世界最過激思想家・千坂恭二氏との対談2015.08.16「人民が笑顔で暮らせるファシズム社会」(その4)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その3」から続いて、これで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 福岡でおこなわれた第3回「教養強化合宿」(2015年8月9〜15日)の最終夜ゲストに大阪からお呼びした世界最過激思想家・千坂恭二氏との、その翌日(2015年8月16日)の対談というか座談会である。紙版『人民の敵』第12号に掲載された。
 文中「山本」は山本桜子、「東野」は東野大地で、いずれも九州ファシスト党〈我々団〉の党員である。

 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。他のコンテンツもそうだが、[ ]部分は料金設定(原稿用紙1枚分10円)に際して算入していない。
 第4部は原稿用紙換算26枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定はその8枚分も含む。

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 〝選挙行くな〟派の若手批評家がいない

外山 この15年ぐらいで大量に出てきた若手の批評家たちにも、〝選挙行くな〟派ってほんと、いないよね。東浩紀が昨年の衆院選だかで棄権を肯定して叩かれてたけど、その東が云ったことだって「こんなんじゃ投票しても意味ない」的なレベルの選挙批判を出るものではないし、なんでこんなにバカばっかりなのか。

千坂 あるいは逆にもし投票に行けば安倍を辞めさせられるんだとして、だから何なんだ、と。首相が代わったところで何も変わらないじゃないか。我々は首相の交代を要求しても仕方ないんだよ。政治体制の原理そのものを変えることを目指すのでなければいけない。資本主義体制の枠内で首相や政権与党が入れ替わっても何の意義も認められないのであって、我々であれば、ファシズム体制が実現するのでなければ何ら勝利したことにならない。……まあ、〝政治〟そのものが思想的な問題ではなく政策的な問題になっちゃうのが資本主義だからね。思想的な問題というのは理念の問題だけど、政策的な問題というのは単にどうすれば現行のシステムがもっと円滑に動くようになるかって問題にすぎない。

外山 政治的に反体制であろうとすれば、現行の政治体制は議会制民主主義なのであって、したがって議会制民主主義の打倒を目指さなきゃならないはずなのに、なに議会制民主主義に参加してんだ、ってことですよ。

千坂 やっぱりみんな、議会制民主主義を潰すことが怖いんじゃないかな。議会制民主主義を潰すと、とんでもないことになるんじゃないか、という不安があるんでしょう。……実際、とんでもないことになるんだけどさ(笑)。

外山 とんでもないことにするのが革命なんだから、とんでもないことになるのを恐れてちゃダメですよね(笑)。

千坂 とりあえず1度やってみりゃいいんだよ。エンゲルスも「プディングの味は食ってみなければ分からない」と云ってる。まずやってみなきゃ。

外山 こないだの〝ニセ選挙運動〟でも桜子が街宣してましたよ。「民主主義に頼らないという、まだ世界のどこでも上手くいったことがない政治体制。だけどチャレンジさせてください!」って(笑)。

東野 再チャレンジ!


 ファシズムは心が通い合う温かい政治体制

千坂 ファシズムって、底なしの〝妥協政治〟なんだ。ある種の〝談合〟政治。〝原理〟を持たないことがファシズムの核心だから、問題が生じたら、その都度その都度、話し合いで落としどころを探ることになる。つまりむしろ一番〝温かい政治〟なんじゃないかな(笑)。常に臨機応変で、一切が〝例外〟だらけというのがファシズム政治だよ。

外山 うん。理念による杓子定規を拒絶するための〝独裁〟なんです。権力者の〝裁量の余地〟を無限に拡大するということ。

千坂 例の「誰がユダヤ人かはオレが決める」ってセリフに象徴されてる。

外山 千坂さんお得意の、〝ファシズムちょっといい話〟だ(笑)。

千坂 ナチスがパリを占領した時にベルグソンはパリにいて、ゲシュタポは当然、ユダヤ人であるベルグソンを逮捕しようとするんだけど、幹部から許可してもらえないの。「誰がユダヤ人かはオレが決める。ベルグソン先生はユダヤ人ではない。なぜならこのオレが尊敬しているからだ」って論理(笑)。ナチスの幹部にはやっぱりベルグソンのファンが多かったらしい。

外山 ナチスに反抗的だったユンガーも、ヒトラーがユンガーを尊敬してたから逮捕できなかったんですよね(笑)。

千坂 そう、親衛隊のヒムラーは何が何でもユンガーを逮捕したかったらしくて、何度もユンガー宅の家宅捜査もしてるんだけど、ヒトラーがやめさせた。同じように第一次大戦の戦場で戦ったヒトラーにとって、ドイツ軍の若き特攻隊長で、最高の武勲に輝くユンガーは英雄だったんだよ。そういう意味では一番〝温かい〟、複雑な人間社会の機微に配慮して、痒いところに手が届く〝血の通った〟政治体制だよ。

外山 その時々の都合で法律なんかねじ曲げてもいいんですから(笑)。

千坂 法治主義じゃなくて徳治主義。

外山 法律は〝参考〟程度の基準。〝法律のない社会〟というアナキズムの理想の1つがおおよそ実現されるわけです。

千坂 一歩間違うと〝袖の下政治〟になっちゃうんだけどね(笑)。でもやっぱり〝原理原則〟が隅々にまで徹底されたら、冷たい社会になるんだ。〝法に定められてるんですから、例外は認めません〟っていう。

外山 ファシズム体制では、法は〝目安〟でしかない。政府は、要は裁量権を付与された担当者を各地、各部門に配置していく機関になる。〝コイツに任せとけばそうそう間違いは起きないだろう〟っていう、バランス感覚の優れた人間を見極めて各所の担当者に任命する、その人選に際しての〝人を見る目〟だけがファシズム政権中枢に求められる。

千坂 実際にファシズムは〝二重行政〟だったでしょ。あれはいいところがあって、一方で各地の〝知事〟は行政官だから、やっぱり〝原理原則〟で動くんだ。例外は認めません、っていう存在。ところがもう一方にナチスの〝大管区指導官〟というのがいて、こっちは「まあまあ、まあまあ」って〝例外〟を認める役回りなの。ケース・バイ・ケースで、どっちに問題を調停させるか、政府は対応を選択できるんだ。問題の性質によって政府は態度を使い分けられる。あの二重体制は面白い。知事は法治主義で、大管区指導官は徳治主義(笑)。

外山 法をねじ曲げるのが大管区指導官の役割なんですね(笑)。要するに、杓子定規でしかあり得ない〝官僚組織〟の上位に〝党〟が存在してる。とくに問題が起きない限りは官僚組織に任せておいて、何か問題が起きたら党がしゃしゃり出て、適当に采配するってこと。

千坂 そうそう。「まあ、いいじゃないか」って(笑)。「ここはひとつオレの顔に免じて」的に官僚行政に割って入ってくる。……温かいねえ(笑)。

外山 〝政治は心〟ですよ(笑)。

千坂 みんなが笑顔で暮らせる社会を目指す。新興宗教か(笑)。

山本 以前、東野と2人で〝人民の笑顔が第一〟みたいなアート・グループをでっち上げましたよ。

外山 人民がみんな笑顔で暮らしてくれれば、我々指導部としてもとっても嬉しい、と。

千坂 本当に〝いい政治〟だよ。仁徳天皇を目指そう。仁徳天皇は民の家々に竃の煙が立つのを見て、自分の政治が上手くいってることを確認した。我々も、人民の笑顔こそ我々に対する最高の贈り物です、という心構えでいこう。

外山 なんか……自民党みたいですね(笑)。


 〝お祭り男〟なファシストたちは実務には向かない

千坂 だけどまあ、ファシズムの〝原理〟って、イデオロギー的な原理とはまた違う種類の、例えばそういう〝二重体制でやっていくんだ〟とか……。

外山 「原理なんて、あくまでも原理にすぎません」ってことを原理化(笑)。

千坂 むしろ究極のヒューマニズムかもしれない(笑)。

外山 人間が〝原理〟なんかに拝跪させられてたまるか、っていう。何であろうと最終的に丸く収まればそれでいいじゃないか、ってことですよね。

千坂 人々がみんな、毎日ちゃんとした食事を摂れて、充分に寝られて、仕事に汗を流して、月に1、2回は必ず何か娯楽的なイベントがあって、そこで人々はファシズム体制の偉大さを学びながら歌って踊って……。ファシストって、とにかく〝行事〟が好きなんだ。ヒマさえあれば何か行事を作って、行進して(笑)、要は〝お祭り騒ぎ〟が好きなんだね。〝お祭り政治〟なの。

外山 ファシスト党というのは〝お祭り男〟の集まりである、と。

東野 ナチスの党大会の会場周辺では人民が露店を出したりしてたんです。

山本 へー。

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