絓秀実氏との対談(2015年3月3日)・その4

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 「その3」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 日本を代表する知識人・絓秀実氏との対談である。2015年3月3日におこなわれ、紙版『人民の敵』第7号に掲載された。
 2020年4月現在、コロナ騒動の渦中で外山は〝不要不急の外出〟闘争を鋭意敢行中であり、読みにくいかもしれないが、今回は小見出しをつけたり一部太字化したりなどの編集をおこなう時間的余裕がない。
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 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。他のコンテンツもそうだが、[ ]部分は料金設定(原稿用紙1枚分10円)に際して算入していない。
 第4部は原稿用紙換算23枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読める。ただし料金設定はその7枚分も含む。

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外山 ……ところで全然違う話ですが、絓さんも呟いてたとおり、ピケティ(註.格差問題を専門とするフランスの経済学者。大著『21世紀の資本』が昨年末に訳刊され、大いに売れている。らしい)ってのが流行ってますよね。あれはなぜ流行ってるんですか?

 格差を縮めましょう、って話ですよ。民主党みたいなことが書いてあるだけ。金持ちや企業からもっと税金を取ってきちんと再分配しないと、格差は開く一方ですよ、と。ただしそのためにはまず景気を良くしなきゃいけない、って話みたいなんですけどね。〝リフレ派〟っているでしょ。荻上チキもそうだし、山形(浩生)君なんかもそうだけど、あいつらが云ってるのは要するに〝民主党がアベノミクスをやればよかったんだ〟ってことなんだよ。

外山 えーと、それはつまり、〝再分配〟を念頭に置いてる人たちによって〝経済成長〟政策がおこなわれるべきだ、って意味ですか?

 そうそう。だから民主党が規制緩和をやればよかった、リフレをやればよかった、ってことになる。だけどそんなことは基本的にありえなくて、リアリティを欠く話なんだ。そんなことにリアリティがあるとリフレ派が思ってしまう時点で、どうしようもないと思うけどね。

外山 〝リアリティがない〟というのは、どうしてですか?

 だってTPPなんかも含めて、日本でも、格差拡大を結果するネオリベ政策をやることが経済成長なんだもん。再分配なんてせいぜい民主党が選挙用に使えるフレーズであるにすぎなくて、資本主義で本気でやれることじゃないですよ。

外山 再分配を犠牲にしなきゃ経済成長ができない状況に現在あるってことですか?

 たぶんそう。かつての田中角栄なんかの時代なら、〝再分配〟と〝経済成長〟を同時に進めることも、具体的にはドーンと公共事業をやるとかって形で可能だったんです。もちろん今の安倍ちゃんだって、オリンピックを念頭にバンバン公共事業はやってますよね。それで少しはお金が回転するのかもしれないけど、回転するだけだとも云える。公共事業を云々することも、もしかしたら選挙用の〝見せ金〟としては効くんでしょうが、実際に本格的にやることはできないでしょう。

外山 公共事業をやろうにも、もはやオリンピックとか、イベント的な一過性のものとしてしか使えないってことですか?

 農村だって解体せざるをえないような状況ですよ。大規模農家だけ残せばいい、と。しかしそういう政策を断行することによって自民党は、それまで農協の傘下に組織されていた大票田を捨てなきゃならなくなるわけですよね。
 今は選挙での投票行動やマスコミの論調なんかより、株価こそが世論だ、っていう状況でしょ。株価こそ〝一般意思〟である、と。もちろんそんなのも嘘、フィクションだけどさ(笑)。でもとりあえず、議会政治が空洞化してるぶん、株価こそが本当の民意を反映してるかのように見なされている。株価というのはつまり〝日々の国民投票〟みたいなもんで、株価が上がってる以上は安倍政権が支持されてるってことになるし、逆に云うとそれ以外に指標がないんだよ。だから株価を維持することが政府の至上命題になる。金融緩和をどんどん進めて、もちろんある程度は〝再分配〟にも留意してますよというポーズだけは見せながら、とにかく企業収益を上げて株価を安定させることでしか、民意を操作することもできないし、民意に支持されてることをアピールすることもできないんだ。
 これまでの日本の再分配制度は、国民健康保険にしても年金制度にしても、それなりによくできてたと思いますよ(笑)。だけどそれらを低減させていく方向でしか、経済成長や景気回復はできないって状況にある。それをピケティは、富裕層からバーンと税金を取って再分配しろと云ってるんだけど、そんなこと絶対にできないんだから。それをやったら〝統制経済〟になっちゃうし、ファシズムか社会主義でしょ。それらの選択肢が完全に消去されて、自由主義経済だけが前提になってるという状況を無視した議論ですよ。

外山 普通の意味での社会主義であれ、国家社会主義であれ、過去にも〝再分配〟を重視する思想が提起されてきたのに、どうして今さらピケティに飛びつくんですか?

 経済学的なデータをきちんと提示してるから。

外山 学問的な緻密な経済分析に基づいてる、と。

 うん。このまま行くと〝1%〟の富裕層だけがますます豊かになって、〝99%〟はますます貧困化していくっていう、実感としては多くの人がすでにそんな気がしてたことを、きちんと〝実証〟したってことじゃないかな。で、処方箋は〝再分配〟しかないって。もちろん本当にそれが可能なんだったら、とりあえず、やればいいと思いますけどね(笑)。

外山 あちこちで急にピケティ、ピケティって目にするようになったもんだから……。

 〝一見リアリティがある〟ってだけですよ。世の中の趨勢とは完全にかけ離れてるんだし、ある種の〝ガセ〟だと思うな。

外山 つまり格差がどんどん拡大していくっていう……。

 このまま資本主義を推し進めていけば当然そうなるわけです。だから統制しなきゃいけない、と。だけど統制できないから問題なんでしょ。経済を成長させるために統制を緩めようとしてるところなんだから。

外山 資本主義以外の選択肢は存在しないってことを前提にすれば、このままだと格差はますますヒドくなるし、ピケティの本はそれを再確認した上での、〝このままじゃマズいと思うでしょ?〟って問題提起以上ではない、ということかな?

 税金をもっと取るべきだって話になるんだけど、それはもうやってるんです。相続税の制度をちょっと改定して、これまでいわゆる中産階級は相続税を取られなかったけど、取られるようになった。相続税を多く取るようにするのは一見、再分配の政策であって、良いように思うかもしれないし、ピケティも相続税をもっと取れって云ってるんだけど、実際には本当の富裕層にとっては痛くも痒くもない改定がおこなわれて、単に中産階級からも取られるようになったというだけなんだ(笑)。もちろん再分配は進めるべきだけど、そもそも富裕層ってもともと税金逃れが上手い人たちなんです。単に富裕層への課税率を上げたところで、資産隠しをされて実際にはほとんど取れない。結果として〝中の下〟の人たちが上手くやれずに税金をいっぱい取られて、下層に転落していくっていう(笑)。

外山 リベラルというか、穏健左派の人たちは最近、何に展望を見出してるんでしょう? 〝安倍を倒せ〟の大合唱は相変わらず続いてるけど、実際どうやって倒すつもりなのか……。そもそも倒してどうするのか(笑)。

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