶつけてしまっているのか。
一人の母親として、この映画の登場人物たちに共感しました。
こういう演劇ワークショップという方法もあるんだと、新しい発見でした。
▼海外にルーツを持つ子を育てる母として
妊娠中は、バイリンガルの本をたくさん読みました。
0歳児の頃から中国語で話しかけたけど、日本語しかしゃべれず、ショックでした。専門家に聞くと、軸になる言葉があって、もう少し大きくなってからが良いと。別の専門家は、同時に話していかないといけないと言う人もいます。
今、娘はやっと2歳8カ月です。中国語を喋らないけど、私の言っていることは通じているようです。中国語で言ったことに、反応してくれます。他方で、私の祖国である中国語と日本語のこと、つまりバイリンガルの教育に関して、私一人の力の限界も感じます。娘には、複数の国にルーツを持つことを誇りに思ってほしいです。
▼豊岡に住む、海外にルーツを持つ方々を想う
豊岡に来て驚いたのは、「留学生はいません」と言われたことです。
豊岡市内の外国にルーツのある方、いわゆる外国人の構成を調べると、技能実習生の割合が大きい。外国人の割合は、全国平均が2.3%、豊岡は1%です。みなさんが街中を歩いていても、確率的にはあまり出会わないと思います。
しかし、2019年の豊岡市・神戸大学共同研究によると、困っている外国人は多いことが分かります。
「外国にルーツを持つ子どもの日本語問題」や、「日本語があまり出来ない外国人女性の妊娠・出産の問題」などは、あまり聞かない話かもしれません。
豊岡に住む多くの技能実習生に対して、3〜5年で母国に帰るから深く関わらなくてもいいと思っている人がいるかもしれません。
先日、市役所で開催した「多文化共生セミナー」で、有識者は「短期滞在の方に、長期滞在してもらうためには、地方の経済がキーになる」と言っていました。短期滞在の外国人の多くは、「本当は長く滞在したい」と思っているそうです。
(雇用や経済的な点で)そういった土壌を作っていければ、外国人も長く豊岡に滞在して、税金も払って、元々この土地に住んでいる方々と一緒にこの取り組みを進めていけるのです。
地元の方から「豊岡は何もないです」という話を聞きますが、私も夫も「そんなことないですよ」と言うんです。
18年間住んだ福岡と比べると、自然豊かで青空がとても美しい。
地元の人にとっては当たり前かもしれませんが、例えば観光客にとっては観光資源になると思います。
気候は、日本海に面していて晴れたら空気も美味しいですし、もっと自信を持って外の観光客にPR出来たら良いなあと思います。
▼豊岡市多文化共生推進事業「中国語と中国文化を楽しもう!」
豊岡市では、2022年8月28日から「中国にルーツを持つ子ども」を対象に中国語と中国文化を楽しむ講座を開催しており、ファシリテーターを姚先生が務めます。18歳以下の中国にルーツを持つ子どもとその保護者の方はぜひ!
※豊岡市では「多様性を受け入れ、支え合うリベラルなまちづくり」を推進するため、多文化共生推進事業「母語・継承語支援の調査研究と実践~外国にルーツを持つ子どもの支援」を芸術文化観光専門職大学に委託して実施しています。
(レポート作成:杉本悠・歌川達人 / 写真:友金彩佳 / 当日ファシリテーター:歌川達人)
開催日:2021年11月3日(水・祝) / 場所:豊岡劇場
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