妊娠発表

2020/8/10


夜に発表しようと思っていたが待ちきれず、
10日の朝9時すぎに夫に発表することにする。
黙ってられない。
一刻も早く夫と喜びを分かち合いたい。

発表方法はマジックでする。
2年くらい前から子どもを授かったときのサプライズの仕方について考えてきていたのだ。
マジックにしよう!と決めたのは1年前くらいだ。
調べてみて誰もしてないと思ったし
自分もやってて楽しいと思ったから。

実は数日前から仕込みはしていた。
夫にマジックの動画を見てる〜と言ったり
実際に簡単なマジックをやってみせたりした。
夫は今、わたしがマジックにハマっていると思っている。
まだ妊娠してるか分かってないのに私は既に妊娠していることを予感していたのだ。
下準備はばっちりなので、これで私が突然新作のマジックをしても不審には思わないだろう。
昨日の夜には夫が寝静まった後、マジックのリハーサルまでした。
頭で何度もイメージトレーニングもした。
完璧だ。

すべての機器をセットしてから、夫に声をかける。
今から新作のマジックをするから録画してほしい、と。
ちょっと予想はしていたが夫のテンションが低い。
少し、いやかなり面倒くさそうだ。
また何か変なことやりだしたな、と顔に書いてある。
しかしめげない。
私には大切なことを伝える使命があるのだ。

嫌そうな夫を無理矢理ソファに座らせ、正面に立つ。
早く終われ、という空気を敏感に読み取り
なんだかすごく緊張してきた。
重役にプレゼンする新入社員のような気持ちだ。
緊張で声が震える。
なぜ幸せなことを夫に報告するだけなのにこんなに緊張してるのだ私は。
あんなに完璧に覚えたセリフを一度、間違える。
やり直し。
テイクツーだ。
ちょっと冷や汗が出た。
正直マジックもマジックといえるものではない。
背中に隠していた赤ちゃんの絵を、お腹に貼りかえるという子どもでもできるやつだ。
赤ちゃんの絵を背中から剥がすとき
バリバリという無機質なガムテープの音が聞こえる。
やばいな、と思いながらマジックを進める。
頑張ってテンションを上げる私と、無表情で携帯を手に録画をしている夫という地獄絵図。
冷たい空気が流れている。
焦る。
しかし夫の無表情もここまでだ!
さあ驚くがいい。
スリー、ツー、ワン。
「妊娠しました!!」
赤ちゃんの絵と共に私の本物の笑顔を向ける。

第一声は「おお!」
あれれ、そんなにびっくりしてないな。
さすが冷静な夫だ。

しかし一気に和やかな空気になった。
妊娠検査薬を見せ、あれこれ話し合う。
夫も今回妊娠してると思っていたらしい。
感の強い夫婦だ。
検査薬を眺める嬉しそうな顔の夫を見てこちらもまた嬉しくなってくる。
幸せだ。
サプライズはまあ、成功だろう。

せっかく録画してもらったムービーはいい感じに編集して残そう。
あの殺伐とした空気は微塵も感じさせないぞ。