絓秀実氏との対談(2016年6月17日)・その6

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 〈「その5」から続いてこれで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 標題にもあるとおり、2016年6月の対話である。場所は絓氏の地元に近い埼玉県の居酒屋。
 第6部は原稿用紙換算23枚分、うち冒頭5枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその5枚分も含む。

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 「ドブネズミ系」という用語の浸透

 情報収集するにつけ、結局いろんな運動の現場にいるのは年寄りばっかりだよ。外山君ももう40代だけど、それでも“若い”って感じでしょ。

外山 とはいえ、ぼくら“ドブネズミ世代”の活動家はそれなりに多くて、運動シーンにおいて“第2の団塊世代”を成してる。

 それはそうなんだよね。

外山 ネトウヨvsしばき隊で、お互いに相手の個人情報を調べあげて暴露し合ってたじゃないですか。で、そうやって“身バレ”してみると、どっちもだいたい同世代なんですもん(笑)。あるいはぼくらより上だったりする。20代とか、やっぱりどうもほとんどいない。

 しかし、その人たちにしてからが、「立憲主義」とか「護憲」とか云ってるのも多いでしょ、シールズや共産党たちと一緒に。

外山 シールズだけ別枠で若いんですけど、若いだけで、直接行動派ではなく議会政治志向ですしね。“ドブネズミ世代”の中でも30代40代になって“運動デビュー”してきたような“遅れた人たち”が、当然センスも悪いわけですから(笑)、シールズとくっついてる。

 いま書いている“柳田国男論”の関係もあって、ちょっと調べたんだけど……戦後憲法というのは、一応、合法的に成立したというタテマエになっているんだけど、それに対して、これは合法的に成立してないという説で抵抗したのが、美濃部達吉なんだ。あの、大正デモクラシーの泰斗である美濃部が、戦後憲法にただ1人、疑義を呈したんです。オレは美濃部説が正しいと思っていて、そもそも何ら正当性を持たない憲法を後生大事に戴いて、「立憲主義」とか言っても、そりゃあ理が立たないでしょう。
 ……外山君の野間(易通)氏との対談イベントにも行ってみたいけどね。野間サンもどうやらオレの本(『反原発の思想史 冷戦からフクシマへ』筑摩叢書・12年)を読んでくれてるみたいだしさ(笑)。

外山 (後註.のちに『3・11後の叛乱』として書籍化される、集英社サイトでの笠井潔氏との往復書簡で)引用されてましたもんね。

 “ドブネズミが……”って。

外山 それをまた笠井(潔)さんが、たぶんよく分かりもしないまま引用してる(笑)。


 笠井潔氏と華青闘告発

 笠井については、やっぱり外山君の云うとおりだと思うよ。長らく現場に出てなかったから認識がちょっとズレてるんでしょう。

外山 マスメディアのフィルターを通してしか若い世代の運動状況を把握できてないと思う。

 千坂さんともそういう話になったけど、なんで白井聡なんかとつるむのか……。しかも次は野間かよ、と。

外山 選択がことごとく間違ってますよね。少なくとも東浩紀、野間易通については大間違いです(後註.この時点では外山はまだ白井氏の著作を1冊も読んでいないので判断留保している)。

 そこらへんがまさにベ平連、共労党(共産主義労働者党。笠井氏が学生組織の指導者だった)の悪いところ(笑)。オレの視点から云うと、やっぱり笠井は、華青闘告発や津村(喬)の問題をずっとカッコに入れて、ごまかし続けてきたんですよ。当然、笠井はああいうものに反発してた側の人だけど……。

外山 共労党は華青闘告発にどう対応したんですか?

 もちろん受け入れたんです。というか、むしろ一番最初に受け入れたのが共労党。

外山 へー。

 そもそも共労党の右派と津村は近かったの。笠井は共労党左派として、右派と対立してたんだし、華青闘告発にも津村にも反発してたと思う。しかし華青闘や津村が提起したことが重要な問題であることは確かなんです。彼らの新左翼批判を全面的に受け入れる必要はないけど、真剣な検討の対象にはせざるを得なかったはずですよ。しかしそれを笠井はずっとカッコに入れてきた。だからヘイトスピーチが云々という状況になって、津村的な問題領域と向き合わざるをえなくなった時に……。

外山 確固たる方針がないわけですね。

 笠井の場合は、“劣等感”とまで云っちゃうと失礼かもしれないけど、津村に対する否定的なこだわりはずっとあるはずです。もちろん現在の津村がいいというわけでもなく、オレはむしろ批判的ですけど……。


 酒井隆史&矢部史郎派と木下ちがや=共産党の確執

 最近、航思社という版元から津村の『戦略とスタイル』という古い本が復刊されて、それに酒井隆史が長い解説を寄せてるんですよ(『戦略とスタイル』の解説は高祖岩三郎が書いており、酒井の解説は、同じく航思社刊の津村の単行本未収録論文アンソロジー『横議横行論』にあるようだ)。それもまた興味深い現象で、実は“木下ちがや問題”なんだよね。

外山 木下ちがやって、シールズ界隈でよく名前を見る若手の学者ですよね(明治学院大学・非常勤講師。社会学者。71年生まれ)。

 酒井、あるいは“矢部(史郎)一派”と呼んでもいいけど、彼らがやってた『VOL』って雑誌があるでしょ。その編集委員に、木下ちがやも加わってたんです。ちがやが共産党なのは最初から分かってたわけだけど、それでもいいという判断だったのか、仲間に入れちゃったわけですね。ところがシールズが登場すると、ちがやが『VOL』がそれまで提起してきたような路線でシールズの学生たちを囲い込んで、共産党にかっさらって行っちゃった。つまり矢部一派からすれば、“庇を貸して母屋を取られた”ような格好です。

外山 さすが共産党(笑)。

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