『良いテロリストのための教科書』刊行記念トークライブ(2017.9.13)(その1)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2017年9月に上梓した『良いテロリストのための教科書』(青林堂!)の〝刊行記念トークライブ〟の模様である。2017年9月13日に東京・高円寺のイベント・スペース「パンディット」で開催され(なお本が店頭に並び始めたのは、一部フライング店を除いて9月11日で、つまり発売翌々日の販促イベントである)、この全文テキスト起こしは紙版『人民の敵』第35号および第43号に掲載された。
 〝司会〟的な役目を〝反体制おもしろ知識人〟を標榜する中川文人氏が務めており、観客として来場していた〝ヘイト・アーティスト〟の佐藤悟志氏も半ば〝ゲスト〟的に発言を強要(?)されている。

 第1部は原稿用紙25枚分、うち冒頭9枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその9枚分も含む。

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 運動史を次代に継承する使命

外山 (途中から録音。おそらく「なぜ青林堂から?」的な質問に答えているのだと思われる)外山恒一の本って、だいたい千部どまりなんです。知名度は充分あるのに、なぜ千部しか売れないかというと、彩流社をはじめ弱小出版社しかぼくの本を出してくれないからです(笑)。流通力がないので、外山恒一の本が出てることを知れば買うかもしれない潜在的読者たちに、本が出てるという情報自体が届かない。例の政見放送の〝大ファン〟を自称する人のほとんどが、ぼくに過去10冊以上の著作があることすら、今なおまったく知らないはずです。
 つまり〝千部〟の壁を突破するためには、そこらへんの本屋の店頭に並べられるだけの、できれば大出版社、少なくとも中堅以上の出版社から本を出さなければいけない。……ということで、大中のいろんな出版社に、ここ2年くらい企画を持ち込んだりしていたんですが、どこからも相手にされず、で、昨年、もしかして〝あの青林堂〟なら〝外山恒一の本〟を面白がって出してくれるんじゃないかと思いつき、メールで「こんな企画があるんですが、話だけでも聞いてもらえませんか」と連絡してみたわけです。そしたら「まあ話だけなら聞いてやってもいい」的な返事が来まして、じっさい編集者に会ってみたら、やっぱり最初は〝反日極左が来た〟と警戒されてましたね(笑)。だからまず誤解を解かなければと、「昔は左翼だったこともありますが、今は更生して、むしろ左翼は敵だと考えるファシストになっています」と説明するところから始まって、やがて相手もだんだん警戒を解いてくれて、最終的には「じゃあ出しましょうか」という方向で話がまとまりました。

中川 そんなことがあったのか。(客席へ)ゲストの佐藤(悟志)さんはどう思いますか。

佐藤 ゲストじゃないよ、客だよ(笑)。お金払ったんだし。

中川 まあまあ、そんなこと云わずに。活動家は目立ってナンボなんだから(と佐藤氏をステージに上げる)。
 ……目次を拝見しますと、私としてはやはり、「60年代学生運動が〝試合に負けて勝負に勝って〟ポリコレ化がはじまった! 新左翼運動史・概説」と題された第2章ですよ。このかん私もいろいろな運動を見てきましたが、みんなあまりにも基礎教養がないんだ。自分たちが使っている言葉がどこから出てきたのかも知らなかったりする。そのあたりをきちんとまとめるという使命感を、外山さんはお持ちなんだろうと思います。

外山 そうね。やっぱり今、右の人も左の人も過去の運動の歴史を知らなすぎる。それで、ご存知の方もあるかと思いますが、年2回、学生の春休みと夏休みに合わせて、ツイッターとかで呼びかけて現役学生を毎回10人ぐらいずつ全国から集めて、1週間から10日間ぐらい〝9時5時〟でひたすら左翼運動史を勉強する、という合宿をやっていたりもします。左右の活動家だけでなく研究者志望の学生であれ、あるいはそういうものとは関係なくても、これぐらいの教養は押さえておこうよ、と云いたくなるような場面はここ10年ぐらい多々ありましたから。


 〝予備知識が共有されず議論が噛み合わない〟問題

外山 ……まだ読まれてない方も、受付で買ったばかりの方もあるでしょうが、この『良いテロリストのための教科書』というのは、売れ筋を考えて編集者がつけたタイトルで、まあ帯文も含めて、内容とはズレてるんですよ。

中川 あら、そうですか。

外山 ぼくが青林堂に提案したタイトルは『愛国者のための左翼入門』だったんです。イメージとしては〝右翼のための左翼入門〟なんですけど、〝右翼〟呼ばわりすると機嫌を損ねる右翼も多そうなので(笑)、彼らのセルフ・イメージであろう〝愛国者〟ってことにして、その上で〝敵を知れ〟というコンセプトで書いた。
 全4章のうち最初の3章は、延々と〝左翼運動の歴史〟を解説してます。第1章は、〝左翼〟というのはそもそもどういう立場で、どういう経緯で生まれてきたのか。第2章は、戦後の学生運動の歴史で、つまりいわゆるナントカ派がどうこうとか〝全共闘〟とかの話をしてる。第3章は、それらが一段落した80年代以降、今の反原連とかシールズとか、あるいはこの会場のすぐ隣に〝12号店〟(イベント・スペース)がある「素人の乱」とか、最近の新しい運動の話です。で、最後の第4章で、それらを踏まえた上で、〝愛国者〟の皆さんはどうすれば〝反日極左〟の連中を叩き潰せるのか、という提起をおこなう、という本。

中川 素晴らしい。……いろんな議論を見ていても、お互いに使ってる言葉の定義が違うから何にも話が噛み合わない、という場面がよくある。「おまえは極左だろ」、「いや、オレは極左じゃない」というようなね。そもそもこの〝極左〟というのは公安用語であって、極左の運動をやっている人が自分で「オレは極左だ」なんて云うことはありません(笑)。

外山 自嘲的に云う場合は別としてね。

中川 そう、冗談で「オレたちはどうせ極左だからよぉ」とか云うことはあっても、「オレは極左運動をやってるんだ!」と云うバカはいないわけです(笑)。

外山 〝極左〟どころか、「自分たちこそ正しいド真ん中、王道の左翼だ」と、左翼はみんな思ってる。

中川 〝自分がいちばん正しい〟と思い込むのが左翼思想の基本でございますからね。〝極端なこと〟を云ってるのは全部間違った連中で、自分たちだけが正しい。それが左翼思想、それが共産主義です。そんなことはまあいいとして……さっそく質問タイムにしましょうか。

外山 まあ、それでもいいですよ(笑)。


 『良いテロ〜』の執筆動機

中川 この本をすでに読んだ方は?

 (かなり手が挙がる)

外山 結構いますね。

中川 では、読んだ方から順番に、「素晴らしい本だ!」という宣伝をしていただきましょう(笑)。今日の趣旨に合った発言をね。「ぜひ、みんなに読んで欲しい!」という思いを語ってください。はい、じゃあ一番向こう側で手を挙げてた方、どうぞ。

外山 マイクは回せるんですか?

奥野(店長) 回せます。すみません、バケツリレー方式で回していただけると助かります。

中川 〝読者の声〟というのが一番、販売に繋がりますから、今日は何よりも〝販売促進企画〟ということで……。

観客1 発売初日に池袋のジュンク堂で買いまして、今日までに2回読んでいます。

一同 おぉーっ!(拍手)

中川 誤字とか探してたりしてね(笑)。

外山 誤字・脱字等を発見してくれた方には、本来は5千円を出さなきゃ入手できない紙版『人民の敵』を、バックナンバーからどれでも1冊、無料で進呈します。

観客1 誤字は今のところ見当たりませんでしたが(笑)、私はネットに上がってる外山さんの記事などは全部ひと通り読ませていただいてます。私は28歳で、昔のことについては知らなかったし、今さら他人に訊けないようなことがたくさん書いてあって……。

中川 『今さら聞けない左翼入門』でもよかったんじゃない?(笑)

観客1 で、ひとつ質問があるんですが……。

中川 お、企画の意図を分かってるじゃないですか。素晴らしい!

観客1 私は「名も無き市民の会」というネット右翼団体に入っているんですけど、私の周りのそういう、〝ファシストちっく〟な人たちを見ていると……。

中川 ファシストちっく(笑)。

観客1 やはり皆さん、左翼的な心情から出発して、「なんか違う」という過程を経て、〝ファシスト〟とか、あるいはネット右翼になってるんです。

外山 この佐藤悟志もそうですね。

観客1 ええ、佐藤さんも含めて、そういう人が多いように見受けられる。しかし一方、今のネトウヨの人たちって、ネオリベの人が多い気がするんですよ。そしてネオリベの人たちを説得するのって、かなり難しいように感じられます。なので、ネトウヨを説得してファシストになってもらうより、左翼を説得してファシストになってもらうほうが、ラクだし確実だと思うんです。それなのに、こういう本を出したのは、やはり版元の関係なんでしょうか?

外山 えーと……まず、2回も読んでいただいてありがとうございます(笑)。もちろん、〝青林堂に持ち込む〟ということを思いついた段階で、〝青林堂から出す〟としたらどういうものがいいか、という発想はしますよね。版元のカラーとは無関係に〝外山恒一入門〟的なものを出すことも考えてたし、いずれ早いうちにまずそういうものを出さなきゃならないのは現時点でもそうなんですけど、青林堂が〝外山恒一入門〟にあまり気乗りしないようであれば、やっぱり〝右翼のための左翼入門〟かな、と。実際、〝外山恒一入門〟的なものには難色を示されたので、じゃあってことで、青林堂から何か出すこと自体は決まってから、書き始めました。

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