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乳がんになった時のこと 3
「病院までの道のりは遠い」
おりしも、2017年。
ちょうど小林麻央さんが乳がんで亡くなった後で、世の中の女性が乳がんに対して意識をしている頃だった。ホームページで市内の乳腺外科を調べると、診察に来る人が多いようで「初診1ヶ月待ち」と書かれている。
正直、この段階で私はめんどくさくなっていた。もう半年すると40歳になり、市から無料の乳がん検診のクーポン券が送られてくる。それまで待とうかなー、と思った。別に今のところ体調に別状はないし、何もそんなに急がなくてもいいだろうと考えた。
ある日、遠方に住む真ん中の姉から、子どもの小さくなった洋服を送ったから、おさがりで良ければ着てやって、と電話がかかってきた。その時、なんの気なしに胸にゴリゴリしたものができてる」と話した。真ん中の姉は看護師免許を持っているので、普段から健康に関することを話すことが多かった。
姉「え!しこりじゃない?いつ気がついたの?」
私「えーっと(まずい。本当のこと言ったら怒られそう)1週間前ぐらいかな」
姉「とりあえず近くの乳腺外科に予約とって診てもらってきて。」
私「でも初診1ヶ月待ちとかになってるねんなぁ」
姉「電話でしこりがあると言えば、早く見てくれるかもしれないから電話して!」
私は3人姉妹の末っ子で、姉2人とは少し歳が離れてることもあり、小さい頃から色々な事を相談して助けてもらう立場だった。姉の言うことは聞かなければいけないという刷り込みがある。
それで次の日、電話をしたかというと、しなかった。
後から考えれば、これが「がんの怖さ」なんだろうと思う。私は病院嫌いというわけでもなく、熱が出たり体調が悪ければ、必ずかかりつけの医者に行って診てもらう。市販薬でなんとかしようとは思わないタイプ。
ただし「体調が悪ければ」だ。今回は全くどこも調子が悪くない。それなのに、行ったことのない病院にわざわざ電話して説明して予約をとって電車に乗って診察に行くというのは、どう考えてもめんどくさい。そんなに暇じゃねーよと思ってしまった。
それから1週間ほど経ち、いつも飲んでいる花粉症の薬が切れたことに気づいた。私は秋の花粉症でこの時期は抗アレルギー剤が欠かせなかった。かかりつけの病院に、薬だけもらいに行くことにした。
その日はしょぼしょぼと雨が降っていて少し寒く、いつもお年寄りで混んでいる病院だけど、私しか患者がいなかった。看護師さんだけが受付に3人いた。子どもたちもかかっている病院なので、看護師さんたちも顔見知りだ。
「いつもの花粉症の薬をいただけますか」と診察券を出す時、ふと姉の顔がよぎった。
「それでちょっとご相談なんですけど…、胸にしこりみたいなものがあるみたいなんです。」そこは普通の内科で、乳腺外科ではない。ここで相談しても…とは思ったが、とりあえず言ってみた。よく知る病院だし、自分しか患者はいないし、という気軽さで言葉が口をついて出た。
看護師さんは少し驚いたような顔をして
「先生に話してみますが、他の病院を紹介するという形になるかもしれません。うちは専門ではないので」と言った。
「あ、それでいいです」と私は言った。
その5分後、私はエコーで自分の胸に白くて丸い石のようなものが写っているのを見ることになる。
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