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世界の終わりとバイオハザード

私は20代後半の頃、ゲームに夢中になっていた時期がありました。

そのゲームとは、1996年に発売されたサバイバルホラー「バイオハザード」です。

それまでの私は「ゲームなんて子供がするもの」と思っていおり、ゲームとは無縁の人生を送っていました。
「スーパーマリオ」「ドラゴンクエスト」などの二頭身のキャラクターが平面の画面を水平に移動するゲームに興味が持てなかったのです。

そんな私が、姉がお正月の暇つぶしにとプレステのゲーム機と共に買ってきた「バイオハザード」にすっかりハマってしまったのです。

特殊部隊STARSの隊員であるクリスとジルが、ゾンビから逃れ謎の洋館に逃げ込んだところから極限の脱出劇が幕を開ける・・・

キャラクターも「マリオ」のような二頭身では無く等身大の大人であり、映画さながらのストーリー性と謎解きの魅力にすっかり没入してしまいました。

ストーリーの構成も実に良くできており、アイテムを集めミッションをクリアすると次のステージに進める仕組みになっているのです。
私は迫りくるゾンビに怯えながらも、アイテムを集めるのに必死になり、気付けば夜が明けている、といった日々を過ごすことになりました。

まさに中毒性のあるゲームといえます。

当時まだネットは普及しておらず、どうしても次のステージへ進むためのアイテムが見つからない時は、本屋で売っている「攻略本」に頼るしかありませんでした。
私が購入した「バイオハザード」の攻略本はは実に優れており、プレーヤーに程よいヒントのみを与え、謎解きの余白を残す素晴らしい内容でした。
素晴らしい攻略本との出会いが、私をより一層「バイオハザード」へとのめり込ませたのかもしれません。
私は文字通り、寝食を忘れてプレイし続けました。

攻略本の力を借りながら何十回、何百回ものトライ&エラーの末、タイラントをロケットランチャーで倒しエンディングを迎え、テーマ曲「夢で終わらせない」が流れた時は、感動の涙でエンドロールが霞むほどでした。

攻略本にはゲームを終えた後もプレーヤーが楽しめるように、様々な裏ワザも記載されていました。

中でも私を奮い立たせたのは、ゲームを3時間以内にクリアすれば「無限ロケットランチャー」が手に入るという裏オプションでした。

攻略本には「3時間以内にクリアするには極限の集中力を必要とする。プレイを中断しないよう、事前にトイレに行っておくのが望ましい・・」など、素晴らしいアドバイスもあり、私はそのように実行しついに「無限ロケットランチャー」を手に入れたのです。

「無限ロケットランチャー」を手に入れてからの3度目のプレイは、序盤に現れる雑多なゾンビですらロケットランチャーでぶっ飛ばす快感に浸りながら、世界を手に入れたような達成感を覚えました。

当時私は身の回りに起こる出来事すべてを「バイオハザード」に例えるようになっていました。
道端に生えている雑草を見ても「グリーンハーブ」に見えました。
世の中の四角い箱すべてが「アイテムボックス」に見えるほどでした。

ゲーム本などで「タイラント」を「コンバットナイフ」のみで倒した伝説のゲーマーの存在を知り、その人物を神のように崇めたものです。

女性の20代後半ともなれば、他にすべきことは山ほどあるかと思いますが、私は26歳から29歳までの約3年間、この「バイオハザード」シリーズに人生の貴重な時間を捧げてしまったのです。

仕事の面接のときも、「毒蛇ヨーン」に襲われたリチャードを救うための「血清」をいかに早く「西の物置部屋」に取りに行けるか考えていました。

可愛がってくれた叔母のお葬式の時も、「ハンター」を倒すためいかにしてコンバットマグナムの弾を節約し硫酸弾で戦えるか考えていました。

両親があらゆるコネクションを総動員して、苦心惨憺セッティングしてくれたお見合いの席でも、「タイラント」の襲撃をかわして仲間がヘリから落としてくれるロケットランチャーを拾い発射できるタイミングを考えていました。

当時から大人気だったバイオハザードシリーズは次々と新作が発売され、私も「バイオハザード2」までは楽しくプレイしたものの、「バイオハザード3」のネメシスのあまりの強さに挫折し、壁にぶち当たってしまったのです。

箸休めに「R?MJ」というゲームをジャケ買いしプレイしてみたものの、後に正式にクソゲー認定されたほどつまらない作品でした。
初めてクソゲーの洗礼を受けた私は、なぜかゲーム熱が醒めてしまい、「バイオハザード」から卒業することになったのです。

「バイオハザード」に費やした時間・・・
それを他のもっと有意義な事に使っていたら、私の人生はもっと良い方向に変っていたかもしれません。
貴重な時間を自分磨きに使っていたならば、私は今の夫よりもっと分別のある良い人に見染めてもらい、借金の心配などしなくて良かったのかもしれないのです。


4Kなどの高画質なゲームが主流になっている現在からみれば、当時のポリゴンのカクカクとした動きはあまりにショボいと言えるかもしれません。

現在発売されている実写と見紛うばかりの高画質の「バイオハザードRE:4」などはもはや私の知るバイオハザードではありません。
夫がプレイしているのを見ていたことがあるのですが、キャラクターが無敵過ぎて、ゲーム性が失われているように思うのです。
私の「バイオハザード」はポリゴンのカクカクとした不自然な動き、ギイ~ッという音と共にゆっくり開く扉、限られた弾薬をいかに有効に使うかに頭を絞るゲームなのです。

大恋愛などしたことの無い私ですが、今でも「バイオハザード」の事を考えると、昔付き合っていた恋人を思い出すような気持になります。

借金残額 令和5年5月現在 7,318,757円












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